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爺さんの屋敷


取り敢えず、また書き始めました。とはいえ、他の連載もあるので定期的には難しいのですけど………


「でけぇ………」


爺さんの屋敷を見た感想はこの一言に尽きた。やっぱり貴族の屋敷はデカイわ。何でこんな貴族ってこんなデカイ家建てるんだろうね?そりゃあ、俺も実験とかしてたからそこそこの大きさだったけどさ、ここまではデカくないよ?この屋敷、普通に城みたいだもん。


「ほれ、惚けてないでさっさと動け。息子夫婦が待っておる」


「そう急かすな爺さん。気持ちは分かるが、さっき聞いた限りだとまだ死ぬ事は無いんだろ?だったら急いでも大して変わんないって」


それに、例え死んでいても二十四時間以内だったら蘇生出来るんだ。まだ爺さんが屋敷を出る頃には生きてたらしいし、滅多な事がなきゃ問題無い。


「………とは言えのう、やはり早く苦しみから解放してやりたいじゃろうに」


「だったら俺を急かす前にアンタが動け。爺さんの息子夫婦が何処に居んのか知らん俺を先行さすな」


「………言われてみればその通りか。悪い、少し焦っていた様だ。………こっちだ、案内する」


俺の言葉に正気になった爺さんは、そう言って俺の前を歩き始めた。とは言え、少し早歩きになっているのを見ると、やはりまだ急いでるみたいだな。


そうして、俺は爺さんに連れられて屋敷の扉を潜った。


「へえー、良い趣味してるな爺さん」


屋敷は華美な装飾が少なく、落ち着いた感じだ。だが、かと言って質素という訳でも無く、調度品の全てが重厚な雰囲気を醸し出していた。


「分かるかの?」


「きんきらきんの装飾よりも全然こっちの方が好きだな。落ち着いてる方が静かで良い」


「ほっほっほ。そうかそうか」


俺の意見に満更でもなさそうにしている様子を見ると、どうやらこの屋敷の装飾は爺さんの趣味みたいだな。


「さて、それで息子夫婦の部屋だが」


「お爺様?」


「ん?」


声のした方に顔を向けると、そこには一人の女の子が立っていた。恐らく、彼女が爺さんの孫娘なんだろう。


「おお、クラリスか。丁度良かった。こっちに来なさい、紹介したい者がおる」


「はあ………」


爺さんの言葉を聞いて、視線をこっちに向けながらやってくるクラリスと呼ばれた女の子。………めちゃくちゃ不信そうな目で見てくるんだけど。


ってか、爺さんの紹介したい者がおるって口ぶり、凄え嫌な予感がする。たぶん、この人


「これはヒバリという。今日からこの屋敷に住む事になった」


「………あの、初耳なんですが」


ほらー!やっぱり思った通りだったよジジイ。この娘の感じだと、後見人云々の事なんて全く言ってないだろ絶対。


「ヒバリさん、ですか?彼一体は何者なんです?」


「こやつは色々あって陛下に才能を買われた平民の子供だ」


ルーデウス王が俺達の為に考えた表明上の設定をクラリス嬢に説明する爺さん。


「平民の子供、ですか?」


「うむ。………と言う事になっている」


………ん?


「………あの、なっているとは?」


………おや?何か雲行きが怪しくなってきたぞ?


「うむ。対面上はそうなっておるが、ヒバリは我が国が行った勇者召喚に巻き込まれた異世界人だ」


このジジイ!いきなり暴露しやがった!

一体何考えてやがる!?


「異世界人ですか!?」


どうやらクラリス嬢も予想外だったらしく、初めて声を上げていた。


「オイ、爺さん!初っ端から暴露するとか一体何考えてんだ!?これじゃあ設定作った意味無えだろうが!」


「まあそうなんじゃが、それだとこれからお主にしてもらう事が説明出来んからのう。面倒なのでバラしたのじゃ」


「面倒とかアホだろアンタ!?それをどうにかすんのが後見人の役目だろうが!」


一体何を言ってるんだこのジジイは。面倒だからでバラして良い内容じゃ無いだろうに。


「………あの、ヒバリ様は何かなさるのですか?」


「ん?ああ、まあ一応ね。後、様なんて付けなくて良いよ。むず痒いから」


「はぁ………」


まだ何か訝し気な視線を向けてくるクラリス嬢に、爺さんが言い聞かせる様に言った。


「クラリスや、時期に分かる。だから今はここで待ってなさい」


「お爺様がそう言うのであれば………」


渋々と言った感じで頷いたクラリス嬢。


「うむ。さて、では行こうかの。ヒバリ、こっちじゃ」


そう爺さんは俺に促してきて、廊下を歩いて行ってしまった。


「あの、ヒバリさんは何をなさるおつもりで?」


「爺さんも言ってたけど、そのうち分かるよ。まあ、悪い様にはしないさ」


クラリス嬢の質問は適当にはぐらかす事にした。爺さんが教えなかった以上、俺が教えるのも変だし、何か真意があるのかもしれないからな。


そのまま早足で爺さんを追いかけ、追いついた所で爺さんに言わなかった理由を聞いてみた。


「何で言わなかったんだ?元気にさせてやりたいんだろう?」


「まあそうじゃが、かと言って期待させるのもな。お主を信じて無い訳ではないが、それでも万が一がある。その時のあの娘の落胆の顔など、儂は見たくないんじゃ」


期待させて失敗した時の絶望よりも、知らずにいた方が幸せという訳か。………なんともまあ、このジジイはまだ魔導師を舐めているな。


「………なあ爺さん。それは俺への冒涜だ。対象が唯の自然現象如きならば、魔導師に失敗は無い。それは万が一いや、億が一にも存在しない。既にアンタの息子夫婦が助かる事は確定してる必然だ。要らん気を回してないで、さっさとクラリス嬢に教えてやれよ」


「………何とも頼もしい事を言ってくれる。………だが、だったら尚更クラリスに教える訳にはいかんの」


「何故だ?」


「こういうサプライズを教えるのは面白く無いじゃろう?」


ニヤリと悪童の顔で笑う爺さん。………全く、そんな理由を聞いたらこっちも笑けてくるじゃないか。


「くっくっく。成る程ねえ、そう言う理由だったら教える訳にいかないか」


「そう言う事じゃ。………それに、そちらの方が感動も大きいだろう。儂はまた見たいんじゃよ。あの娘の満面の笑みを」


「へー。その言い草だと、クラリス嬢はよく笑ってたんだな。見た感じ暗い娘だと思ったけど」


クラリス嬢は金髪碧眼の美少女ではあったが、それ以上に根暗な雰囲気の様なものがまとわりついていた。


「馬鹿たれが。確かに今は見る影も無いが、息子達が健康だった時はそれはもう愛おしい子供だったのじゃ。いや、今でも十分愛おしいがの」


「………こっちが振った話題だから孫自慢は構わねえけど、出来るだけ簡潔に頼むぞ」


こういう爺馬鹿の孫自慢は釘を刺しとかねえと長いんだ。


「………なんじゃ、釣れないのう」


「あのなあ、爺さんの孫が一桁の子供だったらまだ気長に聞いてやるけどよ、クラリス嬢は俺と同い年なんだろ?アンタは自分の可愛い孫のあれこれを同じ年齢の男に話すのか?」


「はっ!?ならん!それはならんぞ!!」


やっぱりな。このジジイ、娘が連れてきた結婚相手を何処の馬の骨とか言う父親と同じタイプだ。


「だったら簡潔に、クラリス嬢はどんな人間だったのか教えてくれよ」


「貴様!よもやクラリスに手を出すつもり」


「んな訳ねーだろ!これから同じ屋敷に住む人間の人となりの知識は最低限必要だろうが!」


あーもう面倒臭い!本当にこの人種の相手は面倒だな!


「………手を出すつもりは無いんじゃな?」


「いい加減にしろや!何回言えば気が済むんだクソじじい」


いい加減しつこいわ!ったく、最初の狸の様相は何処に行ったんだか。


「むう。だったら言うが、クラリスは不器用だったが明るい娘じゃったよ。大人しくて他人に気持ちを伝えるのが下手じゃったが、それでも笑顔が素敵な娘じゃったな。今は塞ぎ込んで見る影も無いがのう」


「だったらその笑顔を見てみたいもんだ」


「それはお主に掛かっておろうが」


「だな」


爺さんはそう言って俺に視線を向けてくるが、その目に不安の色は無い。さっきの断言は、爺さんを信用させるに足りた様だ。………まあ、実際問題、失敗したらしたで死ぬのを待てばいいだけだしな。遺体は生物とは違う判定が出るから修繕魔法が効くし、その後に蘇生させれば健康体で復活するし。


蘇生魔法は、対象から抜け出た魂を器に込め直す魔法だから、別に器となる物が自身の肉体じゃ無くても問題が無いし、魔法で手を加えていても器として機能するならそれで十分可能なのだ。蘇生魔法の最大の条件は、死後二十四時間経ってるか経って無いかなのだ。死後二十四時間以上経っていると、魂がどっかに行ってしまうのがその理由。他にある条件も、死因が老衰だと魂がすり減っているから蘇生不能とか、蘇生の際にも多少は魂が損失するので多用は出来無いとかそんぐらいだ。それ以外だったら割りとアバウトな魔法なのである。………とは言え、そう言えるのって俺が魔導師だからなんだけどね。蘇生魔法って下手な儀式魔法よりも膨大な魔力を使ったりするし、普通の人間が蘇生魔法を使えば神経が焼き切れるぐらいの負荷が掛かるから、おいそれとは使えなかったりするんだわ。


まあアレだ。こんな出鱈目な魔法を問題無く使えるは、同じ出鱈目な存在だけって事だ。………実際、俺の同類達って存在もそうだけど思考回路もぶっ飛んでたからな。


今説明した蘇生魔法を例にしても、結構ヤバイ逸話が幾つもある。人間の姿に飽きたって理由で時限式の蘇生魔法を自分に掛けて、器として用意した魔改造された猫の死骸に魂を移し替えたバカ。ちょっかい出してきた奴の魂をなまくらの剣に叩き込んで、インテリジェンスソードとして市場に流した鬼畜。他にも挙げれば切りが無い。


「あ、あのアホの嫁さん蘇生事件もあったな」


「ん?何か言ったか?」


どうやら俺の呟きが聞こえたらしく、爺さんが尋ねてきた。


「いや、俺の知人の蘇生事件を思い出してな」


「蘇生事件?何じゃそれは?」


「ああ。俺の知り合いの魔導師の嫁さんが事故で死んだ事があったんだ。その時にそいつは蘇生魔法を使って嫁さんを生き返らせたんだよ」


「なんじゃ、良い話じゃないか」


「ここまでだったら美談なんだろうけどな………」


それで終わらないのが魔導師クオリティだ。


「その嫁さんの器を作る為に、わざわざ俺を含めた知人の魔導師総動員して邪龍やら悪神やら魔王やらをしばき倒させた挙句、それで手に入れた素材を使って下級神レベルなら殴り合いが出来る様な性能のホムンクルスを器として作ったんだよ」


「………」


「しかも、そいつはホムンクルスを作る時に『どうせなら容姿を変えよう』って悪ノリして、見た目をロリ巨乳の美少女に変えたら蘇生した嫁さんにしばき倒されてたからな」


嫁さん自体は俺とかと違って普通の一般人だったんだけど、器をホムンクルスに変えた事で魔導師程じゃないにしろ出鱈目な存在になったんだよな。お陰でそいつ、精神的にも物理的にも尻に敷かれてたからな。後でメチャクチャ後悔してたっけ。………ついでに言うと、この件が原因で、俺の称号の『神群殺し』を得たであろう出来事が起こったりする。


「………儂は違う意味で不安になってきたんじゃが………」


安心しろ爺さん。俺もマッドの自覚はあるがそこまでじゃ無いから。………いや、安心が出来る要素は無えなコレ。



蘇生魔法はガチチートです。まあ、ヒバリとかのレベルじゃ無いと使用は先ず不可能なんですけど。


そして、ヒバリの知り合いの魔導師達がバカ過ぎる………。


そのうち、ヒバリのクラックでの生活も閑話として書きたいですね。

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