爺さんとの会話 in 馬車
この話の存在を普通に忘れてました。最近のコメントでふと思い出してソッコー書いた話です。
後、初期に書き始めたから前の話の全部が誤字脱字が酷い。とは言え、最近大幅な修正作業を終えたばかりなので気力が尽きてるのもまた事実。
気力が回復したら修正する………と思う。たぶん。
さて、王城生活が終了し、俺達はそれぞれの後見人の家で生活させてもらう事になった。
現在、俺は二人と別れてギリス公爵の馬車に乗っている。
「さて、小僧よ。今日から儂の家で暮らす事にあたって、幾つか言っておきたい事がある」
「なんでしょうか?ギリス公爵」
「先ずその呼び方をやめい。家でまでそう呼ばれては堅苦しくてかなわん。小僧の好きな様に呼べ。敬語もいらん」
うーむ。ある程度は予想していたが、どうやらこの爺さん、中々に柄が悪い。公爵なんてオシャレな地位より、組長や首領みたいなそっち系の方が似合うんだが。
まあ、向こうから言ったんだから、お言葉に甘えさせてもらうとしようかな。
「じゃあ、爺さんで。そんで爺さん、言っておきたい事って何よ?」
「………やけにあっさり変えるのう。普通はもうちょい遠慮するもんだと思うぞ?」
「そっちが言ったんじゃないか。それとも、この口調じゃ不満?」
「いや、それで良い。若いのに爺さんと呼ばれんのも中々に新鮮じゃ」
爺さんは呵呵と笑いながら呼び方を認めた。なんともまあ、貴族らしくないジジイだ事で。俺の知ってる貴族達とはえらい違いだ。
「にしても陛下の時といい、どうも小僧は肝が据わっておるのう。こうもあっさり変えるとは思わなんだ」
「そりゃあ慣れてるからね」
「慣れじゃと?」
「そ。前の世界では立場が立場だったから、貴族どころか国王ですら媚びへつらってきたからなあ」
「………そりゃあ関心せんのう。国王とは国の顔。それが媚びへつらうなど、有ってはならない事じゃ」
爺さんが呆れた様に言ってくるが、全くもって同感だ。あれは見て萎えた。しかも、表面上は媚びを売っていても、俺の事を利用してやろうって下心が透けて見えてたし。………まあ、下心無しで絶対服従を誓ってきた国とかもあったけど。
正直アレはびびった。何か国の重鎮達が俺を神様みたいに崇拝してたんだもん。
「まあ、そんなんで大概の権力者よりは立場が上だった訳よ。その所為でむしろ、こっちの方が普通だったし」
「………何ともまあ、小僧も変な経験があるのう」
「まあ、相手方の気持ちも分からなくは無いんだけどね。俺も同じ立場だったら媚びぐらい売ってると思うし」
「と言うと?」
「あっちの世界の記録だと、過去に俺と同等の奴等が喧嘩してた事があったんだよ。その時なんて山脈が消えるなんてしょっちゅうだったり、酷い時は大陸が消えたり出来たりしてたんだと」
「………」
「そんな奴等の機嫌なんて損ねられないからな。国の重鎮だったら尚更だろうし」
「………儂も媚び売った方が良いかのう?」
「いらん」
爺さんが恐る恐ると言った感じで聞いてくるが、はっきり言って気持ち悪い。
「一応言っとくけど、俺はそこまで気性は荒く無い。むしろ、争い事には基本的に無干渉だった方だ。そんな事してる時間があったら、趣味の魔法に費やしてるさ」
まあ、仲間内ではその趣味の方が質が悪いって言われてたけど。実験で荒野を樹海に変えた時は、バカと天災は紙一重って言葉が出来たし。
「そりゃあ良かった。あんましそう言うのは慣れて無くてな。やらずに済んでホッとしておるよ」
………この事は安心した様に笑う爺さんには言わないでおこうか。
「さて、話題を戻すが、小僧、いやヒバリが儂の家に来るに当たって言っておく事がある」
かなり話題が横道にそれていたが、やっと本題に戻ってきたな。
「まずは儂の家の家族構成だが、儂と息子夫婦と孫娘がいる。他には使用人が十何人と言ったところじゃ」
「ん?息子が居るのに何で爺さんが当主をやってんだ?既に引退しててもおかしくない歳だろうに」
「………少しばかり訳があっての」
あれ?質問したら爺さんが沈んだんだけど。これ、もしかして地雷踏み抜いた?
「実は、息子夫婦が少し前に旅行に行ってのう。その時に厄介な風土病を貰ってしまったようなんじゃ。『木化病』と言って、身体の四肢から徐々に木の様になってしまう奇病よ。だから、隠居していた儂が当主に戻っておるのだ」
「………治療法は?」
「無い。………いや、以前は可能じゃったらしいが今は無理じゃ。木龍の鱗など
到底手に入らん」
………龍か。この世界ではどうだか知らんが、クラックでは絶対強者の一角だった種だ。爺さんの口ぶりからも、公爵という立場でも不可能と断言するぐらいには強いのだろう。
………何と無くだが、ルーデウス王が俺の後見人を爺さんにした理由がわかった気がする。やはり、あの御仁も王の様だ。中々に抜け目の無い狸じゃないか。
くつくつと小さな笑みが出てしまう。幸い爺さんは気付いてない様で、話を続けていた。
「そう言う理由があって、悪いが家の中はピリピリしておる。特に孫娘が酷くてのう。ずっと塞ぎ込んでしまってるんじゃ。今はヒバリと同い年だったか。出来れば、ヒバリには息子達に何かあった………どうした、何が可笑しい?」
どうやら爺さんも俺が笑っているのに気付いたらしい。声には疑問と険が含まれていた。
とは言え、やはり笑ってしまう。ここまで見事に利用されたのは久しぶりだからな。見たては間違って無かった様だ。全く見事な名君だよ、あの王様は。
「爺さん。家賃変わりだ。俺が息子夫婦を治してやるよ」
「何だと………!?」
おーおー、驚いてら驚いてら。多分、爺さんのこの顔は貴重なんだろうな。
「待て、幾ら何でもそれは………ヒバリ、お主は龍と戦うつもりか!?儂がお主の後見人になった理由はそんな打算では無いぞ!」
ふむ、どうやら爺さんは俺が木龍とやらと戦うと思っているみたいだ。この慌てぶり、やはり龍は相当に強いらしいな。………でも、何でそう考えるかねぇ?俺は争い事が嫌いだってさっき言ったのに。
「あのなぁ、俺は治してやるよって言ったんだ。だーれが龍なんぞと戦うか」
「………まさか、お主自身が治療するのか!?そんな事は不可能だ!アレは木龍の鱗を煎じた薬じゃなければ治せぬ不治の病だぞ!」
「………爺さん、アンタは魔導師を舐めてるよ。不治の病?んなもん関係無いさ。俺達魔導師は、死という世界の法則すらも超越する。そんな存在だ」
確かに俺は治療関係が専門という訳では無い。それでも、どっかの神様の呪いとかが原因だったりしない唯の病気ならば、如何にそれが不治の病だとしても問題無く治療が可能だ。
ついでに言うと、治療関係が専門じゃないとは言ったが、それでも色々と快復系の魔法は作っている。【慈悲の輝き】などが良い例だろう。
「それに、こちとら仲間にイタズラする為だけに幼児化や性転換する秘術を編み出したマッドだぞ?身体が木みたいになる程度の病なんて、一発で治してやるよ」
「………お主は何しとんじゃ」
どうやら幼児化と性転換の件は見過ごす事が出来なかったらしく、さっきまで興奮していたのが嘘みたいに呆れていた。
………まあ、俺もアレはやり過ぎたと思ったんだけどね。元に戻った後に皆にボコボコにされたし。女性陣には罰として若返りの魔法を作らされたし。
「………信じて良いのか?」
「むしろ信じろよ。それに、塞ぎ込んでる孫娘を俺に励まさせようとしてたんだろ?だったらその役目を果たすまでよ」
「………なんじゃ、しっかり聞いておったのか」
「当たり前だ。人の話を聞かない悪い子じゃないんでね」
「人が暗い話をしてる途中で笑ってた癖によく言うわい。………全く、フライも余計な事をしくさってからに」
「フライ?」
最後の方で初めて聞く言葉が出てきたな。話し方から察するに、恐らく人命だと思うが。
「ああ、陛下の名前じゃよ。フライ・キラール・ルーデウスという」
何気にあの王様のフルネームを初めて聞いた気がする。いや、どうせ使わないと思うけどさ。
「ってか、爺さんも気付いてたのか?」
「当たり前じゃ。陛下に駆け引きなどを教えたのは儂だからな。儂をヒバリの後見人にした理由もおおよそ見当ついておった。だが、今回は感謝せんとのう。まさか本当に治療が可能だとは思ってもみなかったからの」
「俺からすれば、こうもあっさり利用されるとは予想外だったよ」
「不快か?」
「まさか。ここまで綺麗に嵌められたらいっそ清々しいし、こういう理由だったら嵌められるのも嫌いじゃない」
ルーデウス王にそんな意図が無かったとしても、ピリピリした空気に耐えられなくて結局は爺さんの息子夫婦は治してただろうしな。
「そら良かったの。さて、だったら急ぐとしようか。………おい、危険じゃない程度にスピードを上げろ。早く家に帰るぞ」
爺さんはそう言って、御者に指示を出した。やはり早く帰りたい様だ。
そして、馬車はスピードを上げていった。
「あ、一つ言い忘れておった」
「ん?他に何かあるのか?」
「孫には手を出すなよ?」
「………出さねえから安心しろ」
「何じゃと!?貴様は儂の孫に魅力が無いと申すか!」
「鬱陶しいから黙っとけこの爺馬鹿が!それどっちにしろ切れてんじゃねーか!」
この言い争いは、大変遺憾だが爺さんの屋敷に着くまで続いてしまった。
結構ヒバリがかっこいい話だったんですけど、よく見て下さいね?ツッコミどころがちらほらあるんで。




