頑張れアルト。胃潰瘍にはなるなよな!
もう直ぐ戦闘シーンです。
誤字脱字の可能性大です。
決闘。それは自らの意思を通す手段である。互いに譲れないモノを持つ者同士が、同意の上で正々堂々と行う勝負である。
「ーー決闘の起源は古く、現在まで脈々と受け継がれてきたソレはとても神聖な物である。故に、決闘によって負傷した場合でも、相手が罪に問われる事は無い」
つまり、当事者同士は何が起きても自己責任って事だ。
「こりゃなんとも物騒だことで」
決闘について記された本を閉じ、肩を竦めながら感想を漏らす。
「そりゃそうだ。決闘は個人間の交渉の最終手段だぞ。そんなのが穏やかな手段だと思うか?」
「違いない」
俺は苦笑して肯定する。決闘は神聖やら何やら言っているが、結局の所はただの喧嘩だ。血生臭いのは当然か。
「ったく。出てったと思ったら即行で戻ってきやがって。しかも貴族と決闘なんてオマケ付きで」
呆れたと首を振るガロン。出戻り+厄介事だ。当然の反応ではあるな。
「文句なら翔吾に言って下さい。近場で待つのに丁度良い場所がここしか無かったんですよ」
「ここは休憩所じゃねーぞ」
「知ってますよ。だからウィンドショッピングしてるんじゃないですか」
「いや買えよ」
そんな風に会話をしながら、俺は店内を見て回る。雄一も同じ様にしている。
さて、俺たちが今何をしているかだが、要は時間潰しである。ハンスと翔吾の決闘が学園から受理されるのを、刀剣研究会の店で待っているのだ。
今回やるのは公式な決闘ではなく、学園内で決められた規則に則った決闘だ。それには場所の申請やら、立会い人の申請やらと色々と必要事項が多いらしい。公式の決闘ならば、騎士に立会い人を頼めば直ぐに開始出来るのだが、今の俺たちは学生だ。流石に、最悪殺しても問題無いような決闘はさせて貰えない。……まあ、公式な決闘には決闘法という物があるので、そこまで気軽行える物じゃないらしいが。
兎にも角にも、そんな感じで俺と雄一は店にいる。ハンスと翔吾は決闘を申請しに。アルトは爆弾が爆発しない為の付き添いだ。……雄一や俺は行かないのかって? 爆弾が更に増えるの自体が容易に想像出来たので辞退したのさ。
アルトの胃に穴が開かない事を祈りながら、俺は刀剣の物色を再開する。
「へー。質は結構高いんですね」
「分かるのか?」
「そりゃそうですよ。武器の質ぐらい判断出来ないと。武器のグレードで敵の強さもある程度は判断つきますし」
金にモノを言わせて不相応な武器を持ってる奴もいるので、絶対とは言わないが。
「ほう。良く分かってんじゃねーか。お前、実は結構な場数踏んでるだろ?」
「魔物の集落に単身突撃しましたが何か?」
「……お、おう……」
予想外の言葉にドン引きした様子のガロン。
因みにその時の魔物の名前はスロータージャイアントと言う。同族以外を虐殺するのを娯楽とする15メートルサイズの巨人である。数百体規模の集落で、一度暴れればガチで国が滅びる規模だった。……え? 突撃した理由? 家の近くに集落があって五月蝿かったからですけど何か?一撃で消滅させましたけど何か?
「……んんっ。だが、その割には装備が貧相だな。武器ぐらいしっかり持っておけよ」
「学生なんですけど俺」
「授業中じゃねーんだぞ。別に武装しちゃいけないって訳でもないだろうが」
何気にこの学園、授業中以外なら武装禁止では無いのだ。戦闘系を目指している生徒は、自らに合った武器を持ち慣れておく必要があるし、護衛として通ってる生徒もいるので、その辺りの配慮らしい。
因みに防具を着ける事は許されていない。何故なら、この学園の制服が無駄にハイスペックだからだ。着衣者の温度を適温に保つ、中級魔法までなら威力を軽減する、丈夫で破れ難く自動修復機能有り、etc……。とまあ、こんな感じで多数の魔法的処置がなされており、下手な防具よりも優秀なのだ。
普通だったら凄い高価になる制服だが、勿論これは国が値段の半分を負担している。その為、一般家庭でも手が出る値段となっている。コストダウンする為か、付加させる魔法は永続では無く期限付きの様だ。その期限が約7年。なので、この制服を着続けたり、転売したりする事は出来なくなっている。
「なんだったら見繕うぞ? ここなら品質はそこそこで安く済む」
「残念ながら持ち合わせがあんまり無いんです。てか、そもそも武器は要りません」
「何でだ?」
「俺、魔法使いなんで」
武器振り回すよりも魔法ぶっ放す方が手っ取り早いし。武器の必要性が皆無です。
だが、ガロンは俺の意見に嘆息した。
「あのなぁ……。後衛だろうが接近戦が出来ないと死ぬぞ。近づかれたり、乱戦になったら対処出来ないだろ。せめて打ち合えるぐらいにはなっておけ」
そもそも後衛が接近されてる時点で詰んでる気がするが。……まあ、それは俺みたいな化け物クラスの話か。
と、まずはガロンの勘違いを解かないとな。
「違いますよ。一応は俺も戦えます」
並べてある剣の中から適当に一本選び、ガロンさんに向き直る。
「素振りしても?」
「あ、ああ。そこの広いスペースでやってくれ。店を壊してくれるなよ?」
いきなりの申し出に戸惑いながらも、素振りさる許可は出してくれた。
「それでは……」
一瞬だけ意識を戦闘状態へとシフトする。仮想敵として団長を思い浮かべ、一気に剣を振り抜いた。
「……ッァ!!」
逆袈裟の斬撃によって、空想上の団長を真っ二つにした所で、ガロンさんに向き直る。……同時刻、王宮勤めの騎士団長が急な悪寒に襲われたとか。
「……と、こんな感じで近接も出来ます。あくまで手慰み程度ですけどね」
「………オイオイ、それは冗談キツイぞ。どう考えても本職、それも一流所じゃねーか」
驚愕に目を見開きながら、ガロンはそう指摘する。うん。流石は学園に派遣されるだけの鍛治師だ。たった一振りで俺の剣の腕前を見抜いたらしい。まあ、分かっててやったんだけどね。
「だが、確かにそれじゃあ武器が要らないのも納得出来る。ここのじゃ、お前の腕前と釣り合わない」
得心顏で頷くガロン。まだ話の途中ですよー。
「いや、そう言う訳じゃないんですけど」
「ああ?」
「あくまで今のは剣でも戦えるって見せただけです」
「は? どう言う意味だそりゃ?」
「いや、俺って素手の方が強いんですよ」
軽く魔力を纏わせた拳を見せると、ガロンは納得した様に頷いた。
「……なるほど。魔闘を使うのか。確かに魔法使いなら納得は………ん? いや待て。魔闘の方が強い?」
「そですよ」
「……にわかには信じられんな」
「そですか?」
「いや、お前が嘘を吐いてる訳じゃ無いのは分かってるが、それでも流石にな」
「想像出来ませんか?」
「ああ」
そりゃそうか。人は常識の外側を見る事を拒否する生き物だからな。この場合だと、俺みたいな若さで達人級の技術を二つ以上持ってるって事が、ガロンには信じられない。想像出来無いのだ。
さて、それじゃあどうしたモノか。別に納得させる必要も無いが、ここまできたら全部信じさせたくもなるな。
………あ、ティンときた。
「おーい雄一」
「ん? 何だ?」
ちょいちょいと雄一を呼び寄せる。
「ちょっと見ててくださいガロンさん」
「あ?」
不思議そうな顏するガロンを尻目に、近づいてきた雄一にお願いを一つ。
「雄一、少し俺の事殴っーー」
「OK了解した」
「ぶっ?!?」
渾身の右ストレートが入りました。
「……雄一さん? 人の話は最後まで聞こうよ……あと少しぐらいは躊躇して……」
話の途中で打ってくるなんて想像して無かったから、割とガチで喰らったんだけど。
「何だ? 殴ってくれって要求じゃなかったのか?」
「いやそうだけど……そうなんだけど……!」
何か違うの。何かが違うの!
「じゃあ何だ?」
「魔闘を使って殴ってくれ。全力じゃ無いぞ?」
雄一の全力だと店が壊れる。
「何したいのかは知らんが……OK。しっかり止めろよ」
「ったり前よ!」
「いやお前ら何してーー」
俺たちの先程までのやり取りに、目を点にしていたガロンだが、ハッと我に返って俺たちを止めようとしてくる。
だが遅い。ガロンの制止よりも速く、魔闘による雄一の回し蹴りが俺の首を捉え……え? いやちょい!?
ガァァァンッ!
咄嗟に出した左腕に、雄一の蹴りが激突した。お互いが魔力によって強化されている為、鋼鉄同士がぶつかったかの如き音が響く。決して人体から出て良い音では無い。
衝撃の余波によって店の棚が揺れる中、俺は雄一さんに尋ねてみた。
「何で蹴り?」
「拳じゃつまらないから」
「何で首?」
「どうせ防ぐと思ってたから。当たれば儲け物程度にしか考えて無かった」
あの蹴りを首に喰らった場合、殆どの生き物の頭が千切れ飛ぶ。俺だって喰らったら痛いと思う。ダメージにはならないが、多少の痛みは感じる。改めて言っておくが、俺が痛いというのは相当である。
最近、雄一が本気で俺を殺しにきてる気がします。
「……お前ら色々な意味で無茶苦茶だ……」
頬を思いっきり引き攣らせながら、ガロンはそう呟いた。それが躊躇無く殺しにきた雄一に向けた言葉なのか、平然とヤバい威力の蹴りを受け止めた俺へと向けられた言葉なのかは分からない。コレで親友だって事に唖然としている線もあり得る。……多分全部か。
「でも、コレで証明出来ましたよね?」
あの一回の攻防だけでも、魔闘の力量を把握するには十分の筈。それが職人ならば尚更だ。
「……ああ。納得した。そこらの剣で戦うよりよっぽど強いだろうよ。だがそれ以上に腑に落ちん。何でお前らが学生をやっているんだ?その実力なら引く手数多だろ」
「働きたくない」
「おい」
冗談はさておき。
「世間知らずのガキが世に出た所で、利用されるのがオチでしょう? 腕っ節で解決出来る事なんて、世の中意外に少ないんですから」
あくまで方便だがな。本音はただ面白そうだから。
「……何と言うか、もうそこまで悟っちまったのか。もうちょい夢と希望に溢れてても良いだろうに」
方便なのだが、ガロンはそうは取らなかった様だ。向けてくる視線に含まれるのは同情。外見と反する実力から、俺たちの背景を勝手に想像したのかもしれない。都合が良いのでそのままで。
これがクラリスやアルトやフィア、テトラとかだったら罪悪感が襲ってくるんだろうけど、残念ながら髭ダルマのオッサン相手にそんなものは抱かない。
「親方。ただいま戻りましたよー」
噂をすれば影。微妙な空気が流れていたタイミングで、買い出しに出ていたテトラが戻ってきた。
「あれ? お二人ともどうしたんですか? 忘れ物でもしましたか?」
ちょうど俺と雄一が戻ってきた時にテトラはいなかったので、これまでの出来事を掻い摘んで説明した。
「……取り敢えず、アルト先輩がとても不憫な目に遭っている事は分かりました」
ご愁傷様ですと、アルトがいるであろう校舎に向け合掌するテトラ。この娘もいい性格してると思う。
「それにしても、貴族に喧嘩売るなんてヒバリさんたちは馬鹿なんですか?しかもあの厄介者のハンスに」
「アレだね。君って結構ズバズバ言うよね」
最初の丁寧さは何処に行った。いや、親しそうにしていたアルトには遠慮が無かったので、これも距離が縮まったと考えられるか?
と、そこでふと気になった箇所があった。
「厄介者のハンス?」
「一部の人間が影で呼んでる蔑称ですよ。あの人の横暴な態度には結構な人が迷惑してるんです。けど、家柄が良いから貴族も平民も強く出れない。それを無視したとしても、実力も高いので返り討ちに遭うんですよ。それで付いた渾名が『厄介者のハンス』です」
実力もあって権力もある。それで馬鹿なら確かに厄介者だわな。
「あの坊々ってそんなに強いのか?」
ハンスの才能を知らない雄一だけが、不思議そうに首を傾げていた。
「強いですよ。剣術に優れ、魔法も卓越しています。魔法剣士って奴です。能力だけなら戦闘科の最上級生に匹敵します。間違いなく、今年の予科三年ではトップクラスです」
腐っても勇者もどきだしなー。
「人は見掛けによらないもんだな」
至極どうでも良さそうに雄一は言う。当然の反応か。
「見た目だけならイケメンだから、似合ってなくはないけどな」
魔法剣士とか主人公みたいだが、外見だけならハンスも十分に主人公だろう。外見だけだが。
「……今の話を聞いて、何でそんなに冷静でいれるんですか。ショウゴさんが決闘するんですよね?」
「うん」
「するな」
散々あの坊々のこと煽ってたし、しない理由が無いよね。
「学年トップクラスの実力ですよ? それにあの性格です。下手したらショウゴさん大怪我しますよ。最悪、殺されるかも……。なのに心配じゃないんですか?」
「全く」
「これっぽっちも」
何故あの性格坊々が相手で心配出来る? むしろ、翔吾が誤って殺さないかが心配だ。
だが、この反応は事情を知ってる俺らだからだ。側から見れば、薄情な人間にしか映らない。事実、テトラは冷めた目で此方を見ていた。
「アルト先輩からは、三人は親友だって聞いてました。実際は違ったみたいですけど」
心配なんて一切してない。興味すら持っているかも怪しい俺たちの反応は、テトラを失望させるには十分だったらしい。
はてさて、どうやって誤解を解こうかな?
そんな風に考えていると、今まで静聴していたガロンさんが聞いてくる。
「なあ、アイツの実力はどのぐらいだ?」
おっと、これはもしや?
「俺たちと似たり寄ったりですね」
「そうか。ならその態度も納得だ」
ガロンは理解したらしい。唯一話が分かっていないテトラだけが、ガロンの態度に首を捻っていた。
「どういう事ですか?」
「別にこの二人が薄情な訳じゃないって事だ。だからそんな目で見てやんなよ」
どうやら実力を匂わせたのが、早速役に立ったみたいだ。見事な助け船が出た。
「それはどう言う意味です?」
「つまりね、翔吾ってああ見えてーー」
「ヒバリ、ユウイチ! 決闘が決まったよ。時間は三十分後で、場所は第二闘技場!」
俺がテトラに説明しようとした所で、付き添いをしていたアルトが戻ってきた。お陰で説明は中断だ。
「ふむ……。実際に観てもらった方が分かるかな!」
さあ、道化の舞踏がもう直ぐ始まる。
雄一さんが怖いお。
後、この作品って戦闘シーンが異様に少ないんですよね。ちゃんとしたのって、模擬戦と魔王の時ぐらいかな?




