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魔法の授業 後編……なのか?

この話で切ってもいいし、続ける事も出来るので、こんなあやふやな題名になっちゃいました。

先の展開を考えてないお前が悪いなんて言わないで。

はい、皆さんこんにちは。ボクの名前は桜木雲雀。処刑待ちの死刑囚の気持ちが分かる十五歳だよ。


「うっさい黙れ」


現在気分は超ブルー。怖いお兄さんに睨まれてガクブルになってるんだ。


「……なあ、死ぬか?それとも生きるか?」


うわー、怖いお兄さんが激おこぷんぷん丸だお。


「……OK。なら死ね」


「NO!イエス、アライブ!!」


「だったら変な実況入れんじゃねえ。誰が怖いお兄さんだ」


「……ねえ、何であなた様は人のモノローグが分かるんだい?」


暴言吐いた瞬間に的確な脅しが飛んでくるんだが。


「お前の考えそうな事なんか分かるわ。何年の付き合いだと思ってんだ」


「分かり易いしね。雲雀は」


「あらら」


流石は親友。俺に対する謎のテレパシーを持ってるらしい。……男なのが本当に残念である。


「ほら、そんな事よりさっさと行くよ」


くだらない事を考えていると、翔吾が早くしろと急かしてきた。周りを見れば、殆どの人たちが移動し終わっていた。


そうそう。親友に命を狙われてたけど、今って授業中だったんだよね。


「「自業自得」」


だからモノローグを読むな!!




「ん?ヒバリはこっちにきたの?」


エクレ先生のもとへと向かうと、先に移動していたアルトが不思議そうな顔をしていた。


「確か陛下から推薦されたんだよね?だったらトト先生の方が良いと思うけど」


そう言って小首を傾げるアルト。


まあ、当然の疑問だろうか。一応は実力者って事で編入してるのだから、魔法が苦手な人を集めたエクレ先生の方にくるのは不自然だろう。


ちゃんと言い訳は考えてあるけど。


「いや、俺たちって魔法我流で覚えたからさ。だからちゃんとしたやり方も教わっとこうかなって」


「へー……って、あれ?魔法って我流で覚えられるモノ?」


引っかかりを感じて首を傾げるアルトに、翔吾がげんなりとした顔で告げた。


「魔物の群れに放り込まれて必死になって覚えたんだよ……」


「……君たちの故郷はどうなっているのかな?」


頬を引くつかせるアルトに雄一が怒り顔で告げる。


「やったのはそこの馬鹿だ」


「あれ君たち確か親友だよね!?」


うん。だからこそなんだよ。


「獅子は我が子を崖から突き落とすそうな。……だから魔物の群れの中心に落としてみました」


「「「本当に落とすな馬鹿野郎!!」」」


うわー、息ぴったりだな三人とも。けど試練は与えてナンボだろ?


「……分かったか?これが雲雀だ」


「……うん。ユウイチ君が馬鹿と呼ぶのも納得」


「慣れれば退屈しないんだけどねぇ……。慣ればね」


「慣れても大変そうに見えるのは気のせいかな……」


何故か分かり合ってる三人。うむうむ。仲良きことは美しき哉。……きっかけが俺への愚痴ってのが釈然としないが。


そんなやり取りをしていると、


「さーて、それじゃあ喋ってるそこの四人。君たちの一番得意な魔法を発動してみなさい」


「「「「っ!?」」」」


エクレ先生の言葉に俺たちはビクッと飛び跳ねた。


ヤバい。喋ってんのバレてたっぽい。


隣を見れば、雄一と翔吾も冷や汗をかいていた。……そりゃそうだ。だって普通のやり方を学ぼうとしてたのに、それを教わる前に実践しろって言われたんだから。


無詠唱を使うって手もあるが、それだと目立つ上に多分やり直しさせられる。無詠唱は出が速くなるが、その分威力とコストを犠牲にしているので実践以外だと役に立たない。発動速度が課題でもない限り、授業などで行う技能じゃないのだ。


「(……おい、どうするよ?)」


「(ごめんなさいして見逃して貰うとか)」


「(多分無駄だな。アルトは兎も角、俺たちの場合は実力の確認の意味もある筈だ)」


チラリと周りを見れば、成る程確かにその通りだ。エクレ先生もそうだが、トト先生やゴルゴ先生。それに何人かの貴族らしき奴らも此方を伺っていた。


「(回避は不可能、か)」


「(みたいだねぇ……)」


「(腹括るか……)」


とは言え、この世界の魔法なんて詳しくないしなぁ。詠唱とかもセリアさんから教えて貰っただけだからうる覚えだし。


それも、セリアさんと俺の魔法使いとしての会話で出てきただけなので、翔吾と雄一は全くと言っていい程知らない筈だ。


(感覚と本能に叩き込んだのが仇になったか……)


厄介事に対処出来る力を早急につける必要があったからの処置だったが、それが今では悔やまれる。


一応は魔法発動の理論やらも叩き込んだが、それがこの世界の考え方と同じかどうかも不明だし。


「(しょうがない。うる覚えだが、それでも多少は知ってる俺からいく。二人は後から真似するなりアレンジするなりして乗り越えてくれ)」


「それじゃあ僕からいきます」


……あれー?


…………ああ。そう言えばアルトも居たわ。


「(予定変更。アルトから学べ)」


「(締まらねぇなオイ)」


「(雲雀らしいねぇ……)」


オイそこ、しみじみ言うな。しょうがねえだろ、結構焦ってたんだから。


そんな会話をしている先で、エクレ先生がアルトに色々と説明をしていた。


「それじゃあ、あそこにある的へ向けて魔法を放ってください」


エクレ先生が指差した先には丸い的があった。見た目は弓道などで使う的をふた回り程大きくした感じだ。


そして、アルトが立つのは的から約二十メートル離れた場所。そこから的へと当てるらしい。


「……ふぅ」


小さく息を吐き出して集中するアルト。そして、彼の小さな口から呪文が紡がれる。


「[形成せ風よ・願うは刃]」


詠唱を唱えると共に、空気の刃がアルトの手元に現れる。


「【ウィンド・カッター】!」


魔法名を告げ、完成した風属性下級魔法【ウィンド・カッター】が的へと飛んでいく。


スパン!


「あ……」


だが、放たれた風の刃は的に当たる事はなく、訓練場の地面を切り裂いただけに終わった。


「風属性下級魔法【ウィンド・カッター】ですか。魔法の発動はスムーズに出来ていましたが、命中精度がまだまだですね」


「は、はい……」


エクレ先生の評価にがくりと項垂れるアルト。それに応じてへにょる猫耳&尻尾。


「当たる瞬間をもっと鮮明にイメージしたらもっと良くなる筈です。後、次から射線や距離なんかも意識して撃ってみて。威力の方は中々だったから、そう落ち込まない様にね。それじゃあ、下がって良いですよ。今度から話はちゃんと聞くように」


「は、はい!」


項垂れていたアルトたが、最終的には褒められた事に嬉しそうに顔をして戻っていった。


戻る時に、


「えへへ。やったぁ」


笑顔でそう呟いていた。


「……今度、翔吾と夢のコラボを」


「しないから」


おっと。つい心の声が。


アホな事やり取りをしていると、エクレ先生がこっちを見た。


「さて、次は誰がでるの?」


その言葉と同時に俺を見る雄一と翔吾。……いや、さっき自分でそう言ったから文句ねえけど、それでも生贄みたいに感じるぞその反応は。


……まあいいか。さっきのアルトの魔法で少し思い出したし。


「自分がいきます」


「……ヒバリ君ね。魔法が得意って言ってたし、どんなのが出るか期待してるわ」


そう言えばそんな事言ったな。


周りも注目してるみたいだし、期待に応えなきゃなるまい。


「(自重しろよ)」


「(ちゃんと考えてね)」


やり過ぎもダメって事ぐらい分かってるわい。


とは言え、抑え過ぎるのもまたなぁ。……うーむ、迷う。


取り敢えず、中級クラスの威力は出しとくか。属性は……うん、炎でいいかな。


中級の火属性の詠唱は……何だっけ?


えーと、確かこの世界の詠唱は一節毎で区切るんだよな。そして、節が多い程に威力や効果が上昇していく。一節で初級、二節で下級って感じだ。


また、最初の一節は属性を決め、二節目は形状、三節目で追加効果を指定するんだったか。


アルトの使った【ウィンド・カッター】の詠唱で説明するなら、形成せ〜の部分で風属性となり、願うは〜の部分で形状が刃物となる。ここで更に[〜つの斬撃]と加えればウィンド・カッターの数が増えたり、[不可避の斬撃]と加えればホーミング技能が付加させる。


詠唱についてはこんな感じだろうか。


(さて、どんな魔法にしようかね)


最近は色々と残念な扱いをされているが、これでも魔導師の一人。この世界の魔法に詳しくなくても、ある程度はイメージで模倣するぐらいは出来るだろう。


問題があるとすれば、この世界の魔法が体系化されている事か。体系化されているという事は、魔法の使い方が確立されているという事であり、これはつまり、多くの人が魔法について知識があるという事に他ならない。


そんな中で模倣した魔法を放った場合、下手すれば相当目立つ事になる。


……まあ、腹括るしかないんだが。


それに問題ばっかって訳じゃない。体系化されているという事は、魔法の骨組みが出来ている事である。


つまり、骨組みに逆らわずに魔法を組み立てていけば、即興で作った魔法であっても類似したモノになる可能性が高い。


(まさか魔法でこんなに悩む事になるとは……)


実力つける事に集中して勉強の方が疎かになってた反動がこんな形で返ってくるとは。まったく、後悔しても後の祭りとは良く言ったものだ。


(本当、諺とかって馬鹿になんないねぇ……)


そんな事を考えながら、指定された場所に立った。狙いは二十メートル先にある的だ。


緊張はない。もう成るようにしかならないんだし、腹括ってやるっきゃない。ぶっちゃけ開き直りだが。


(いやー、魔法の発表会なんて前は良くやったっけなぁ)


だが、それ以上に懐かしい。師天の頃を思い出す。


ニヤァと口が弧を描く。何だかんだ言いながらも、こういう状況は嫌いじゃない。


(さあ、イメージしろ!威力は抑えめ、けれども派手に。期待を裏切らず、見極め様としている奴らの度肝を抜かせ!)


さあさあさあ!折角みんな見てるんだ。どでかい花火を打ち上げようじゃないか!


「[形成せ炎・願うは柱・駆け上がる爆炎]【タワー・エクスプロード】!!!」


ドオォォォォンッ!!!!


「「「「「!?」」」」」


その光景は、見ていた者たちの度肝を抜き、見ていなかった者たちは何事かと振り向いた。


身体の芯を揺るがす爆音に、天を突くかのような火柱。


この二つが作り出したのは、衝撃によって捲れ上がった訓練場と、クレーターとなった爆心地。爆発の支点とした的に関して言えば、跡形もなく粉微塵となっている。


うん、イメージ通りだ。衝撃で周りが怪我しない様に上へと打ち上げる形にした事といい、標的としたモノの真下に自動で展開される仕様といい、正しくイメージ通り。


即席とは言え良い出来だ。自画自賛になるが、やはり魔法に関しては惚れ惚れする腕だな。


安心安全のドヤ顔で皆んなの方に振り向けば、そこにあるのは歓声と興奮の顔が……


「な、なんだよ、今の……」


「じ、授業で使う威力じゃねーだろ、あれ」


「上級の威力はあるんじゃないか……?」


困惑と畏怖の顔がありました。


「……あれ?」


中級魔法ってこのぐらいじゃないの?せいぜい十メートル近いクレーターと、その周りの地面が焦げただけだよ?ってか、これってただの地雷だよ?


こんな【裁きの雷霆】の超・超・超・超・超・超・超劣化版の魔法が上級とか、絶対にあり得ないだろ。


なのに、


「お・ま・えは!自重って言葉を知らんのか!!!」


「この、考え無しがー!!」


キレた雄一と翔吾が突撃してくるのですが。


「いや、これでもちゃんと自重したん」


「「問答無用!!」」


「いや、待てちょっ!?」


最初は翔吾が膨大な魔力が籠った蹴りが炸裂した。常人ならば四肢がもげる威力で放たれた蹴りが俺の足に直撃し、そのまま足を払われ宙を浮く。


そこに追撃を加えるのは雄一だ。強烈な足払いによって半分空中で回転している状態の俺に向かって、流れに逆らわない様に、寧ろ加速させる勢いでコークスリューブローを放ってきた。


結果


「くるっと回って一回転ーーー!!」


超高速回転しながら吹っ飛びました。


回って〜、 回って〜、回り疲れてひでぶっ!?


………ひでぶ?


ああ、最終的に地面とキスして止まったみたいです。見た目はしゃちほこみたいになってんじゃないっすかね。


そう、これが悲しい僕の末路だ。


息ができない……。

この話でやりたかった事、それは詠唱の説明でした。

決してアルトの魅力を伝えたかった訳じゃない。

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