魔導師様御一行、研究会探索ツアー。その2
話の展開上、幾つかに分ける為に短くなってます。
誤字脱字の可能性大です。
「え、これが研究会?」
目の前にあるのはデパートもかくやと言うサイズの建物。アルトはこれが商品研究会の施設だと言ったが、このサイズは無いだろう。いや、売店みたいな役割をしているらしいし、間違っては無いんだろうけどさ。
「街でも無かったぞこのサイズ」
幾ら年齢層の幅広い学園とは言え、これはやり過ぎな気がする。時たま街をぶらつくのだが、デパートサイズの店を持ってる商会なんて見た事無い。
「伊達に世界有数の教育機関なんて呼ばれてないよ。この規模の商店なんて街でやったら苦情殺到するだろうしね。この学園の広さがあってこその施設。まあ、流石にこの大きさの施設を持てるのは一部だけどさ」
異世界でも日照権みたいなのは存在するのだろうか?いや、このサイズはそれ以前の問題か。そう考えれば、確かに無駄な広さを持つこの学園こそだろう。
「早速入ろうか」
アルトが先導する形でデパート(仮)へと入っていく。
「いらっしゃいませ」
中にはこのデパート(仮)の制服と思われる物に身を包んだ人々がおり、忙しなく動き回っていた。……もう明らかに商会だろこれ。
「あら、アルトじゃない」
俺達が呆気に取られていると、スタッフ?の一人らしき少女がやってきた。どうやらアルトの知り合いらしい。
「あ、フルール」
フルールと呼ばれた少女はニコニコとアルトに駆け寄り、そのままアルトの頭を自分の胸へと抱え込んだ。
「わぷっ!?ちょ、やめ、フルール!」
「アルトは相変わらず可愛いわねぇ。このっ、このっ」
どうやらフルールという少女は中々に愉快な性格らしい。アルトの事を溺愛している姉と言った感じだ。
フルールの顔の造りは悪くなく、体型もグラマラス。そんな少女が、見た目猫耳美少女のアルトに抱きつく光景は眼福ですらある。……片方男だけどな。
とは言え、置いてきぼりを食らっているのも事実だ。そろそろ話題を戻したいのだが。
「ちょ、フルール!仕事は良いの!?まだ休憩じゃないでしょう!」
「だいじょーぶ!仕事よりもアルトの方が大切だし」
……ふむ、どうやら願望は通じたらしい。アルトに頬ずりしているフルールは気付いていないが、後ろに笑顔(目は笑っていない)を浮かべた青年が立っていた。片手には分厚いカタログらしき物を装備している。
「ほらほらほら〜。あー、癒される。あの陰険メガネのストレスが解消されるわ〜」
「ほう……それは良かったなフルール。所で、頼んでいた資料は出来上がったか?」
「そんなの後回しに決まってるじゃない〜。今はアルトで癒されるのが先よカスパー……ル」
誰と会話していたのか気付いたのか、青ざめたフルールは壊れたゼンマイ仕掛けの様に首を回した。
「……てへ」
「仕事しろこの馬鹿店長!!」
カスパールと呼ばれた青年は青筋を浮かべ、手に持っていた分厚いカタログ(仮)を思いっきりフルールの頭に振り下ろした。
「ぐぎゃあぁ!?」
女性とは思えない様な絶叫を上げ、フルールは頭を抑えてのたうち回る。うん、あれは痛い。
「……と言うか、店長て……」
もんどりうっている『コレ』が店長とか大丈夫かこの店?いや、それ以前に店長って訳だから、ボス、最低でも幹部クラスのお偉いさんだろ?本当に大丈夫かこの研究会。
「御心配なく。貴方の考えてる事は尤もですが、何だかんだでコレは有能ですから」
いつの間にか近寄っていたカスパールさんが言った。冗談を言う人には見え無いから本当の事なのだろう。偶にいるよな、こう言う実力と性格が釣り合って無い人。
「お前もだろう」
否定はしない。
「それで、今日は当店にどう言った御用件でしょうか?」
おお。何事も無かったかの様に話を進めてきた。多分慣れてるんだろうなぁ。ご愁傷様です。
「えっと、今日は買い物に来た訳じゃないんです、カスパール先輩。編入生に学園を案内する途中寄らせてもらいました」
アルトの言葉に納得の表情を浮かべるカスパールさん。
「ああ。やはり彼等が噂の編入生でしたか」
どうやら既に知っていたらしい。その噂というのは大変気になるが。
「初めまして。私はカスパール。本科二年の商人科に在籍しております。当店での役職は副店長となっておりますので、何か御用の際にはそこの『馬鹿』では無く私にお申し付けください」
完璧なお辞儀をしながら自己紹介をしてくれたカスパールさん。さり気なく店長をディスってるのはスルーした方が良いのだろうか。
「これはこれは御丁寧に。予科三年のヒバリです」
「同じくユウイチです」
「ショウゴです」
此方も取り敢えずは自己紹介を返す。そして視線をカスパールさん曰く『馬鹿』に向けた。……未だに蹲っていて会話出来る雰囲気じゃないな。
「はぁ……彼女はフルール。本科一年に在籍しており、当店の店長を務めております」
代わりにカスパールさんがフルールさんを紹介するが、その顔には不満がありありと浮かんでいた。まあ、彼女の立場への不満と言うよりは、性格の面での不満みたいだが。
まあ、出会ったばかりだし今は流しておこう。あまり踏み込み過ぎても印象が悪くなるだけだ。身内の恥なんて人に聞かれたくも無いだろうし。……面白そうではあるけど。
「所で気になっていたのですが、『当店』という事は他にも店舗があるのですか?」
話題を変える目的で、少し引っかかっていた事を聞いた。
「ええ。この学園は広いですからね。一つしか店がないと色々と不便なんですよ。なので、商人連盟に所属している研究会で、ある程度の規模の研究会なら大概は複数の店を持ちます。ここは『商人研究会・校舎前店』になります」
どうやら、商売関係の研究会は学園敷地内でチェーン展開されているらしい。確かに、幾ら転移陣のお陰で移動が楽でも、時間的ロスというモノは存在する。それを切り捨てるなら、近場にあった方が良いのは確実だ。他にもその場所のニーズにあった商品を仕入れる事が可能になる。合理的と言えば合理的だ。
「成る程。それで、この研究会は主に何を扱っているんですか?」
店といっても色々ある。商品の種類や目玉などでかなり細分化されるモノだ。アルト曰く幅広い商品を扱っているらしいが、具体的には何を扱っているのかが気になる所だ。
「そうですね……基本的には大概の物を扱っています。専門的な物でない限り、商品研究会に来て頂ければ大体の物は揃うでしょう。挙げていくと、文房具の様な雑貨に始まり、武具、薬品、魔法具、少し捻った物だと情報でしょうか」
「情報、ですか」
「ええ。この様な感じで纏めております」
カスパールさんは近くにあった紙束を渡してきた。
パッと見た感じだと新聞に近い。内容も結構豊富で、学園の教師や生徒のゴシップ、今年のファッション、薬草や魔物の分布、後は最近の出来事だろうか。
「何々……アール公爵夫妻快復。勇者の出立決定。リザイア王国第三王女、魔人襲撃に遭遇する。……凄いな。他国の出来事も書いてある」
「それらはかなりの大事だったからね。情報収集を生業としていなくても、比較的簡単に知る事が出来る。もっと詳しい事を知りたいのなら、情報研究会に行ってみると良いですよ。彼等は本職だから、私たちよりも正確な情報を持ってるので。……高いでしょうが」
そらそうだ。情報程質が要求され、尚且つ重要性の高い物なんて無い。入手するのだって場合によっては危険が伴い、それの真偽についての裏付けだっている。値段が高くなるのは当たり前だ。
そもそも、これらの事に関して言えば知るも何も当事者である。他の誰よりも詳しい情報を持っているので、調べる事は何も無い。
……てか、今思い出した。俺、フィアの事がっつり放置してたわ。なんかむくれてそうだし、今度何かしてご機嫌取りでもしておこう。あんな火種になりそうな人物が、俺と二度と関わらないなんて経験上絶対に無い。ならば、次回会った時に火種を消しておくのが得策だろう。
「にしても勇者かぁ……。もう旅立つのか」
何気にこれも初耳だ。爺さんから進捗状況はちょくちょく聞いていたが、学園の方のあれこれで最近は聞いてないんだよな。確か団長とセリアさんにしごかれながら、王都の近場にあるダンジョンに放り込まれてたとか。
ダンジョンに関しての説明は省く。アレだ。ラノベで良くある奴と同じだ。
まあ旅立ちが決まったって事は、ある程度は戦える様になったって事だろう。それでもこの短期間で魔人クラスと戦えるかと言ったら、また微妙な所だ。俺の予想だと二・三回打ち合えれば良い所だ。……え?翔吾や雄一はどうなんだって?あれは例外。俺がそうした。
にしても気になるな。うーん、今度聞いてみるか。知り合いをみすみす死なせるのは嫌だし。魔人相手じゃ団長やセリアさんを随伴させてもキツイだろうし。
そんな感じで頭で色々と考えていると、カスパールさんが笑い掛けてきた。
「その情報誌は差し上げますので、後でゆっくり読んでください」
「良いんですか?」
「はい。新規のお客様という事でサービスです。その代わり、これから色々と物入りの時は、当店をご利用して頂ければ幸いです」
おおう、流石は商人。そう言われたらご贔屓にするしかないね。カスパールさんは色々と良い人そうだし、フルールさんは愉快な人だし。
その後、俺達は軽く店内を見て回り、次の場所へと向かった。
この辺りは学園の設定を載せるのと、幾つかのフラグを盛り込む為のお話だったりします。




