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決闘 後編

という訳で連続投稿。


もう少しで一区切りつくので、それまでコッチを書こうかなと思ってます。最弱を待ってる方ゴメンなさい。アレって書くのがコッチよりも大変なんです。


誤字脱字の可能性大です。

「始めっ!!」


腕が振り下ろされたと同時に、ハンスが翔吾へと突撃する。手には緩やかなカーブを描くサーベル。薄紅の刀身を持つサーベルは、一目で業物だと分からせる格がある。


「一瞬で終わらせてやろう」


対して、翔吾が持つのは何の変哲も無い鉄剣。俺の魔窟の中に放り込んであった、そこらで店売りされてる様なただの剣だ。ぶっちゃけ俺に挑んできたどっかの誰かの遺品である。


武器の質なら圧倒的に向こうが上。まともに打ち合えばただの剣など両断してしまうであろう鋭さが、ハンスのサーベルには存在する。だが、


「せっかちは良くないよ」


「何っ!?」


驚愕の声を上げるハンス。本人は決まったと思ったのだろうが、残念ながら結果は違う。翔吾の振るった剣が、振り下ろされたサーベルを受け流したのだ。それも刃に触れる事無く、刀身の腹をなぞるという妙技によって。


結果、ハンスは勢いそのままに翔吾へと突っ込む形となった。


「後ろがガラ空き」


突っ込んでくるハンスを躱し、翔吾は背後へと回る。ガラ空きの背中に向けて一撃を入れようとするが、咄嗟にハンスが前へと転がる。翔吾はそれを追撃せず、ただ眺めるだけだった。


「……思ったよりやるようだな」


「それで片付けるのはどうかと思うけど。まあ、そう言う君も意外に出来る」


一旦仕切り直し。二人は互いに見つめ合い、短い言葉を交わす。


「陛下に認められた伊達では無いみたいだな。どうだ? 今謝罪するなら私の下で働かせてやるぞ?」


「君の下で? 冗談キツイよ。何で格下に雇われないといけないのさ」


「抜かせ平民風情が!!」


翔吾の挑発によって戦闘が再開する。ハンスが果敢にサーベルを振るい、翔吾がそれを防ぐ為に弾き、受け流し、躱す。時折翔吾がカウンターを加えようとするが、ハンスはそれに気付いて一歩下がる。この繰り返し。


本職と遜色の無いハイレベルな打ち合いに、俺と雄一、大人達を除く全員が圧倒されていた。


「凄い……!」


「まさかこれ程とは……想像以上です」


「流石はお兄様の親友ですね」


だが逆に、ガロンや学園長は訝し気だ。目の前の戦いの違和感に気付いたのだろう。


「何故攻撃しない? 彼の腕なら防戦一方になどならない筈じゃが……」


「まるで攻撃する気が無いみたいだな。だが何でだ?」


大人二人は首を捻る。翔吾の実力をある程度察している二人からすれば、目の前の戦いは異常なのだ。


「ヒバリ君。聞いて良いか? わしにはショウゴ君に攻撃する気が無い様に見えるのだが?」


考えても理由が分からなかったのか、学園長が聞いてくる。ガロンも同じ意見みたいだ。


「俺にもそう見える。ショウゴの実力だったら、最初の打ち合いで勝負がついていても可笑しくない。なのにアイツは受け流しただけだったし、その後も追撃しなかった。カウンターだって、素振りを見せてるだけだ」


流石は教師陣。目の前の戦いの本質を、かなり正確に見抜いている。


「お二人とも流石ですね。良く見てる。確かに翔吾には攻撃する気が無いです。今はまだ」


あの二人が戦った場合、本来ならば勝負にならない。根本的にステータスが違うし、技量の面でも翔吾の方が遥かに上だ。翔吾がその気になれば、身体能力だけでハンスを瞬殺する。ただの剣で業物のサーベルを逆に両断する事も容易い。


ハンスと翔吾の間にはそれ程までの実力差が存在する。それなのに決着が未だについていないのは、二つの理由があるからだ。


「一つ目は翔吾がハンスの心を折りにいってるから。何度も何度も打ち合って、あの坊々に実力差を教えているんです」


闘技場の方に目を向ければ、既にハンスは息を切らしていた。全力の攻撃を何度も放てば、疲労が溜まるのも当然だ。逆に翔吾は一切息切れをしていない。未だに涼しい顔をして、ハンスの剣をいなしている。


「クソっ! 何故当たらない!?」


戦闘において攻撃が全く当たらないのはかなり辛い。体力面でもそうだが、精神的に追い込まれるのだ。相手が全く疲れていない様子の場合だと尚更に。その結果、疲労と焦りによってどんどんパフォーマンスは落ちていく。そして更に焦るという悪循環。


「なるほどのう……。そう言えば、さっきショウゴ君が不利だとか言ってたが、どういう意味じゃ? この実力差なら不利になる訳が無いと思うが」


「ああ。それには訳がーー」


学園長に説明しようとした所で試合が動いた。


「攻撃が単調になってるよ」


ハンスの剣戟を、翔吾が初めてマトモに受けるたのだ。


「押しつぶしてくれるっ!」


翔吾よりも上背のあるハンスが、ここぞとばかりに力を込める。だが、しかし。


「えい」


そのまま鍔迫り合いかと思いきや、軽く翔吾が力んだ瞬間、ハンスは数メートル程吹き飛んだ。


「「「「なっ!?」」」」


ガロン、学園長、アルト、審判をしていたエクレ先生。見ていた誰もがその光景に目を疑った。魔法を使った形跡が無いのに、人が数メートルも吹っ飛んだのだ。


「あ、少し強すぎたかな?」


それをやった本人は、僅かに冷や汗を浮かべていた。如何にもやらかしたった、という感じである。


「これが不利になる理由です。翔吾の攻める気の無い理由でもあります」


「……どういう訳じゃ?」


理解が出来ないと目を疑う学園長に、俺は簡潔に説明する。


「翔吾って格下と戦うのは初めてなんですよ。ずっと格上としか戦ってきてないんで、手加減の類が一切出来ません」


急激なレベリングを行った弊害か、翔吾も雄一も格上との戦闘経験しか無い。また、ステータスが上昇した状態での試合もした事が無い。お蔭で手加減の経験が皆無なのだ。


「ほら、過剰な攻撃って反則になるでしょう?」


単騎で竜種と戦える戦士の手加減無しの攻撃。どんなに優秀であっても、学生如きに凌げる筈が無い。マトモに喰らえば死ぬ。場所によっては掠っただけで死ぬ。余波だけでも大怪我だ。


「攻撃する気が無いと言うより、攻撃出来ないんですよね。下手すれば死ぬから」


これが同格の相手や、近い実力の相手ならまた違ったのだろう。だが残念な事に、ハンスの実力は翔吾の半分にも届かない。それだと反則を取られて翔吾が負ける。


「だから待ってる。ハンスが疲弊し、最も与し易くなる時を。完全に勝利を掴める瞬間を」


心を折りにいってるのはあくまでついで。本来の翔吾の目的は、その時が来るのを虎視眈々と狙う事。


そして更に試合が動く。吹っ飛んだハンスがそのまま距離を取る。剣戟が通じ無い事に焦り、魔法へと手段を変えたのだ。


「くそっ! 【フレイム・アロー】! これならどうだ!」


「無駄だよ」


詠唱破棄によって発動した炎の矢が翔吾に迫るが、翔吾は一切慌てる事無く剣を振るって掻き消した。


「なっ!? 馬鹿な!? 魔法をただの剣で掻き消しただと!?」


「別に驚く事じゃないよ。ほら、薄く魔力を纏ってるでしょう?」


驚愕するハンスに向け、翔吾は剣を掲げて見せる。鉄剣は確かに薄っすらと魔力を帯びていた。


「そんな有って無い程度の魔力で、私の魔法を掻き消したと言うのか!」


「魔法には魔力を帯びていれば干渉出来る。魔力の多い少ないなんて、干渉のし易さが変わる程度の意味しか無いらしいよ」


魔力を纏って攻撃すれば、物理攻撃に魔法攻撃という面を持たせる事が出来る。纏わす魔力の量というのは、魔法攻撃の比率を上昇させるだけである。なので魔法攻撃という面さえあるならば、やりようによっては少ない魔力でも魔法を迎撃出来る。単純な節約術である。


「そんな馬鹿な事があるか!!」


「あるんだよ。文句はコレを考案した馬鹿に言って」


俺だよその考案した馬鹿は。文句があるなら言ってみろよコノヤロー。


「お前の頭が可笑しいんだよ」


「お前が文句言うんかい!」


雄一のボケにツッコミを入れる。そんな寸劇はさておき。俺はそろそろ決め時だと思うのだが、どうなのだろう?


「……さて、そろそろかな?」


どうやら翔吾も同じ判断らしい。ゆっくりとだが、勝利までの道筋を頭の中で描き始めている。


「一分……いや、三分だ」


「何?」


「防御に徹するのは後三分だけ。それまでに僕を倒せないと、君は負ける」


「何だと! 貴様に私が負ける訳がーー」


「そろそろ現実を見ろよ。君と僕の実力差はもう明白だ。情けを掛けてやってるんだから、僕に一撃でも当てる算段でもつけてみろ」


「っ?!!」


普段の口調を崩した翔吾は、一般人相手なら死にかねない威力の威圧を放つ。物理的な風圧を伴ったかの如き威圧によって、ハンスは顔を青くする。やっと理解したのだ。目の前に立っている少年が、自分よりも遥か高みにいる事に。目の前にいる少年が、生きるか死ぬかの殺し合いを経験している事に。


「ぐっ、クソオォぉ!!」


自棄っぱち。そんな言葉がしっくりくるぐらいにハンスは魔法を乱射した。炎の矢、風の刃、土の礫、水の球、光の槍など、幾つもの属性が翔吾を倒さんと殺到する。


「どんだけ属性持ってんだか……。本当、スペックだけは上等だなあの坊々」


属性の見本市みたいな魔法の雨には、俺ですら呆れてしまう。この世界だと大体の人が属性を持っている。しかしそれは一つだけだ。二属性以上になってくると、途端に数は減っていく。二属性持ちは優秀、三属性以上は天才という扱いだ。それなのに、ハンスは今の所五つの属性を使って見せた。光属性とか如何にもな勇者属性なのに、持ってるのは勘違い馬鹿。世の中本当に理不尽だ。


「いやいやいや! 呆れてる場合じゃないでしょ!? 幾らショウゴが強くても、あの数の魔法はヤバいって!」


確かにあの数の魔法を対処するのは難しい。普通の学生ならば大怪我しても可笑しく無い。ぶっちゃけレギュレーション違反である。


だが、それも普通の学生ならの話。


「遅いし弱いし少ない。数に頼るにしても、もっと弾幕を厚くしないと効かないよ。ヒバリならもっと威力の高い魔法を、毎秒百発以上なんて馬鹿げた数を撃ってくる」


翔吾は冷静にハンスの魔法を分析し、その全てを打ち落とす。少しだけ剣の魔力を多くしているが、掛かった労力はその程度だった。


「うわぁ……。強過ぎでしょショウゴ……。もうハンスさんが憐れに見えるよ」


圧倒的実力差にドン引きするアルト達。大人は大人で、翔吾の台詞に引いていた。


「お前……。毎秒百発以上とかどんだけだよ。明らかに殺しにいってんじゃねーか」


「んな訳無いでしょう。やったのは模擬戦でですよ」


「少なくとも模擬戦でやる事じゃないわい。そして親友にやる事でもないわい」


「強くなるには、時として非情になる必要があるのですよ」


「「限度があるだろ(じゃろ)」」


そうかね? 下級程度の魔法なんて、四桁ぐらいまでなら対処出来ると思うけど。雄一も翔吾も、今では毎秒三百発ぐらいまでなら耐えられる。


「大丈夫と耐えられるのは別だ馬鹿野郎!」


大丈夫だって。師天の喧嘩だったら山を吹き飛ばす威力の魔法を、毎秒五桁で乱射してくるからさ。上には上がいるのよさ。


因みにだが、魔導師同士の戦闘は異空間を創って行う事になっている。じゃないと冗談抜きでヤバいのだ。喧嘩で大陸消滅なんて事態になったら目も当てられないからな。


それは兎も角。どれ位の時間が経ったかな?


「雄一。今どれ位だ?」


「一分経過だな。二分経つ前にバテそうだけど」


「実戦って長く感じるからなー」


律儀に返してくれる雄一さん。時間を計っている辺り、実にマメな性格だ。


「坊々の魔力は?」


「さっき半分きったな。構成も雑になってるし、この調子で乱射してたら三十秒でゲームオーバー」


二人して同じ見解という訳だ。このままだとハンスのスタミナ切れでゲームセット。勝負は見えていたとは言え、呆気ない幕切れになりそうだ。


「くっ! これでも届かんのか! ならば!!」


腹を決めた。そんな決意を感じさせる声と共に、ハンスは攻撃の手を止める。


「おろ?」


「ほう」


「へぇ」


ハンスの意外な判断に俺たちは揃って声を上げた。感心の色が濃い声だ。それもその筈。ハンスは攻撃の手を止めて、体内で魔力を練り始めたのだ。


「大技に賭けたか」


「判断としては正しいな。スッゲー意外だけど」


生半可な攻撃では翔吾には効かない。かと言って、大技を出すにはハンスの力量だと時間が掛かり過ぎる。例えそれが一秒にも満たない時間であっても、実力差のある相手には致命的だ。それが今までで大技が出なかった理由である。


だが今は違う。翔吾は二分近い時間攻撃しない。それだけの時間があれば、大技を準備出来る実力がハンスにはある。


「馬鹿な奴ではあるが、優秀な奴でもあるんだろう。何だかんだで状況判断は出来てる」


本当にその点は意外だ。今までの戦いぶりを見てたら、腐った才能頼りの考え無しかと思ってた。猪突猛進という訳でも無く、ちゃんと待つ事も出来るらしい。


「うーん……。まだ甘いけど、温室育ちとしてはまあ及第点かな。それが出来るなら最初からやっとけと思わなくも無いが」


「それは言わぬが花だろ。どうせプライドが邪魔してたんだよ。平民の情けに縋ってたまるか! みたいな」


十中八九そうだろうな。それでも無理だったから腹括ったんだろうし。平民に負けるよりはマシだとでも思ったんだろう。どうせ無駄な足掻きに終わるだろうが。


「お、そろそろ準備出来たみたいだな」


見れば結構な魔力がハンスの中で練られていた。あくまで学生を基準としてだが。


「雄一。どれ位の時間が経った?」


「練り始めてかは一分半ぐらいだ。リミットギリで間に合った」


「そりゃ良かった。練ってる途中でタイムアップだったら興醒めだからな」


「流石に翔吾も空気読むだろ」


「いやー、どうだろ? それはそれでアリって言って仕留めるかもよ?」


「お前だったら?」


「勿論仕留めてぷぎゃーする」


「最低だな」


ニヤリと嗤う雄一さん。その顔、絶対お前もやるだろ。


そこで気付く。周囲がやけに静かな事に。見れば全員が微妙そうな顔をしていた。


「どったの?」


「いやー……何と言うか……」


「凄く悪どい会話をしていましたから……」


「お前達にドン引きしてたんだよ」


「やけに上から目線じゃったしのう」


「二人が悪役みたいでですね……その……」


「……ゴメンなさいお兄様、ユウイチさん。ちょっとフォロー出来ません……」


「「……」」


クラリスにまでフォロー出来無いと言われて、お兄ちゃんちょっとshockです。そんなに黒い会話してたか?


雄一と顔を見合わせた後、ゴホンと咳払いして話題を変える。


「さてと、そろそろ決闘も大詰めだな」


微妙な空気を誤魔化そうと視線をやれば、ハンスは既に魔法の詠唱に入っていた。


「[形成せ炎・願うは紅玉・堕ちし太陽・」


詠唱と共に魔力が動き、乞われた通りの事象を起こす。現れたのは紅蓮の球体。バスケットボールサイズの球体だが、感じられる熱量は膨大だ。太陽の欠片が地上に降臨したか如く、離れた位置にいる俺たちの肌すら焼いてくる。


「あの詠唱……上級魔法【プロミネンス・スフィア】だと!? 砦攻めの魔法を人間相手に使うなんて何考えてんだあのガキは!」


砦攻めって事は、攻城魔法と言うと訳か。どうりで授業であれ程怒られた訳だ。んなもんぶっ放せばそれ危ないわな。


「エクレ先生!早く決闘を止めないと! あれじゃショウゴが死んじゃうよ!」


「無理ですよ! 既に魔法は発動してます! 今止めたら暴発して危険です!」


事情を知らないアルト達が凄く慌てている。そらそうか。普通に考えれば、攻城魔法をどうにか出来るなんて考えない。現に、事情を知ってるクラリス達も焦ってるし。


「学園長、もしもの時には」


「分かっておる。何時でも介入出来る準備は出来ておる」


ライトが冷や汗を流し、何時も飄々としている学園長が真剣な顔をしている。


「お兄様、ショウゴさんは大丈夫なのですか……?」


「全然大丈夫」


「そうなのですか」


唯一クラリスだけが、俺の言葉を聞いて安心していた。信頼し過ぎだと思う。


「ーー焼き尽くす意思] 喰らえ!【プロミネンス・スフィア】!!!」


魔法が完成すると同時に、小さな太陽は翔吾へ向かって飛んで行く。闘技場の地面すら赤熱させる紅玉が、弾丸並みの速さで迫る。直撃すれば人間なんて骨すら残らず燃え尽きるだろう。ステータスが高い翔吾だろうが同様だ。何もしなければタダじゃ済まない。因みに俺は無傷で済む。


「ショウゴッ!!」


悲鳴にも似たアルトの叫び。迫り来る紅玉を前にして、反応もせずに立っている翔吾への言葉。


だが、翔吾だってただ突っ立ってた訳じゃ無い。ハンスが魔力を練り始めてから、翔吾も密かに魔力を練っていた。大技が来るのが分かっていたのだから、対抗手段を用意しない訳が無い。


「[凍てつけ剣よ。冷たき刃を導とし、白き棺へと送れ。眠れ、眠れ、永遠に眠れ。善意も、悪意も、銀の世界で包み込め] 」


翔吾の剣が凍っていく。刀身からは極寒の冷気が溢れ出し、剣の周囲を細氷が舞う。


この世界の詠唱とは異なる言葉で紡がれた魔法。俺が翔吾に教えた、氷と凍結を司る独自の魔法体系。


翔吾の魔法は人並みだ。一流と呼ばれる腕ではあるが、魔法使いとして飛び抜けている訳じゃ無い。翔吾は魔法使いではなく戦士だ。特に剣を得物とする剣士である。だからこそ魔法を放つよりも、剣に纏わせる魔剣術と呼ばれる技術を得意とする。


翔吾は俺の教えた魔法を自らの剣に纏わせる事で、新たな業へと昇華させるのだ。


「【冬の剣】」


迫り来る紅玉に向け、翔吾は剣を振り下ろす。鉄剣など軽く融解させる熱量を持つ紅玉だが、冬の剣は両断した。それだけじゃ無い。切断面から凍りつき、粉々に砕け散った。


「火属性の上級魔法を凍らせるだと!? あり得ないだろ!!」


「目の前で起こった事を否定するのはどうかと思うよ?」


「巫山戯るな!! そんな馬鹿げたはーー」


「三分」


「……何だと?」


「たった今、僕が指定した三分が経った。自分の中の常識と戦うのは、ベットの中でして貰うよ」


【冬の剣】を構え、翔吾はハンスに笑顔を向ける。笑顔なのだが、とても寒々しいもの感じるのは何故だ。


「流石に直接当てると死んじゃうからね。疲弊してくれて助かったよ。今の君なら、この距離からの余波でも倒せる」


ハンスと翔吾の距離は、大体十メートルはある。


「貴様っ!何度私を愚弄すれば気が済むのだ!」


「愚弄なんてして無いよ。ただ事実を言っただけ。今の君は満身創痍だ。気合でなんとか立ってるみたいだけど、軽く小突いただけで倒れそう。それ程までに、君は弱ってる」


最初の剣戟で体力を消耗し、魔法の乱射で魔力も少ない。そんな状態の中で、多大な集中によって発動させた上級魔法。肉体も、魔力も、精神も既に限界まで磨耗している。


「結構弱ってるみたいだから、余波だとしても凍傷で動けなくなると思うよ。何日かは寝たきりかもね。早く治りたいのなら、雲雀に頭を下げれば良いよ。渋るだろうけど、ちゃんと治してくれるだろうから」


「えっ!?」


何で俺!? 嫌だよ坊々の治療なんて! というか勝手に決めるな翔吾! そしてバラすな!


「嫌だよ何でそんなの治療しなーー」


「しろ」


「イエス・マム!」


俺の事を睨んだ翔吾は、もう一度ハンスに向き直った。


「頼む時はちゃんと謝るんだよ? じゃないと雲雀も嫌だろうから」


「何故私が平民風情に頭を下げねばならん! そもそも平民の治療など受ける気は無いし、受ける必要も無い!!」


「本当、威勢だけは良いね。けど、そう言うのは怪我してから判断しな」


「黙れ! 倒れるのは貴様のーー」


「それじゃあね。存外に楽しめたよ」


ハンスの言葉を遮って、翔吾は【冬の剣】を振るった。ほんの僅かに乗せられた魔力と、刀身から溢れ出ていた冷気がハンスに迫る。


魔力は浅くハンスの身体を切り裂き、極寒の冷気は全身を包み込んだ。


「グッ!? ガァァッア!?!?」


傷口から入り込んだ冷気が内部を蝕み、ハンスを包む冷気が皮膚を凍らす。内と外を同時に凍らされる痛みによって、ハンスは苦悶の声を上げた。


冷気が晴れると、そこには身体の所々に霜が降り、気絶しているハンスの姿があった。


すかさずエクレ先生がハンスに駆け寄り、意識の有無を確認する。


「ハンス・ドルク・シグムントの戦闘不能を確認! よって、ショウゴ・タチカワの勝利とする!!」


決闘は翔吾の勝利で幕を閉じた。


「お疲れ翔吾」


「ありがと雲雀」

主人公は巫山戯た奴が良い。何故なら展開が楽だから。


ヒバリ達は何処までも私を楽させてくれる。


戦闘描写が凄い疲れた。

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