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自己紹介 IN アール公爵家


今回はコメディ少なめです。

さて、お二人の治療も終わり、あの場に居た全員が客間と思われる部屋へと移動した。


「それでは、改めてヒバリの事を説明しよう」


クラリス嬢以外の屋敷の人間は俺が何者かを知らないので、爺さんが簡単に説明を始めた。


「この少年の名はヒバリ。陛下に才能を買われた平民の子供じゃ。………まあ、さっきのアレを見た者達はそれが表向きの理由だと分かっていると思うがの」


爺さんの言葉通り、さっきのお二方の復活劇を見た人達は神妙な顔をしていた。


「ヒバリは異世界人だ。今回の勇者召喚でどうやら巻き込まれてしまった様でな。此奴の他に後二人程いるがの」


「なんと………!?」


「そんな事が………」


クラリス嬢も驚いていたが、どうやらこの事実は驚愕に値するみたいだ。


「まあ、これは良いのじゃ。まあ、これも他言無用だがの。じゃがそれ以上に重要なのは、ヒバリがこの世界とも彼方の世界でもない魔法を使う事じゃ」


「それは一体………?」


「さっき見たと思うが、ヒバリの使う魔法の効果は絶大じゃ。しかし、本人はこの事を公にする気は無いみたいでの。……よって、ヒバリや後二人に関する今聞いた一切を他言無用とする。これは儂だけで無く、陛下からの厳命であると心得よ」


王の厳命と聞き、その場にいた全員の顔が険しくなる。………そんなに構えなくて良いんだけどね。


「あー、別にそこまで構えなくて良いですよ。ただ単にに厄介事が嫌ってだけなんで。喋らなければそれで良いですし」


「………ヒバリよ。折角作った空気を壊すんじゃないぞい」


「んな神妙にする程でも無いでしょうに。それに不安だったら適当に口封じの魔法でも掛けますよ」


俺の言葉に全員が身構えた。………いや、そんなヤバい魔法は掛けないから。確かに口封じって表現は物騒だったけどさ。


「安心して下さい。既に爺さんにも掛けてる魔法ですから」


「いや待て!それ儂も初耳なんじゃが!?」


「そりゃ掛けるに決まってるだろう。まだ、あの時は全員信用してなかったんだから」


「………そりゃそうじゃが。せめて、どんな内容かだけ教えてくれんかの?」


「うっかり無意識に零すのを防止する魔法だから安心しろよ」


ギアスは契約の魔法だ。爺さん達に掛けた際の契約内容は、『無意識の内に俺達の事を話す事を禁ずる』というものだ。それも一方的な契約の為、バラしても別に罰則は無い。心配する様な魔法じゃないのだ。………これが相互同意で掛けられた場合の契約違反は、結構えげつない事になるんだけどね。


「………はあ。まあ、お主の言ってる事ももっともか」


取り敢えず納得した様なので、爺さんとの話はこれで終了だな。


「えっと、話が少々ズレましたが、まあ緊張しないで下さいって事なんで」


「はあ………」


うーん、どうも皆ビミョーな顔してるなあ。まあ、いきなりこんなびっくり発言されたらこうなるのも納得だけどさ。


「さて、それじゃあ先ずは自己紹介でもするかの。皆も色々と言いたい事もあるだろうが、互いに知らんと始まらんからの。………ほれ、ライデン。先ずはお主からじゃ」


「俺からかよ!?」


いきなり話の矛を向けられ驚きの声を上げるライデンさん。だが、爺さんはそれを一蹴する。


「当たり前じゃろう。病が治った以上はまたお前が当主になるんだぞ?だったら当主であるお前が先頭を切るのが筋じゃろ」


「う、確かに………」


「それにヒバリはお前の恩人じゃぞ?それなのにお前は礼どころか名乗る事すらしてないだろうが」


爺さんの指摘にハッとするライデンさん。そして、俺の方に顔を向けて頭を下げてきた。


「そうだった。君にはまだ治してくれた礼を言って無かったな。済まない。私の名はライデンという。私と妻を助けてくれてありがとう。礼を言うよ」


さっきまでの口調とは違うのは、やはり貴族という事か。今までは爺さん譲りの粗い口調だったが、今は気品が漂う見事な話しぶりとなっていた。


「いえ、頭を上げて下さい。お二人を治したのはこの家に住まわせて頂く事への礼。言わば家賃代わりの様なものです。当然の事をしただけですよ」


「………お主ら、何処ぞの社交界にでもいるつもりか?二人とも全然似合っとらんぞ」


お互いに礼を失する事の無い対応をしていると、爺さんが呆れながらそうツッコんできた。


「………爺さん、普通はこういこ事は節度を持つものだと思うんだが」


「………親父、命の恩人に失礼な態度で接する訳にいかないだろが。と言うか、似合ってないってどういう意味だコラ」


「お主達は両方今の台詞を頭の中で反芻せい。そんな口調の奴の格式張った態度など寒気がするわ」


「「こんの不良ジジイ………!」」


同じタイミングで同じ言葉を吐き出す俺とライデンさん。………ふむ。取り敢えず、ライデンさんとは仲良くなれそうな気がする。


向こうもそれを感じ取ったのか、ゆっくりと手を出してきた。俺からもその手を取る。


「ヒバリ君、どうか楽にしてくれ。君とは良い関係が築けそうだ」


「俺もそう思った所ですよ。今夜どうです?中々の逸品があるのですけど」


「ほう。それは嬉しい誘いだな。………所で、それは一体どんな品か聞いても?」


「魔法を使って保存している100年物のワインです」


「それは楽しみだ!」


「ええい!儂も混ぜんか!」


「「イヤだ」」


「何故!?」


なんやかんや言いながらも、男組は良い関係を築けそうである。やはり酒の力は偉大だ。………あ、俺は実年齢は二十五歳だから未成年じゃないよ?それにこの世界では合法だからね?


「おほん。………そろそろよろしいかしら?」


ライデンさんの奥さんの咳払いによってピタッと動きを止める俺達。そのままそそくさと席に座る。………どうやら、二人も今の咳払い不機嫌そうな感情が込められているのを感じたらしい。女性のこれには従うのが吉なのだ。


「さて、次は私ね。私はシータよ。ヒバリ君、助けてくれてありがとう。改めてお礼を言うわ」


「いえ、当然の事ですから」


「くす。それでも、助けてくれたのだから。お礼を言うのは当然でしょう?………でも、主人もまだ病み上がりだから、お酒を進めるのはヤメてね?」


「イエス・マム」


シータさんの言葉に即答で頷く俺。何故だろうか。お礼を言われてるのに冷や汗が出た。………後ろでライデンさんも項垂れてるので、今夜の飲み会は中止みたいだな。


「さて、次はクラリスね。ほら、貴女もヒバリ君に自己紹介なさい」


「えっと、改めまして、クラリスです。両親を助けて頂きありがとうございます」


「さっき言いましたがヒバリです。これからよろしくお願いしますね、クラリス嬢」


「………あの、敬語じゃなくて構いませんよ?それと、名前も呼び捨てで結構です」


「あらそ?だったらお言葉に甘えて。ならそっちも敬語じゃなくて良いぞ?」


「私はこの口調が地なので………」


「へー」


うーん、何か爺さんの言ってたのとはちょっと違うぞ?なんつーか、素っ気ない?


(おい爺さん。どうもアンタの言ってた様には思えないんだが。アレの何処が明るいんだ?)


(恐らく緊張してるのじゃろ。貴族の娘とはいえまだ子供じゃからな。王の厳命が下る様な相手に接する事など初めての事なんじゃよ)


「それどう考えてもアンタが原因じゃねーか!」


「ひう!?」


つい爺さんに向けて怒鳴ってしまうと、それにクラリスが怯えた様な反応をする。


(おい、なに孫を怖がらせておるんだお主)


(だ・か・ら!アンタが原因だろーがよ!)


ジロリと睨んでくる爺さんを見ながら、俺は何とも前途多難そうなクラリスとの付き合いを思い、密かに溜息をついたのだった。


学園編は大体三・四話ぐらい先になると思います。

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