決闘 前編
長くなったので分けました。
戦闘シーンは後半で。期待してた人すみません。すぐに載せるのでご勘弁を。
誤字脱字の可能性大です。
向かい合う二人がいた。
「先程の件、謝るなら今の内だぞ?そうすれば、手加減ぐらいはしてやろう」
片方は自信に溢れ、尊大な態度で眼前の敵を睨みつける。
「五月蝿いな。少し黙ってくれない?」
片方は静かに佇み、冷徹な視線を敵を見やる。
「……身の程を弁えぬ愚か者が。格の違いを見せてやろう!」
「やってみなよ。叩き潰して地面に這い蹲らせてあげるから」
両者は同時に剣を構え、互いの意地を貫く為に激突する!
「ーーなんて感じにならないかな」
「無いだろ」
バッサリと俺の妄想を切り捨てる雄一。いやまあ、俺も無いとは思うけどさ。
「大体な、互いの意地を貫く為ーーなんてカッコ良い理由じゃーねよ。そもそも片方がお前の妄想みたいに上等じゃ無いだろ」
「ごもっとも」
ある意味だったら、あの坊々の意地とも言えなくもないのだろうが、どちらかと言えば子供の駄々だ。
闘技場の観客席から、決闘に際しての諸注意を受けている二人を見やる。教えているのはエクレ先生だ。どうやら彼女が今回の決闘の審判らしい。
「諸注意って何があるんだ?」
「殺すなとかだろ」
「それ以外は?」
「特に無し」
「つまり、生きていればどんな状態だろうと?」
「問題無し」
「有るわ!」
横からガロンのツッコミが入る。テトラもアルトも呆れていた。
「あのねぇ……。学園の決闘がそんな殺伐とした内容な訳無いでしょ」
「相手が気絶、戦闘不能と審判に見なされれば即刻終了。敗北宣言も同様です」
他にも、過度な攻撃は反則として負けになるらしい。
「四肢欠損は?」
「駄目です!」
「手足全部折るとか」
「駄目だよ!」
「なんだ。つまんね」
「致命傷ギリギリぐらいのスリルが欲しい所だな」
同感。そんなんが決闘とかヌル過ぎる。
「この二人は……」
「何でそんな殺伐とした思考してるんですか……」
そりゃ勿論、殺伐とした世界で生きてきたからですが何か? 腹切や指ずめの文化がある世界から来ましたけど何か?
「それ以前に、四肢欠損とかどう考えても戦闘不能ですよ」
「何で?」
「いや、何でって……」
「魔法があるでしょ? それが駄目なら相手の喉元にでも噛み付けばいい」
だよな?と雄一を見てみれば、雄一も同意する様に頷いていた。ほら、何もおかしく無い。
唖然とするアルトとテトラ。そして頭を抑えるガロン。
「待て待て待て。お前らは何処の戦場帰りだ。場所を考えろ、場所を」
「いや別に間違って無いでしょう?」
「間違っては無えよ。だが思考が実戦的過ぎるんだよ。学生の思考じゃ無い」
「甘いですねー。それじゃあ馬鹿が簡単に決闘とか言い出しますよ?」
何重にも掛かった保護の所為で、他者を傷付ける行為の意味を履き違える、度し難い阿呆が出来そうだ。
「ああ甘いな。だが、その反面で決闘の際の誓いは絶対遵守だ。破れば退学。良くて停学だからな」
停学は軽いと思うだろうが、この学園だと致命的だ。どんどん授業が先に進み、追いつけなければ容赦無く留年させられるのだから。
それを抑止力として、無闇な決闘を防いでいるらしい。
「傷付けて、傷付けられないと、大概の人間は学びませんよ」
「良いんだよ。まだお前らは予科生だ。そういうのは本科の戦闘科で教わるんだよ」
まあ、確かに商人目指す人間が考える事でも無いか。
「じゃあ、本科生の決闘なら血で血を洗うみたいなのがーー」
「見れる訳無いだろ」
「ですよねー」
何だかんだと文句は言っているが、俺だってここが学園なのは分かっている。子供と言えない年齢の生徒も結構いるが、此処が学舎なのは変わらない。あくまで術と教養を教える場なのであって、兵を育てる場所では無い。
そもそもな話、俺は別に死闘が観たい訳でも無いのだ。ただ、決闘の内容を聞いて不安要素が浮かび上がっただけである。多分、雄一をも同じだろう。
「これじゃあ翔吾がちと不利かなぁ……」
「何が不利なんじゃ?」
「決闘のルールがですよ学園長」
「「「学園長っ!?」」」
いきなり現れた学園長にテトラ、ガロン、アルトが驚愕する。雄一は気付いていたので特に驚いて無い。
「なんじゃ。相変わらず君たちは驚かんの。つまらないじゃろ」
「知りませんよ。と言うか、いちいち気配消して近づかないでください」
「年寄りの茶目っ気じゃよ」
「だったら文句は言わんでください。驚かしたいなら精度を上げろ」
「……わしの隠密技能はかなりのモノなんじゃがなぁ……」
それはもう、相手が悪いとしか言いようが無い。俺の場合は論外だし、雄一は感知系の技能も高い。【王魔の樹海】に放り込んだ時、嫌でもその手の技能を磨く必要があったのだ。今では超高位のシーフになっている。
魔力から予想出来る限りだと、学園長は手広くやっている様だが本質は魔法職。雄一を相手にするには力不足だ。
まあ、それは良いとして。
「で、何で学園長は此処に?」
「いや、仕事が丁度ひと段落ついた時に、ショウゴ君が決闘をすると聞いてな。少し様子を見に来たんじゃよ」
「へー。そうなんですか。じゃあ残りの二人は?」
俺の感覚は、此方に向かってくる二人の魔力を捉えていた。一人は見知った人物だ。
「……君は本当に鋭いのぅ」
「優秀な人間じゃないとこの学園には入れませんからね」
暗に伝える。優秀な方が裏口編入の理由になるでしょう、と。
「限度があるわい」
俺の悪どい笑みに、学園長は苦笑で返す。
そんな風にやり取りをしていると、ようやく二人が到着した。
「学園長!急に居なくならないでください!」
「全く気付きませんでした……あ、お兄様?」
「ようクラリス。そして見知らぬ誰かさん」
やって来たのはクラリスだった。もう一人は俺たちと同じ年齢ぐらいの少年である。アッシュグレイの髪のイケメンだった。目が合った所で即座に反応する辺り、本当にイケメンである。
「初めまして。私はライト・フラート・ルイス。ショウゴの後見人であるルイス家の者です」
どうやら彼がルイス侯爵の息子みたいだ。良く見れば確かに面影がある。物腰も柔らかそうだな。
「これはこれはご丁寧に。翔吾の親友のヒバリ・サクラギです。こっちは同じく親友の」
「ユウイチ・スズミヤです。翔吾がお世話になってます」
第一印象は大事と言う事で、俺も雄一も丁寧な挨拶を心掛けた。どうせ直ぐに化けの皮が剥がれるだろうが。
「ハハハ。そんなに畏まらなくて結構ですよ。ショウゴの親友と言うのなら、私だって貴方達とは仲良くしたいですしね」
柔和な笑みを浮かべ、そう言ってくるライト。イケメンなのでその表情もサマになっている。それに内面も伴った表情だ。見てくれだけ良い、どっかの馬鹿坊々とは偉い違いだ。
「それじゃあ、その通りにさせて貰おう。よろしくなライト」
「ええ。あ、私のこの口調は癖ですのでお気遣い無く。此方こそよろしくお願いします。ヒバリ、ユウイチ」
「……何んで同じ侯爵なのにこんなに違うんだ? あの馬鹿にも爪の垢煎じて飲ませてやりたい」
「実行するなら何時でも言えよ? ライトの爪の垢にマンドラゴラをトッピングしてやる」
「止めてください……」
ほら、即行で化けの皮が剥がれてきた。
面識の無いクラリスと雄一が挨拶を交わしている間に、俺は学園長に向き直る。
「で、何で二人を?」
「此処に来る途中でライト君と会っての。話をしたら付いてくると言うのでな。クラリス君はそこに通り掛かったのじゃ」
へー。何故わざわざ観戦しに来たのだろうか。という訳でライトに聞いた。
「何で翔吾の決闘を見たかったんだ?」
「ハンス君は兎も角、ショウゴが決闘を受けるなんて思ってもみなかったもので」
とても意外そうな顔をしてライトは言う。その台詞には俺や雄一、アルトを除いた全員が頷いていた。
ほんの少ししか会っていないテトラやガロンも頷いているので、他人から見れば翔吾は本当に大人しく見えるのだろう。唯一翔吾と面識の無いクラリスだけが、不思議そうな顔をしていたが。
「そうなのですか? お兄様」
「ああ……うん。確かに翔吾は基本的に大人しいよ。あくまで基本的にだが」
同い年の男子十何人を返り討ちにする奴を、流石に大人しいと言っては駄目だと思うんだ。
「所でさ、翔吾ってライトの家だとどんな感じなの?」
「ショウゴですか? そうですね……姉と一緒に刺繍をしたり、我が家のシェフと料理をしています。お菓子などを振舞ってくれますよ」
アイツは何してんだ。いやまあ、それなら無理か。
「だったら想像出来無いだろうな。ブラック翔吾は見てみないと信じられんから」
「ああ……あれね。僕も未だに信じられないよ……」
アルトが遠い目をしていた。気張れ。
「ブラック、ですか?」
普段の翔吾を知っている人からすれば、ブラックなんて違和感バリバリだ。ライトも目を丸くしている。
「そそ。ブラックってのは、翔吾がキレた時に浮き上がるアイツの暗黒面」
翔吾って隠れSだから、キレたら相手の身も心も折ろうとするんだよな。
「滅多にキレないけど、キレた時は容赦が無くなる。だから下手に刺激しない事。一緒に住んでるライトは特にね」
「……刺激したらどうなるんですか? お兄様」
「そうだなーー」
ふむ。じゃあ実践してみようか。大きく息を吸ってー。せーの!
「オハーでマヨちゅちゅ!翔吾ママー!」
「【スパイラル・アイス】」
翔吾に向かってネタを振れば、返ってきたのは氷で造られた螺旋の槍だった。此方に見向きもせずに放たれた氷槍は、超高速回転をしながら俺の眉間めがけて飛んでくる。
勿論、難なく掴み取った。
「雲雀。五月蝿い」
「悪い悪い」
軽く睨んでくる翔吾に謝ってから、クラリス達の方に向き直る。
「こうなるね」
唖然とした顔の一同。先程までは頷いていたアルトも、翔吾のこの対応には驚いていた。
「こうなるって……今ヒバリ殺されかけてたよね!?」
「いや別に」
「別にじゃないでしょう!? いや確かに余裕で掴み取ってましたけど! それでも狙われた事には変わりませんよ!?」
「あの程度なら狙われた内には入らんし」
「今の魔法、氷属性のオリジナルだろ!? 威力は確実に中級以上。それを苦も無く詠唱破棄したアイツもアイツだし、素手で掴み取ったお前もお前だ! お前らマジで学生やってないで冒険者やれ!」
俺らの事情を知らないアルト、テトラ、ガロンの三人はとても慌てていた。逆に知っている三人はと言えば。
「……一切躊躇が無かったの……」
「……意外ですね。ショウゴがあんなに気性が荒いなんて……」
「お兄様に向かって魔法を……許しません……あ、お怪我はございませんか?」
翔吾の容赦の無さに引いていた。一人だけ反応がズレてたけど気にしない。別に怖かった訳じゃない。
気分を変える為に咳払いを一つして、話の結論を出した。
「そんな訳だから。翔吾はキレさせちゃ駄目。キレた場合は不用意に刺激しない。刺激したら地獄を見るよ」
「補足するが、さっきの対応は雲雀だからだ。相手が犯罪者でも無い限り、流石に翔吾も殺すつもりの攻撃なんてしない。酷くても半殺しにされるぐらいだから、そこはまあ安心してくれ」
「安心出来る要素が無い」
頭を抱えてアルトが言った。まあそう言うな。実際に翔吾がキレる事なんて殆ど無いから。
「現に今怒ってるんですけど」
「どっかの馬鹿が翔吾の逆鱗にコークスクリューブローをかましたんだよ」
ジト目でテトラが抗議してくるが気にしない。どっかの馬鹿は勿論ハンスだ。
そんな風に話していると、闘技場の方で動きがあった。
「そろそろ始まるみたいじゃの」
どうやら決闘が始まるらしい。予定より長くなったのは、明らかに俺の所為である。
「これより、ハンス・ドルク・シグムント対ショウゴ・タチカワの決闘を開始します! まずは確認として、この決闘に勝利した際の条件の提示を」
エクレ先生が凛とした声を上げ、決闘のルールを述べ始めた。
「私、ハンス・ドルク・シグムントの提示する条件は、私に対するショウゴ・タチカワの態度を改める事。及び、ショウゴ・タチカワの友人達にも同じ態度を取る様に説得する事。以上だ」
どうやらハンスは翔吾を傅かせようとしているらしい。隷属しろとか言わない事に意外だったが、そもそもその手の事を条件にする事は出来無いらしい。退学も駄目だそうだ。まあ、そりゃそうか。負けた際の条件を破れば退学という罰があるのに、負けた時点で退学にされては罰の意味が無い。
「僕の願いは、僕と僕の友人達に対しての理不尽な要求をしない事。必要以上の接触をしない事。以上です」
翔吾の方は、ハンスがこれ以上俺たちに絡んでくるのを防ぐ事を目的としたらしい。ナイスだ翔吾。
「両者、お互いが提示した条件に同意しますか?」
「「同意します(する)」」
「では、両者共に位置に着いて」
言われた通り、二人はお互いに距離を取る。
「どちらか片方が戦闘不能、及び敗北を宣言した時点で終了します。過度な攻撃は失格となるので、注意する様に」
エクレ先生が簡単な注意事項を述べる。そこで俺は翔吾に言った。
「翔吾、一応言っとくがーー」
「分かってるよ。僕も気付いてる」
俺の言葉を遮って、翔吾は頷いた。俺たちが懸念している事には、翔吾も気付いていたらしい。なら安心だ。
「だからと言って油断するなよ。お前も熱くなり易い」
「大丈夫だよ雄一」
「そうか。なら良い」
「気をつけろよ。相手はあの坊々だ」
最後に一言だけ告げる。様子を見ていたエクレ先生が、頃合いだと言う事で前に出る。
「よろしいですか? よろしいですね! それでは、お互いに全力を尽くし、正々堂々と闘ってください!」
エクレ先生はゆっくりと腕を持ち上げる。今までの苦労人というイメージが嘘に思える程、彼女は頼もしかった。
「始めっ!!」
サブタイトルは適当。友人に変だとツッコミ入れられたので念のため。
ハンスのステータスですが、大体の数字が五百前後。スキルレベルは4〜5の間。
ちゃんと考えるのは面倒なので、各々で想像してくれたら幸いです。
もしかしたら、ちゃんとステータス出すかもですけど。




