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波乱の予兆?

どうも、みづどりです。

今回はこの前書きの場で、ライト文芸新人賞の一次選考を通過した事をご報告させていただきます。

こんな駄文が評価されるなど未だに信じられない事ですが、これからも頑張っていこうと思います。

一次選考を突破したぐらいで大袈裟だと思う人もいるでしょうが、そこは目を瞑って下さい。豆腐メンタルな自分からすれば、相当な大事なのです。


読者の皆様も、これからも『主人公体質ってぶっちゃけただの呪いだと思う』を応援して頂ければ幸いです。

鋭く俺たちを睨みつけるハンス。憎しみさえ感じそうな視線を受け、俺は小さく溜め息を吐く。行動には出してないが、隣の二人も同じ気持ちだろう。


面倒な奴に会った。この一言に限る。


出来れば関わり合いになりたくない。傍目から見ても一触即発の空気なのだ。この場はさっさと立ち去るのが無難だろう。雰囲気的には無理そうだが。


翔吾たちにも目配せして、歩みを早めるが、


「おい」


そら来た。


「……何だ?」


「私が目の前に居るのだぞ?何故貴様らは頭を下げない?」


「……」


当然の事を何故出来無い?ハンスがそんな風に思っているのが、雰囲気からありありと感じられた。


……うん。なんと言うか、頭が痛い。現実に頭が痛いという訳ではないが、ともすれば物理的な痛みと錯覚してしまいそうな程に。


馬鹿なのだろうか?いや、馬鹿は馬鹿なのだろうが、まさかここまでか?


絶対に当たって欲しくない予感が頭をよぎる。とは言え、知り合いなのに挨拶しないというのが失礼に当たるのも事実。指摘されたら無視する訳にもいかないか。例え、それが知り合いと思いたくない様な相手だとしても。友好的な関係とはお世辞でも言えない相手だとしても。


「悪かったな。そしてさようなら、ハンス君」


「……誰が挨拶をしろと言った?私は頭を下げろと言ったのだぞ?」


余りにも予想外の言葉が出てきて、一瞬思考が停止した。思わず頭を抑えてしまう。


「……正気かお前?」


「平民が貴族に頭を下げるのは常識だ」


馬鹿なのだろうか?いや、馬鹿だ。コイツは此方の予想を遥か上を行く極馬鹿だ。


確かに、身分が上の相手を敬うのは常識なのだろう。大体の人が、権力を恐れて頭を下げるのも理解出来る。だがそれは常識であって規律ではないのだ。公の場などではない限り、実際は身分差など気にする必要は無い。ましてや此処は全てが平等として扱われる学園である。頭を下げる道理など存在しない。


「此処は学園だ。平民も貴族も関係無い筈だが?」


「そんなものは建て前に決まっているだろう。まさか信じていたのか?ハハハッ。これは傑作だ。現実を教えてやる。貴族と平民には決して越えられない壁がある」


「……へー」


侮蔑と嘲りの籠った笑みを浮かべるハンス。もう相手にするのも馬鹿らしい。


「んじゃ、お前はその壁の向こう側で大人しくしてろ。一々壁の向こう側の相手に絡むなよ」


案に関わるなと言ったのだが、残念ながらハンスは聞き分けの良い奴ではない。むしろ、


「何だその口の利き方は?貴様と私には立場の差があると言った筈だ。お前は馬鹿なのか?」


更につっかかってくるタイプである。


イラっとくる心をどうにか落ち着かせてから、俺はハンスに一つだけ告げる事にした。


「……さっきから立場やら身分やら言っているが、俺は現在アール公爵家に身を寄せている。俺の身分は、後見人である公爵家に準拠している。この意味が分かるか?」


そう。身分だけなら、俺は実を言うと公爵家と同等の物を持つ。更に異世界人と言う事実、俺の本来の能力を加味するならば、一国の王とて平服する立場だ。たかだか侯爵家のハンスなど、それこそ覆す事など出来ない程に差があるのだ。


俺は身分云々など馬鹿らしいと考えているので、この札は切る気などなかった。あまり、というか本当に使いたくなかったのだが、ここまで鬱陶しいとまともに相手にする気も失せる。


「はっ。田舎者風情が偉そうな口を利くな。その身分は貴様の物では無い。公爵家の威光に縋るなど、虎の威を借るなんとやらだ。恥を知れこの田舎者がっ!」


怒号一喝。侮蔑と蔑みを向けてくるハンスに一言。


お前が言うなこの野郎!!!


ややこしくなるので口には出さないが、ハンスの言葉はがっつりブーメランである。だが、ハンスは白けた視線を向ける俺、翔吾、雄一 (アルトだけはオロオロしていた)に気付かず、嘆かわしいと更に言葉を続けた。


「大体、貴様の様な下賤な輩が、貴族と暮らす事自体が異常なのだ。何故陛下はこんな者たちを認められたのか」


何気に対象が俺から俺たちへと変化している。勿論、翔吾と雄一もその事に気付いている。何故この坊々は自ら虎の尾を踏み抜きに行くのだろう?


「そして一番嘆かわしいのは、貴様がクラリス様の優しさに付け込んでいる事だ」


……は?


「クラリス様の生来の優しさを利用し、取り入った。あまつさえ、クラリス様に兄と呼ぶよう強要した。純粋な彼女の事だ。下賤なる貴様の言葉を信用し、誑かされているに違いない」


え、いや、ちょ、何言ってるのコイツ?クラリスを誑かす?兄と呼ぶよう強要した?


「いや誑かしてないから。そして兄ってのはクラリスが勝手に呼んーー」


「貴様っ!クラリス様を呼び捨てにするな!」


……怖い怖い怖い怖い。何この人。思い込み激し過ぎるんですけど。


「いいか?貴様は二度とクラリス様に近づくな。彼女は貴様の様な田舎者が会話して良い方じゃない。もし拒否するというのなら、此方にも考えがある」


そう言って、ちらりと翔吾たちを見るハンス。その視線の意味を察した瞬間、俺の中にある感情が浮かび上がる。


……あ?つまりはアレか?そういう事か?よし分かった。


「「「掛かってこいや!」」」


「「はっ!?」」


因みに、上が俺、翔吾、雄一。下がアルトとハンスだ。


「え、いや……本気か貴様ら?」


予想してたの反応と違っていたのか、ハンスが戸惑いの声を上げる。


何を言っているのやら。寧ろそれはこっちの台詞である。


「お前こそ本気か?裏でこそこそ糸引いてたみたいだが、その全てが失敗しているんだぞ。脅しが効くと何故考える?」


襲撃など色々とちょっかい出されてきたが、その全てを俺は軽くあしらった。それで何故次は成功すると考えれる?


「……何の事だ?」


ハンスは身に覚えが無いとしらばっくれた。そらそうだ。此処で肯定してしまったら、ハンスの方が罰せられる。平等なんて建て前だとハンスは言ったが、規則を破ってあの学園長が許す筈が無い。


「別に隠す必要も無いが、敢えて追求はしないでやる」


追求なんてしても、どうせトカゲの尻尾になるのだから時間の無駄だ。


「裏工作するなら好きにしろ。だがな、やるのであれば相応の反撃は覚悟しろよ?」


だが釘を刺すのは忘れない。降りかかる火の粉は払うだけだが、まず降りかからないのが一番だからな。


「ふん。誰がそんな卑怯な事などするか!貴様程度に小細工など必要無い!」


「あっそ」


煽り耐性無いなこの坊々。即行で前言を翻しやがった。さっきの無言の脅迫は何だったんだか。


「兎も角!貴様はもう二度クラリス様に近づくな!分かったな!?」


「いや無理」


「何だと!?」


「俺はアール公爵家で暮らしてんだぞ?無茶言うなや。てか、そもそもお前にそんな事を指図される謂れは無い」


他人の家庭事情に口出しすんな。干渉するにしても、もう少し理論的な理由を作れ。


「ふざけるな!貴様は私の言うことに黙っーー」


「ふざけてるのは君の方だと思うよ?」


ハンスが何か言おうとしていたが、それを翔吾が遮った。珍しい事もあるモノだと振り向けば、翔吾は静かに笑っていた。


ーーゾクッ。


俺はその笑顔を見た瞬間、背筋に氷でも突っ込まれたのかと錯覚した。誰もが安心する菩薩の様な笑顔だが、俺はその笑顔の本当の意味を知っている。


ヤバい。ヤバいヤバいヤバいっ!翔吾が本気でキレている。


急いで、だがこっそりと俺は雄一に確認を取る。


「(オイ!雄一何で翔吾キレてんのっ!?あれってどう考えても近年稀に見るマジギレよ!?)」


「(俺が知るか!確かにアイツの言葉はイラっときたが、翔吾があそこまでキレる理由が分からん!)」


小声で叫ぶという器用な事をやってのけた俺たちだが、そんな事を気にしている余裕などなかった。翔吾がキレているという事のヤバさを、俺たちは嫌という程知っていたから。


あれは昔、俺たちが小学生の時だ。翔吾は今と変わらず恋愛事が大好きだった。それで女の子たちからもよく相談を受けていたのだが、ある時、翔吾に相談をしていた女の子の一人が男子に告白した。だが、その男子は告白した女の子を振った挙句、それをクラス中に言いふらしてしまった。クラスの男子もやんちゃ盛りであった為、それに便乗してその女の子を馬鹿にし始めた。


ここまでは良い。馬鹿馬鹿しい事ではあるが、子供だったらやりかねない事だから。問題はその先だ。


その女の子は泣き出し、不登校になってしまう。違うクラスだった為に翔吾はその事を知らず、不登校になった理由を聞いて激怒した。そこから先は怒涛の展開となる。


俺たちも協力して、女の子をからかった男子全員を調べ上げ、呼び出してからの大乱闘だ。勿論俺と雄一も参戦した。その結果が、俺四人、雄一四人、翔吾は十人を倒しての完全勝利。


色々と嫌な経験を積んでいたとはいえ、小学生が十人相手に大立ち回り。鬼神もかくやといった気迫に向こうは完全に萎縮しているし、グレーゾーンな攻撃を躊躇なくやっていた。お陰で向こうはボコボコ、翔吾は無傷という結果だった。……因みにこれ、予想出来るだろうが大問題になった。下された沙汰は自宅謹慎で、事実上の停学。公立の小学校に通う子供が停学処分を喰らう珍事となった。


この時から、翔吾も絶対に怒らすなと、俺たちを知る者の中では言われている。


「何だ貴様は?一体誰に口を聞いている?」


「それはこっちの台詞さ。君は一体何なの?さっきから雲雀に命令ばっかしてるけど、君は何様のつもりなの?」


「俺さーー」


「雲雀は黙ってて」


「うっす」


ウィットに富んだジョークで場を和まようとしてみたのだが、翔吾の冷たい視線に無残に敗北した。


「それにさっきから人の関係にあれこれ言ってるけど、恥ずかしいとは思わないの?クラリス様に近づくなだって?君の方が近づかないでよ。親の功績で威張り散らすだけの、真正面から向き合う覚悟も無い臆病者に、人の思いに土足で踏み込む権利があるとでも?」


……ああ、なんとなく分かったわ。翔吾の怒った理由。アレだ。俺とクラリスの仲を引き裂こうとしたからだ。出来る出来無いじゃなくて、その行為自体がイラついたんだ。


翔吾は恋愛事が大好きである。というより、人の思いの繋がりを見るのが好きなのだ。だから、翔吾は人の思いを踏み躙る人間を嫌う。弱みを握って関係を引き裂いたり、野次馬気分で引っ掻き回す奴が大嫌いなのだ。小学生の頃の事件なんて正にそれ。


で、ハンスはその逆鱗を思いっきり殴りつけた訳だ。そら怒るわな。


「私が臆病者だと!?ふざけるな平民風情が!」


「平民風情?産んでくれた親が偶然貴族だっただけでしょ?威張るんだったら自分で功績でも立ててみなよ。それが出来無いなら大人しくしてなよ。この七光り」


側から見れば火に油の平行線である。


「(えっと、ヒバリ?ショウゴのキャラ変わってない?凄い辛辣になってるよ?)」


今までとのギャップに引いた様子のアルト。確かに、外見は美少女で、基本的には大人しい翔吾だ。今の毒舌キャラは、知らない人から見れば相当衝撃的だろう。長い付き合いの俺たちからすれば、今の翔吾も割りとありふれた姿だが。


もうお気づきだとは思うが、翔吾も俺と雄一と肩を並べる程度には喧嘩っ早い。勿論、俺たちの中では一番大人しい。とは言え、それは基準が極道の抗争とかに巻き込まれる俺だったり、闇堕ちした元プロボクサー相手に喧嘩を売る雄一だったりするからだ。世間一般では、翔吾も十分に気性が荒い部類に入る。


「(慣れろアルト。俺たちの中にマトモな奴は一人もいない)」


「(自分で言うか?)」


「(客観的に見た事実だろ。というか、その原因の大半がお前にあるのは忘れるな)」


「(知ってる)」


「(……えっと、つまり?)」


「「あれが普通」」


「五月蝿いよ」


「「うっす」」


ピシャリと言われて黙る俺たち。それを横目で確認しながら、翔吾は更に言葉を重ねる。


「自分の物でもない権力を振りかざす。しかもそれが許されない場所で。そんな事して恥ずかしくないの?平民は貴族に頭を下げるべき?まずその前に自分の事を客観的に見てみなよ。自分が敬われる様な人間だと思ってるの?お目出度い頭だね。身分が上の人間を敬うという考えは否定しないさ。でもそれには相応の行動をとる義務がある。君は人から敬われる行動を取っているのかな?」


な、長い……。そして全く遠慮が無い。何か見てるこっちが怖くなってくる。口撃をモロに喰らっているハンスなんか、余りの遠慮の無さに頬を引き攣らせている。


「い、言わせておけば調子に乗りおって……!私に掛かれば、貴様を王都から追い出す事だって可能なのだぞ!」


「ほら。やっぱりそこで権力に頼る。実力で叩きのめす、ぐらいは言って欲しかったんだけど。そんなに好きなの?偽りの力を振りかざすのが。それとも実力に自信が無いのかな?……ああ!だから家の力に頼るのか」


翔吾の表情が、普段浮かべている穏やかな笑顔から、見るもの全てを凍てつかせるが如き嘲笑へと変化した。


「本当に憐れだね」


……怖い。そして黒い。久々に見たブラック翔吾に、俺と雄一はドン引き。初めて見たアルトなんて、余りの衝撃に言葉を失っていた。


「……い、良いだろう……っ!そこまで言うならやってやる。決闘だっ!!貴様に身の程という物を教えてやる!!」


「へー。出来るのかな?君みたいな臆病者に」


……うん。取り敢えずアレだ。今日はもう研究会は回れそうに無いな。


新たな波乱を予兆を前に、俺は一人そう考えていた。……人はそれを現実逃避と言う。

小学校大乱闘事件の簡単な補足。


・その当時、既に三人は諸々な事件に巻き込まれていた為、下手なヤクザや警官よりも荒事に耐性があった。(つまり暴力に訴えるのに躊躇が無い)


・ヒバリの体質経由で知り合った武術の達人の方々によって、三人は色々と扱かれていた。当時の時点で、スキルレベルで言ったら5ぐらいあった。因み達人の方々は7〜8。(達人に教わったのは現代で一般的な『武道』ではなく、殺人や人体破壊を前提とした『武術』である)


・諸々の事件の経験や、達人の方々の教えにより、小学生でありながらも、大人相手でも勝てるぐらいには強かった。体格の問題で苦戦はするが、大人のアマチュア格闘家にも、ストリートファイトなら勝てた。(ヒバリは必要に駆られて才能がぶっ壊れている。二人は元々天才)


こんな奴らに、グーで顔を殴るのすら躊躇する小学生が勝てる訳もなく。結果、ヒバリたちの圧勝で幕を閉じた。(流石にヒバリたちも馬鹿じゃないので、大怪我させないようにちゃんと手加減はしていた)


結論。子供の時でも三人ともクソ強い。


訂正

気象→気性に訂正しました



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