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魔導師様御一行、研究会探索ツアー その5

と言う訳で続きです。


誤字脱字の可能性大です。


「おいテトラ!騒がしいぞ何してやがる!遊んでる暇があったら少しでも槌を振りやがれ!!」


「ひうっ!?」


ドスの効いた怒声に、アルトと口論していたテトラが思わず竦みあがる。


「お、親方……」


奥から現れたのはガタイの良い小柄なオヤジ。ヒゲ面で如何にも頑固ですといった風貌から、彼もドワーフなのだと直感した。


「あ、どうもガロンさん」


「ああ?……おお、アルトじゃねーか。相変わらず男に見えねえなお前」


「ガロンさんこそ。毎度毎度それでからかうの止めてくださいよ」


ガロンと呼ばれたドワーフと、何時ものやりとりとばかりに話すアルト。テトラとも親しげだったので、恐らく刀剣研究会の人間全員と仲が良いのだろう。フルールさんやカスパールさんといい、何気に交友関係が広い奴である。


「んで、今日は何しに来たんだ?ナイフに不具合でも有ったか?」


「まさか。ガロンさんが作った物に不具合なんて無いですよ。今日は友人の案内をしているんですよ」


そう言って、俺たちの方へと視線を向けるアルト。


「あ、どうも。アルトのクラスメートのヒバリです」


「ショウゴです。同じくアルトのクラスメートです」


「ユウイチです。よろしくお願いします」


「おう。俺はガロンだ。職人ギルドから派遣されて、この学園の研究会顧問をやっている。一応、他にも何個か受け持っているが、主にいるのはこの研究会だ。用があるなら取り敢えず此処に来い」


お互いに自己紹介を交わす。そこでふと、気になる単語が入っている事に気付く。


「派遣?」


「ん?ああ、此処の研究会は数が多いからな。教師だけだと見てられないって事で、各ギルドから人材を派遣して顧問としているのさ」


ああ、この学園は生徒数も多いからな。アルトもかなりの研究会があるって言ってたし、当然と言えば当然か。生産関係の場合だと、教師よりもその道のプロに教えてもらった方が良いだろうし。


「にしても、お前たち何でこんな事知らねえんだ?アルトのクラスメートって事なら、何年かは通ってるだろうに」


「ああ。ヒバリたちは編入生なんですよ。だから研究会の事とか、まだあんまり知らないんです」


ガロンの疑問にアルトが答える。編入生という単語が予想外だったのか、ガロンは目を丸くしつつも納得した。


「編入生ねぇ……他の二人は兎も角、お前はそんなに優秀には見えないがな」


「うるさいのですよこの野郎」


フツメンで悪かったオイ。


「ガハハハ。冗談だよ。だからそんなにむくれんなって」


どうやらこの人、見た目と違って人当たりは良さそうだ。馴れ馴れしいとも言えるが。


「えっと親方。こういう訳なんで、別に私は遊んでた訳じゃないんですよ。ヒバリさんたちに、色々と説明していただけで……」


「馬鹿野郎!さっきまでアルトと楽しそうに言い合いしてたの知ってんだ。罰として工房の後始末全部やっとけ!」


「ふえぇ……」


訂正。身内の職人には厳しいらしい。見た目通りの頑固オヤジになってる。


とは言え、騒がしくした原因は俺にあるので、このまま黙っているつもりはない。微妙に涙目になってるテトラの前に立ち、ガロンさんと向き合った。


「まあまあ。原因は俺なんで、テトラちゃんをそんなに怒らないでくださいよ」


「ヒバリさん……」


「ああ?お前が原因って、一体何したんだよ?」


訝しげな顔をするガロンさん。俺はテトラちゃんの持っているミスリルを指差した。


「あれをあげるって言ったら、受け取れないって押し問答になったんですよ」


「あれ?……って、ミスリルじゃねーか!?お前正気か!?あれだけでも金貨数十枚はするぞ!」


愕然とするガロンさん。そんなに驚く事かね?


因みにだが、この世界の貨幣は銭貨、銅貨、銀貨、金貨がある。銅貨一枚が百円ぐらいで、十枚で一つ上の貨幣に変わる。銭貨は端数用として使われるので、あまり使用する事もない。一円玉とでも思ってほしい。後は金貨の上にも白金貨やら何やらがあるそうだが、まず使う事は無いので詳しい説明は端折る。


つまり、ルービックキューブサイズのミスリルだが、あれ一つで数十万円の価値があるらしい。元手タダなのにね。


「正気も何も、素材だけ持っててもいらんのですよ。かと言って、コレだけ売っても買い叩かれるのなんて目に見えてる。使い道が無くて肥やしにするより、職人に渡した方が生産的でしょう」


「あのなぁ……。お前、テトラはまだ見習いだぞ。ミスリルなんて扱える訳ねーだろ。加工しようとしても失敗するのがオチだぞ?」


「それはそれで良いでしょうに。経験は何ものにも代えられない宝ですよ」


「アホか!物には限度ってのがあるわ!ミスリルなんて貴重な素材、わざわざドブに捨てる馬鹿が何処にいる!」


いや、全く貴重じゃないですけど。普通に作れますけど。


「このサイズだと剣は無理だが、短剣ぐらいは作れる。魔道具にするにしても、形状次第では複数個は制作可能だ。然るべき所に持って行けば、ちゃんとした価値のある物になるんだぞ」


「いや、俺は魔法使いだから短剣なんて使わないですし、補助やら何やらが必要な程未熟じゃないです。使い道が本当に無いんですよ」


「なら売れば良い。ミスリルは未加工でも十分に価値がある。テトラに渡して使い潰すより、よっぽど利益になるぞ?」


「金なんて、そこそこ自由に出来る分があれば

問題無いです。必要以上は要りません」


魔法を使えば大概の事は出来るのだし、大金持ってても使う機会なんてそんなに無い。と言うか、稼ごうとすれば幾らでも稼げるので、特に執着する理由がない。


視線でその意思をガロンさんに伝えると、彼は神妙な顔をして確認してきた。


「……本当に良いんだな?」


「ええ。全く問題無いですね」


「返せ、なんて言っても無駄だぞ?」


「そもそも要りませんし」


「……ったく、しょうがねえなぁ」


俺の意思が変わらないと悟ったガロンさんは、大きくため息を吐いた。つい折れたみたいだ。


「分かった。これは俺が預かっておく」


「……いや、テトラちゃんにあげたんですけど」


「別にくすねる気は無いから安心しろ。今のテトラじゃミスリルなんて絶対無理ってだけだ。せめて、ミスリルを加工して成功する確率が出る様になってからじゃないと任せられん。素材を捨てる様は真似、職人として絶対にさせられんからな」


職人としての矜持を持ち出されてしまっては、職人じゃない俺からは何も言えない。此処は大人しく従っておこう。


「テトラもそれで良いな?」


「え、ですが親方……」


「本人が構わないって言ってんだから貰っておけ。良いじゃねーか。見習いの内からミスリルなんて上質な素材のアテが出来て。経験を積むにはもってこいだぞ」


「しかし……」


「それでも納得いかないなら、その素材でそいつに何か作ってやれ」


「……分かりました」


親方からも説得され、ついにテトラの方が折れたみたいだ。


「ヒバリさん、ありがとうございます。ミスリルは有難く頂きます。お返しとして、いつか貴方にミスリル製の道具を作ってみせます」


「そんなに固くなくて良いのに。まあ、楽しみに待っておくよ」


「はい!」


とても良い笑顔でテトラちゃんが笑う。太陽のような笑顔に釣られ、こちらもつい微笑んでしまった。


そして、何故かガロンさんがニヤニヤしている。一体何だ。


「にしても、そこまでしてテトラに贈り物したかったのか。何だ?もしかして惚れたか?」


「ふぁ!?ちょ、親方!?」


黙れこの髭ダルマ。そして何故慌てるテトラちゃん。


「いや全く。タダのノリです」


「……即答かよ。しかも嘘吐いてなさそうだし……」


「それはそれで何か悲しいような……」


俺の回答にがっくりと項垂れるガロンさんとテトラちゃん。何をそんなリアクションとる必要があるか。


「出会って一日も経ってないのに惚れる訳がないでしょうに。流石にこの歳で一目惚れなんてする気も無いですし」


んなピュアな心なんてとっくに捨てたわ。


「いや、正論なんだろうが……なんだ。もう少しぐらい取り乱しても良いだろうに」


「取り乱す必要も無いですね」


だって事実無根だもん。


「……なんとなく、私と相性悪いって言ってた理由が分かった気がします」


ジト目でこちらを見てくるテトラちゃん。いや、俺なんかしたか?


「いや、したはしただろ」


「女の子を勘違いさせたんだよ?万死に値するよヒバリ」


「いやいやいや!俺さっきもノリって言ったよな!?」


怖いわ翔吾!本当そっち方面だと容赦無えなオイ!


「……こんな感じで、ヒバリは人を振り回す天才だから、ガロンさんもテトラも気をつけてね?」


「……おう」


「やっぱりそう言う意味ですか……」


納得しちゃった!?


「アルトは冷静に解説してんなっ!そして誰が人を振り回す天才だコラ!」


「しらばっくれんな」


「どう考えてもお前だよ」


「自分の胸に手を当てて考えろ」


見事な三段落ちありがとうございますコンチクショー!


「それは兎も角。女の子は純粋なんだから、誤解を招く行為はしないように。分かったヒバリ?」


「イエス・マム!」


「……普通はサーじゃない?」


「外見的特徴から判断しました。マム」


「うるさいよ」


「痛ただただっ!?」


ヤメテ!アイアンクローはヤメテ!僕のライフはもう5683290よ!……まだまだ元気だな。


「良くもまぁ、説教されてる最中にまでふざけられるな……」


「えっと、仲が良いって事なのでは?」


「いや、ヒバリが馬鹿なだけだ」


「因みにこの光景。僕は既に十何回と見てるよ」


白けた視線を向けてくる一同。唯一フォローをしてくれたのはテトラだけだった。


「って、ヒバリ、ショウゴ!ふざけるのはそこまでにして!そろそろ次行くよ」


割と長居していた事にアルトが気付き、俺たちのコントを中断してくる。


「何だ?もう行くのか?」


「あ、はい。全部とは言いませんが、大まかな所だけは回っとこうかなって」


「んじゃ、確かに急がねーとな。後何個回るつもりだ?」


「各連盟の中から一つずつって考えてるんで、後三つ程」


「……キツくないか?今からだと二つが限度だろ」


「流石に今日で全部回るつもりは無いですから。……とは言え、ヒバリがいるんでさっさと片付けたいんですよ。何気に二人も危ないし」


「……ああ、なるほどな」


「「「オイ」」」


ボソリと小声で言ったみたいだが、一字一句余さず聞こえてるぞ。そしてオイこの髭ダルマ。何納得してやがる。


「あはは……。まあ、そんな訳なんで、僕たちはそろそろお暇しますね」


「おう!何かあったら訪ねて来いよ」


「ヒバリさん!ミスリルありがとうございます」


「ああ、じゃあな。テトラちゃん」


「俺は!?」


「……はいはい。さようなら、ガロンさん」


「んだよ今の間は!そして仕方なさそうな顔してんじゃねえ!」


じゃあこんな顔。


「誰が嘲笑を浮かべろって言ったぁ!」


結局、最後までガロンを揶揄って、俺たちは店を後にした。


「……凄いねヒバリ。ガロンさんって凄い怖い事で有名なんだよ?」


一周回って感心したとアルトは言う。とは言え、こちとら魔王も蹴散らす魔導師である。怖いの基準が一般的とはかけ離れてる。最高位の戦神、絶対悪を体現する悪魔、そして暴虐と理不尽の化身たるクイーン。


『ほほう?誰が理不尽ですって?』


『ゴメンなさいなんでもないです』


……ヤバいヤバい。危うく地獄を見る所だった。てか、久々に覗かれてたな。


「どしたのヒバリ?凄い汗だけど」


「ナ ン デ モ ナ イ ヨ」


「???」


まあそんな訳で。彼らと対峙した経験を持ってすれば、頑固オヤジなんて屁でもない。


「でだ、次は何処行くんだ?」


「何か様子がおかしいけど、本当に大丈夫?」


「でだ、次は何処行くんだ?」


「触れるなって訳ね……」


うん。そうしてお願いだから。久々に死の恐怖を感じて動揺してるんだ。


そんな俺の心を読み取ったのか、アルトはその形の良い唇を尖らせ、しばしの間考え込んだ。


「そうだねぇ、次は戦士連盟……うん。剣術研究会に行こうか」


ほほう。剣術ねえ……。一応は俺たち全員嗜んではいるが、他の学生レベルを見るのは初めてだな。結構興味深いかも。


「オッケ。じゃあ行こうか」


「うん。早くしないと時間なくなっちゃう…し……ね」


先頭を歩いていたアルトが、セリフの途中で固まっていった。一体如何したのかと視線を追えば、俺たち一同は納得した。


「あー……」


「うわ、なんて間の悪い」


「こりゃ、今日はもう無理だな多分」


はあ、と溜め息をつく俺たち。視線の先に居たのは、


「む?貴様はっ!」


ハンス・ドルク・シグムント。我らが勇者候補(笑)の坊々だった。


はぁ……また面倒事になりそうだ。


作中での翔吾のアイアンクロー。あれって実はヒバリだから痛いで済んでますが、一般人だと頭蓋骨が粉砕します。翔吾も十分強いですからねー


そしてセリフだけですけど、まさかのクイーン初登場。

魔導師は規格外の象徴みたいな奴なので、異世界を覗く事なんて訳ないです。暇つぶしと称して、魔導師は異世界を覗いてる事もしばしば。ヒバリも度々覗いてます。主に地球のアニメ、漫画、ラノベですけど。


先に言っておきますが、今回の登場は特に意味はないですね。今の所は。登場させたのはなんとなくです。




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