治療
一度書いたやつが消えた。おかげでゼロから書き直しですよこんちくしょう。
まあ、それでも内容覚えてたんで余裕で書けたんですけど。
「ここが息子夫婦の部屋だ」
「ここがねえ」
爺さんに案内された俺は、息子夫婦が寝ている部屋の前にいた。
「………頼んだぞ」
「頼まれた」
万感の思いが込めらたその言葉に、俺は短く返事をする。もう言葉など必要無いだろう、行動で示せば良いのだから。
「………ライデン、儂じゃ」
「………親父か?………どうしたんだ?今日は陛下に呼ばれていた筈じゃ?」
爺さんのノックに返ってきたのは、弱々しい男性の声。恐らく、この声の主が爺さんの息子なのだろう。
「入るぞ」
爺さんは息子、ライデンさんの疑問に答える事は無く部屋へと入る。俺も後に続いた。
「こりゃ酷いな………」
部屋の主の様相は、そうとしか言えなかった。一人は起きて此方に視線を向けていたが、もう一人の女性、ライデンさんの奥さんと思われる方は眠っていた。そして、両人ともに四肢の半ばまでが樹木の様に変質していた。
その様相は正しく奇病と言えるだろう。幾らクラリス嬢が明るい性格をしていても、実の親のこんな光景を見たら塞ぎ込んでしまうのも仕方ないと思える程に、残酷で無残な光景だったのだから。
「親父、その子は………?」
ライデンさんが俺の方に疑問の視線を向けながら、そんな事を聞いてきた。
………ん?
「この少年はヒバリと「ちょっと待て爺さん。こっち来ようか」…なんじゃ?って、引きずるなヒバリ!」
爺さんの紹介を遮って、俺は部屋の隅に爺さんを引きずっていく。その際、ライデンさんに会釈するのも忘れない。………唖然としてたけどこの際無視だ。
「おいジジイ。何であんたの息子は俺の事を知らないんだ?」
「そりゃ言って無いからのう。あまり心配事の種を増やしてやりたく無かったんじゃよ。だったら、直前で知らせた方が心労も少なくて済むだろう?」
「それどっちも大して変わらないから!つーか黙ってて良い案件じゃねーだろ!あの人元当主だろうが!」
「現当主は儂じゃ。ついでに言うと、先先代も儂じゃ」
このジジイ、権力に物を言わせてしらばっくれる気だ。
「ったく、だったら説明はアンタに丸投げするからな」
「構わんよ。お主は治してくれるだけで良い」
「親父……治すって一体………?」
俺と爺さんの会話が聞こえたのか、ライデンさんがか細い声で聞いてきた。
「そりゃ言葉の通りじゃ。今からお前達を治療する。このヒバリがな」
「………バカな……そんな事が……」
「はい、そこまでです。さっきその不可能だ的な件はやりました。天丼する気は無いんで、とっとと始めます」
愕然としているライデンさんを尻目に、俺は朗々と詠唱を始める。
「[歌え、麗しの女神よ。慈悲深き聖女よ。その歌は奇跡を讃える賛歌であり、幸いを運ぶ聖歌である。苦しむ民を救うため、癒しの旋律を今此処に ]【奇跡の歌】」
俺が詠唱を始めると同時に、何処からともなく美しい旋律が流れだし、女性の歌声が響き渡る。
「……う………これは………?」
「……暖かい………」
【奇跡の歌】を聞いた奥さんはゆっくり目を覚まし、ライデンさんは静かに呟いた。
その間にも二人の身体は癒されていく。樹木の如く変質していた四肢はゆっくりと、だか確実に戻っていき、歌が終わる頃には二人の身体は完全に治っていた。
「嘘……!?か、身体が………!」
「まさか、本当に治ったのか………!?」
「なんと、これ程とは………!?」
当事者の二人だけでなく爺さんも驚愕していた。恐らく、こんなにも早く治るとは予想していなかったのだろう。
治療魔法【奇跡の歌】。簡単に言うと、状態異常回復とリジェネレーションの超強化版だ。この魔法は、毒などの外的要因だろうと癌などの内的要因だろうと関係無く対象の異常を治し、更に自己回復能力を飛んでも無く上昇させる魔法だ。
「そんなに驚く事か?」
「驚くに決まっておろう!これ程までの魔法など聞いた事無いぞ!?」
「へえー、こんな魔法がね。この魔法、魔導師作にしては比較的効果が大人しい魔法なんだけどな」
「これの何処が大人しい効果じゃ!?」
ライデンさん達を指さしながら叫ぶ爺さん。こらこら、幾ら息子でも人を指さすんじゃないよ。
大体、何を言ってるんだこの爺さんは?こんなただ治すだけの魔法なんて全然大人しいだろう。この魔法には、外傷を治療した際に加害者に同様の傷を与える謎のカウンター効果も、自己回復能力を上昇させる代わりに、痛覚が細胞分裂するだけで痛みを感じる程に鋭敏になる事も無いんだぞ。これを大人しいと言わず何と言う。………ついでに言うと、予想出来てると思うけど後者の魔法は拷問用の魔法ね。誰が作ったのかと言うと、俺達の仲間の魔導師達の間でクイーンと称されていた御婦人作だ。
「マッドやぶっ飛んだ思考の多い魔導師の作った魔法にしては、綺麗な歌を媒介にしている素敵感性は全然マシだよ。………あ、俺はマッドな方だったぞ」
「マッドの意味は知らんが、お主の口ぶりから両方が録でも無いという事は理解出来た」
うーん。やっぱり知らん人間にはマッドもぶっ飛んだ思考も大して変わらないみたいだな。本当は全然違うのに。
説明すると、俺の仲間の魔導師達の間で言うマッドな奴等は魔法を如何に効率的に、如何に面白可笑しく改造したり開発したりするのに情熱を掛けていた奴等だ。ぶっ飛んだ思考の奴等は、自分が楽しい事をひたすらに追求した奴等の事。………まあ、爺さんの言った通りどっちも録でも無いんだけどな。
ぶっ飛んだ奴等は自分が良ければそれで良いみたいなタイプの奴等が大半だったから、一般人に迷惑が掛かっても気にしない奴等だった。例を挙げると、星が明るくて眠れないという理由で半径二キロを闇で閉ざした。冬が寒いという理由で気温を十度程上昇させた、などだ。
マッドな奴等は、魔法関係を弄くる事に費やしていた為に基本的に一般人に迷惑を掛けていないが、偶に実験失敗などで飛んでもない規模の迷惑を掛ける場合がある。俺の荒野を樹海に変えたのもその一例だろう。………あの時、あまりに広い範囲が樹海化して大変だったんだよな。街道すら飲み込んじゃって相当な迷惑を掛けたと思う。
とは言え、俺達は傍迷惑ではあるが、それでも出来る限り一般人に迷惑を掛けない様にしている。ぶっ飛んだ組だってギリギリ冗談で済むであろう範囲でやっているし、俺みたいなマッド組も問題が発生したら全力で解決に臨んでいた。人が死ねば蘇生魔法で生き返らせたり、財産を破壊したら補填もした。………まあ、悪人や敵にはやらなかったけどね。
これは他の魔導師達がやっていたかは知らないが、俺の知り合いの十二人の魔導師はそうしていた。
一応言っておくと、魔導師の正確な人数は把握していない。猫になったバカみたいな奴もいるし、寿命とかも無い様なモノなので昔の魔導師とかが生きていたりするからだ。後、魔導師は基本的に孤高を貫くタイプが多いのも理由の一つ。俺達みたいに交流が深いのは例外だったりする。………その所為で《師天十二衆》とか痛い総称で呼ばれたりしてた。個人的には《黒曜の魔法神》とも呼ばれてたな。俺の黒歴史だ。
「まあ良いだろ?これで治ったんだから」
「そうなんじゃ」
「お爺様!さっきの魔力は一体!?まさかお父様とお母様に何………っ!?」
爺さんのセリフを遮る様に飛び込んできたのはクラリス嬢だった。………そう言えば彼女も魔法学校に通ってるって言ってたな。だったらあの魔力を感じても可笑しく無いか。
実際、【奇跡の歌】でも宮廷魔導師のセリアさんの十倍以上の魔力を使用したからな。その量はこの世界だと尋常じゃ無いだろうし、隠しても無かったから魔法を習っていれば感知するのは難しく無いだろう。
「お父様……お母様………お身体が………!」
クラリス嬢が信じられないという表情で二人に近づいていく。その瞳には涙も浮かんでおり、よほど両親を心配していたのであろう事が伺えた。
「ええ。私自身も信じられないのだけど、治ったみたいなの」
「ああ。ヒバリ君、と言ったか?どうやら彼が治療してくれたみたいだ」
両親の言葉を聞いて、俺の方に顔を向けてくるクラリス嬢。その顔には、本当に治ったのかという期待と疑問が浮かんでいた。
「完全に完治してるので、正真正銘の一片の疑いも無い程の健康体です。分かり易く言うと、今からでも魔物退治が出来るくらいですかね」
俺が断言するとクラリス嬢は二人に向かって駆け出した。そのまま二人に抱きつき、二人もそれを危う気も無く受け止める。その行動で俺の言葉を完全に信用したのか、三人とも涙を流しながらも歓喜の笑みを浮かべていた。
「ううっ、良かったのう………クラリスもあんなに笑って」
後ろでは爺さんと、騒ぎを聞きつけた使用人の皆さんも居て、全員が涙を流していた。
「ヒバリ、お主には感謝してもしきれんのう」
「………爺さん。握手を求めるのは構わないが、取り敢えず涙やら鼻水やらを吹いてくれ………」
手を握って感謝の意を表そうとした爺さんに、俺はそう言って断りを入れた。
取り敢えず、後ろに居た使用人の方々が吹き出した事は言っておこう。
今回は割と真面目な話だったかな?
でも油断するな。ツッコミどころしっかりとあったから。
シリアスにはなり切れないんですよねー




