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フィリアの不幸と幸運 その2

最後に一文書き足しました。


五月二十六日、改稿。

<フィリアside>


胸を貫かれた私は、身体が動かなくなってくるのを感じていました。全身がだるくなって、どんどんと寒くなっていく。


もうすぐ死ぬ。そんな確信が思い浮かびます。


意識が次第に遠のいていき、手放そうとした時です。


一瞬の浮遊感。


その後、身体を暖かい光が包みました。


すると、痛みが消えていき、意識がはっきりとしてきます。


何か液体を飲まされて、完全に意識が覚醒しました。


「っ!?」


目を覚ますと、少年が目の前にいました。どうやら、私はこの少年に抱きかかえられているようです。


こんな状況でも、私は見ず知らずの男性に抱きかかえられている状態を恥ずかしく思い、咄嗟に暴れてしまいそうになりましたが


「今のは貴様らの仕業か?」


魔人のこの言葉で私は冷静になりました。


私は祭壇に寝かされていて、その周りには魔人達がいました。そんな状態の私を、祭壇から離れたこの場所に魔人達を掻い潜って移動させた。更に、私の傷も治療されていました。


この少年に助けられた。


状況がそう結論づけます。


私は彼の顔をまじまじと見つめてしまいました。黒髪黒目という珍しい特徴以外は至って平凡な、何処にでもいそうな容姿の少年です。その見た目に反して、魔人達に囲まれていた私を移動させ、致命傷を一瞬で治療するなど、かなりの実力者だと思われる少年。


私が彼を見ていると、魔人達が動きだしました。


此方に向かってくる魔人達。


彼はそれを見て、仲間であろう二人に私を任せ、一人で魔人と向き合います。


いくら彼が実力者だとしても、魔人を複数相手にするなど不可能です。


急いで止めようとすると、彼がポツリと呟きました。


「さて、ちょっくら真面目にやりますか」


その言葉と共に、彼の姿が掻き消えた。


一瞬のうちに魔人達の眼前に移動した少年は、魔人に拳を放ち、高速で吹き飛ばす。


「え?」


何が起きたか理解出来ないでいると、更に少年は別の魔人の背後に一瞬で回り込んで、今度は魔力を纏わせた拳を放ち、魔人を爆散させました。


「嘘!?」


私も蛇魔人もその光景を見て絶句する。実力者だとは思っていたましたが、彼の実力は想像の遙か上をいっていました。


「馬鹿な!貴様、本当に人間か!?勇者とはそれ程まで人外の存在なのか!?」


蛇魔人が狼狽えながら叫びます。どうやら、蛇魔人は少年を勇者だと思っているみたいです。


確かに、彼や、彼の仲間の二人は異世界人の特徴と同じ黒髪黒目が見られます。


しかし、彼等は勇者ではないはずです。現在、勇者はルーデウス王国とギリアン王国の二カ国でしか召喚されていません。又、召喚されたのはつい最近の事です。魔人を相手にあそこまで圧倒するには時間が足りないはずです。


そうすると、彼等は一体何者なのでしょうか?


彼はもとより、この状況で怯えもしないで少年の行動に呆れ気味でいる仲間の二人も、恐らく相当な実力者だと思われます。


私は彼等に、特に戦っている少年に興味を持ちました。


少年は蛇魔人の問いに答えようとしていました。


「一応訂正するが、俺は別に勇者じゃないぞ。ちょっと強いだけの唯の一般人だ」


絶対嘘です。あんな強い一般人がいてたまりますか。


蛇魔人も同じだったのか、少年に向かって言い返そうとした時です。


大地が揺れました。


今までよりも圧倒的に巨大な地響きに、私は最悪の予感が頭をよぎります。


「っ!ふ、フハハハハ!!人間、確かに貴様は強い。それは認めよう。だが、我々の勝利だ。封印が完全に解かれた。魔王ガルマン様の復活だ!!!!」


蛇魔人の哄笑を聞いて、予感が当たってたのを確信しました。


魔王の復活。


封印が完全に解けてしまったのです。


私は絶望を見ました。


大地が裂け、巨大な地割れが発生する。


地割れから這い上がってくるのは、牛頭の巨人。


魔王ガルマン。


生物としての本能が警鐘を鳴らす。


逃げろ。あれに関わるな。あれに逆らうな。


あれが魔王だ。


魔王が名乗りを上げる。声を聞いただけで心が折れそうになる。


私は急いで少年に声を掛けようとしました。


いくら彼が強くても、あれには勝てない。魔王は、魔人なんかとは比べ物にならないくらいに強い。あれと戦えば死しかない。


私はそれが嫌です。私は、危険と知っていながらも魔人から助けてくれた、致命傷を治療して命を救ってくれた、彼が死ぬのが嫌でした。


私は彼に伝えようとしました。


どうか死なないで欲しいと。急いで逃げて欲しいと。


しかし、この考えは、


「呪法の鎖よ。獲物を繋ぎ、決して逃がすな。抵抗の意思を与えるな。自らの力を糧として、魂すらも縛り上げろ!【禁獄の縛鎖】!」


この初めて聞く詠唱と、無数の鎖によって砕かれました。


魔王が魔法の鎖によって繋がれ、身動きがとれなくなっている。


あり得ない光景です。一体、この短い時間で少年に何回絶句させらたのでしょうか?


「不意打ちとは卑怯な!」


魔王が叫びながら鎖を引きちぎろうとしますが、鎖はよほど頑丈なのかビクともしません。


そんな魔王を見ながら、少年は言います。


「知らんがな。戦いに卑怯も糞もあるか。復活したてで興奮してた所悪いが、こっちは早く帰って寝たいんだよ」


魔王相手になんてことを言うのでしょうか。


私は空いた口が塞がりませんでした。


そのまま少年は、魔王を罵倒していきます。


どうやら眠いのは本当の様で、所々で船を漕いでいました。


・・・・・魔王の目の前で船を漕ぎながら罵倒するとは、どんな精神をしているのでしょうか?


もう、この場にはさっきまでの恐怖は存在していません。


魔王は縛られ、身動きができない。


この場で最も強者なのは、魔王では無く少年だからです。


「んじゃ、さっくり終わらせるか。安心しな。さっさと帰って寝たいし、せめてもの情けだ。一撃で終わらせてやるよ」


特に気負うこと無く、淡々と当たり前の如く。


言葉通り、早く帰って寝たいが為に言霊を紡ぐ。


「我、求めるは神の鉄槌。天の裂き、地を砕く。断罪の閃光よ、我が敵目掛け降り注げ!【裁きの雷霆】!」


巨大な魔法陣が空を覆い、鎖に繋がれた魔王目掛け、雷神の鉄槌が降り注ぐ。


そして、伝承の魔王は、憐れなまでに跡形も無く消滅した。



これが、私の人生で最も不幸な出来事であり、彼と出会える事が出来た、人生で最も幸福な出来事です。


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