魔導師様御一行、研究会探索ツアー その4
これを投稿して少ししたら、続きをまた投稿します。長くなり過ぎましたんで。
誤字脱字の可能性大です。
訂正しました。言い訳→良い訳
「え?此処って学園だよな?」
一応の事実確認をと思って改めて尋ねてみるが、アルトからは無言の肯定しか返ってこなかった。
もう一度、周囲を見渡してみる。武器防具が大量に置かれている店。魔道具と思われる物を扱っている店。やけに凝った装飾がされている衣服が大量に置かれている店。他にも専門店と思われる外観の店が大量に。
うん、街だろこれ。
「アルトさんや。此処って学園だよな?」
「……いや、信じられないのは分かるけど。何度も言うけどそうだから」
いい加減認めろと言外に言ってくるアルト。いやでもさ、これってどう考えても学園の設備じゃないだろ。
隣を見れば、雄一と翔吾も頬を引き攣らせていた。
「……この学園だけで日常生活出来るだろ」
「……寮があって校舎があって訓練場や商店街もある。もう学園都市って改名した方が良いんじゃない?」
実際、この学園の面積が面積なので、都市と言っても過言では無いと思う。
「つーか、さっきの場所もそうだけど、この大量の建物はなんだよ。幾ら掛かってんだか」
如何に魔法があるとは言え、店規模の建築物を建てるには相応の金が掛かる。それを研究会毎に費用を出しているのなら、かなり馬鹿げだ額になるだろう。
「あ、それは大丈夫。ここの建物に関しては、街の職人ギルドのツテで格安になってるらしいから」
「ツテ?」
「うん。大体ここの生徒って、自分が所属している学科や研究会に縁ある職に就くでしょ?その関係で、街の職人ギルドの人たちに色々とツテがあるんだって」
「なるほどね」
この学園の卒業生は幅広い分野で活躍している。その活躍は目覚しく、大きな組織の中核には必ず卒業生がいたりする程だそうだ。そしてそれに比例するが如く、この学園の影響力は凄まじい。それを考えれば、大量の資材や資金を手に入れる事など造作も無いだろう。
持つべき物は友と言うが、この場合だとコネである。
「コネって凄いなぁ……」
人脈は偉大。
「ほら、こっちだよ」
アルトに先導されて、俺達は商店街を突き進む。聞こえてくる喧騒なんて本当に街みたいで、此処が学園だと言う事が忘れそうになる。小さな店や大きな店、ボロい店や良く分からない感じの店など、歩いているだけでも楽しい場所だ。
「なんか、学生のうちはこの学園だけで生活が完結しそうだな」
賑やかさは王都の大通りと遜色ない。むしろ学生しかいない分、活気もあるし治安も良い。街として考えたらかなり理想的である。いや学園なんだけどさ。
「あー、実際そうみたいだよ。寮に入ってる友達で、学園から出るのは帰省の時だけなんて子もいるし。この学園に出来るだけ居たいって理由でギリギリまで留年してたり、職員として戻ってきたりする人も居るみたいだし」
「マジかいな」
どれだけ居心地が良いのだろうか、この学園は。折角卒業したのに、職員になってまで出戻りするなんて相当だろ。
呆れた気分で周囲を見ていたら、ふと疑問が沸き起こった。
「此処でも色々売ってるよな?」
「え?ああ、うん。ご覧の通りに」
「けどそれって商人連盟の領分じゃないのか?住み分けとかどうなってんだ?」
物作りまでなら確かに職人の仕事だが、そこから先の認識は結構ややこしい筈だ。これが本物のギルドなら兎も角、学生主体の研究会だとどうなっているのだろうか。
そんな風に俺が感じた疑問をぶつけてみるも、アルトから返ってきたのは素っ気ない答えだった。
「いや、流石にそこまで知らないから」
「知らないのか?」
「あのねぇ……。そりゃあ、案内しているのは僕だけどさ。そもそも僕は魔法系の研究会所属だよ?流石に住み分けやらなんやらなんて知らないよ」
ごもっとも。
「いやー、これまでの流れからつい」
アルトが予想以上に物知りだったので、疑問を持つことなく聞いていた。反省反省。
「僕は君たちと仲良いって理由で頼まれただけで、案内役が本職って訳じゃないから。そう言うのは本人たちに聞いてよね」
肩を竦めながら、アルトはある方向を指差した。その先には刀剣研究会と書かれた看板と、一軒家よりもふた回り程大きな店があった。どうやら到着したらしい。
「テトラー。居るー?」
どうやらアルトはこの研究会に知り合いが居るらしい。勝手知ったると言った感じで店に入っていくと、奥からトタトタと走ってくる音がした。
「はいはーい。どちら様でしょうか……って、なんだアルト先輩ですか」
「またご挨拶だね」
出てきたのは十歳前後の少女だった。親しげにアルトと話す様子を見ると、かなり仲が良いみようだ。
「それで、アルト先輩。本日はどの様なご用件で?先輩のナイフはこの前買い直したばかりの筈ですし、後ろの方たちの武器でも買うんですか?」
来店の理由を尋ねる少女に、アルトは首を振って目的を告げる。
「今日は買い物にきた訳じゃないんだ。編入してきたばっかの三人に、研究会を案内してるんだよ」
「ああ。それじゃあこの人たちが噂の……」
何か得心が言ったと頷く少女。噂とやらが大変気になったが、それを尋ねる前にアルトが此方に振り向いた。
「ヒバリ、ユウイチ、ショウゴ。紹介するよ。彼女はテトラ。この刀剣研究会で見習いをやっている娘だよ」
「えっと、初めまして。テトラ・ノートンと言います。種族はドワーフで、これでも十三歳です」
ぺこりと可愛らしくお辞儀するテトラ。見た目はまんま小学生である。
「俺はヒバリ・サクラギ。アルトのクラスメートって事でよろしく」
「ショウゴ・タチカワだよ。よろしくね、テトラちゃん」
「ユウイチ・スズミヤだ。よろしく頼む」
「ユウイチさん、ショウゴさん、ヒバリさんですね。はい、此方こそよろしくお願いします」
ぺこりとお辞儀するテトラ。その姿を見ていると、ふと思った事があった。
「ドワーフって髭もじゃなイメージがあるんだが……」
「それは男性の特徴ですよ。流石に女性にまで髭は生えません。一体どんなイメージ持ってるんですか?」
少し呆れたとテトラが言う。
俺たちが思い浮かべるドワーフと言えば、毛むくじゃらな小人である。見た目に反して筋肉質で、手先の器用さを合わせ持つ。主に鍛冶などの生産業を生業としているイメージだ。
「そこまで分かってて、何で女性に髭生えてるとか思ったんですか……」
「いやー、ドワーフ初めて見たし」
「私はその中途半端な知識について言ってるんですよ……」
がっくりと項垂れるテトラ。リアクションは大袈裟だが、常識人で苦労人な雰囲気を感じる。
「……この子は多分、雲雀と相性悪いね」
「常識ブレイカーと常識人だ。相性なんて良い訳ないだろ」
「うーん……ツッコミが増えて喜ぶべきか、被害者が増えて悲しむべきか」
上から翔吾、雄一、アルトである。君たちあまり変な事言うんじゃないよ。テトラちゃんが後退ってるじゃないか。
「何かサラっと不吉な言葉が聞こえたんですが……。え、ヒバリさんってヤバい人ですか?」
「その内分かるよ」
「まあ、頑張れ」
「性格的には問題無い……訳じゃないね。いや、良い人だよ?」
うん。雄一や翔吾は兎も角、アルト君や。せめて性格面は言い切って。いや本当。
「……えっと、お近づきの印に」
なんとなーくテトラちゃんの視線が痛かったので、それを誤魔化す為に粗品をあげることにした。出処は勿論魔窟で、バレない様に懐から出した。サイズもしっかり考えてる。
「え!?いや、いきなりそんな受けとれない……って、え?こ、これ何ですか?」
手の平サイズの銀色の立方体を眺め、首を傾げるテトラ。だが、暫くしてその正体に思い当たったのか、かたかたと体が震え始める。
「純鉄…いや、この光沢は違う。材質的には銀に近いけど……この大きさの割に少し、いやかなり軽い?それに魔力伝導率も銀とは桁違い……じゃあ、やっぱりこれ魔法銀!?」
そう。俺が渡したのはファンタジーでお馴染みの鉱物、ミスリルである。特性としては、重量が他の金属と比べて圧倒的に軽い。金属としては柔らかいとされる銀の仲間だが、加工次第では鋼以上の耐久性を得ることが出来る。また、魔力の親和性と伝導率が高い為、魔法や魔道具の触媒としても使用される。
そして勿論だが、
「こんな高価な物受けとれませんよ!?」
割と高い。
ミスリルは優秀な鉱石である事は間違いないないし、特定の環境でないと採掘されないので希少性もある。分類上も銀なので、普通に鉱石としても価値が高いのだ。
どれ位の価値かと言われれば、学生ではまず手が出ない程度である。不意打ちとはいえ、ルービックキューブぐらいのサイズで、渡されたテトラが思いっきり狼狽える事からも察して欲しい。
「流石にコレは駄目です!こんなの親方ぐらいしか扱った事無いですよ!会長だって殆ど扱った事無いような物、見習いの私が触っていい物じゃないです!」
「贈り物なんだから普通なの渡す訳ないじゃん」
つまらない物ですがって言って、本当につまらない物渡す人なんていないだろ。
「いやその理屈はおかしい」
「高価な物が良いって訳じゃないから」
あれー?
「いや、まずミスリルなんて何で持ってるのさ……」
「「ヒバリだから」」
「あぁ、やっぱりそうだよね……」
納得しちゃうかー。そろそろ本当に染まってきたな。
「何でそれで納得しちゃうんですか!?」
そしてこっちはまだ染まってないね。この反応が既に懐かしくあるわ。
「まあ兎も角、せっかくあげたんだから貰ってよ。俺が持ってても意味ないし。職人に渡した方が良いでしょ」
「けど、流石にこんな高価な物は……」
「いやー、高価って言ってるけど、それって王都に来る途中で人助けしたら貰った物だし。元手なんてゼロなのよ。だからあげても問題無し」
因みに、今言ったのは殆ど嘘である。ミスリル持ってる経由を適当にでっち上げただけで、実際には人助けなんて全くしてない。唯一本当なのは、ミスリルの元手がゼロだという事だけだ。
何故元手がゼロなのか。理由は簡単。ミスリルが天然物ではなく、俺のお手製であるからだ。
ミスリルというのは、マナを大量に含んだ地層にのみ存在している。長い年月を掛けて、地層の銀がマナを大量に吸収する事で、ミスリルは出来上がる。
という訳で、魔法で銀の分子を抽出してから、魔力を大量に充ててみた。そしたら出来た。ぶっちゃけてしまえば、材料なんてそこら中にあるので、ミスリルなんて何時でも幾らでも作れるのである。
とは言え、それを知らないテトラからすれば、簡単に受けとれないのも事実。実際、未だに色々と迷っている。
「やっぱり受けとれません。私がヒバリさんからこんな高価な贈り物をされる理由はないですし。寧ろ、何で出会ってすぐの私に贈り物なんてされるんですか?」
「いや、ノリ?」
「ノリで与えて良い物じゃないですよコレ!?」
いや、実際ノリだし。アルトたちの話の流れで何となくあげただけだし。
「恨むならアルトを恨め」
「アルト先輩!!」
「えっ!?僕が悪いの!?」
矛先がアルトに向かったので、ひとまずは良し。先程の仕返しという意味も多分に含んでいる事は否定しない。
「(悪い奴)」
「(というか、お前ノリって言っておけば大概なんとかなるって思ってるだろ)」
「(言うな。事実だが)」
俺が刹那主義で享楽主義なのは二人とも知ってるだろうに。
そんな感じでこそこそ話し合っていると、今度はのっしのっしと言う音が奥の方から聞こえてきた。
ノリ……それは偉大な言葉。この一言で大概の理由になるんで、良い言葉ですよねー。
人生はノリがあれば生きていけます。これ私の格言(嘘)です。




