帰りましょう
ついにヒロインとの絡みが!!
光の奔流が収まると、その場には何も残っていなかった。
神殿も。祭壇も。ガルマンも。蛇魔人も。雷霆が直撃した場所は一切合切が消滅し、底が全く見えない程深く巨大な穴のみが存在していた。
周辺の木々は、雷霆の余波によって吹き飛ばされ、樹海の中にぽっかりと空白地帯が出来上がっていた。
「お前、色んな意味で滅茶苦茶だ」
「え、何処が?」
雄一がこの光景を見て呟いた。
一体何処が滅茶苦茶なんだ?
「全部に決まってるだろ!なんだよあの魔法?いくら魔王相手でも確実にオーバーキルだろ!」
「あの程度でなんでオーバーキルなんだ?」
「お前それ素で言ってるのか?見ろよこの光景を!全部が消し飛んでんじゃねーか!穴なんて底が全く見えないぞ!そんな馬鹿げた威力の魔法をあの程度ってお前どうかしてるだろ!」
「いや、別にこの程度大した事ないと思うんだが」
実際、【裁きの雷霆】は俺の攻撃系の大魔法の中ではかなり被害が少ない方だ。
確かに雷霆が直撃した場所は巨大な穴になっている。
でも、それだけなのだ。
直撃したら巨大な穴が空く。つまり、直撃がしなかった場所は大した被害が出ない。精々、余波によって吹き飛ばされるぐらいだ。
貫通力・攻撃力といった面ではかなりの威力を誇るが、破壊力・殲滅力は大して無い。
【裁きの雷霆】は、一点集中型の魔法であり、広域範囲魔法では無いのだ。
「まあ、オーバーキルでもいいだろ別に。さて、魔王も倒したしルーデウスに戻るぞ」
「あ、あの!」
厄介事も終了したので帰ろうとしたら、少女が声を掛けてきた。
あー、そういえばいたっけ。忘れてたわ。
「危ない所を助けていただき、ありがとうございました。私は、リザイア王国第三王女、フィリア・マキ・リザイアと申します」
封印の鍵だった以上は予想していたが、やっぱり王女だったか。
新しいフラグ建っちゃったかな・・・?
やらかしたかなと考えていると、フィリア王女が更に続ける。
「失礼を承知でお聞きしますが、貴方達は一体何者なのですか?」
まあ、当然の質問だ。この世界では魔王は絶対的な強者とされている。そんな存在を簡単に倒す力を持っているのだ。興味があるのはしょうがない。
「フィリア王女、残念な「フィアと呼んで下さい」がら・・・はい?」
質問の答えを返そうとすると、フィリア王女に途中で遮られつい聞き返してしまった。
「出来ればフィアと呼んで下さい。親しい者は皆そう呼びます」
・・・どうやら愛称で呼んで欲しいらしい。
「フィリア王女、親しい「フィアです」・・・いえ、ですから流石に会ったばかりですので、愛称で呼ぶというのはちょっと・・・」
「・・・」
遠慮したら不機嫌そうな顔をするフィリア王女。
「あのですね、フィリア王女」
「・・・」
「いや、だからフィリア王女」
「フィアって呼んでくれないと返事しません」
むくれながらそう言ったフィリア王女。
・・・ちょっと可愛いと思ってしまった。
はっきり言って、フィリア王女はとてつも無い美少女だ。歳は14歳ぐらいだろう。輝く様な銀髪と、蒼の瞳をもつ少女。身長もあまり高くなく、その容姿と合わさって儚げな印象の美少女だ。
そんな少女に、少しむくれた表情と上目遣いで、愛称を呼ぶよう要求された。
無理です。断る事が出来ません。
「・・・えっと、じゃあフィア様」
「様は要りません。フィアです。畏る必要も無いです」
「呼び捨ては流石に・・・」
「むー!」
ヤバイ!どんどん理性が削られていく。
しかも、下心とかが無いようだから余計に質が悪い。ただ純粋に愛称で呼んで欲しいみたいなのだ。
「ふ、フィア」
結局、俺が折れました。
「はい!」
満面の笑みで返事をしてくるフィア。
滅茶苦茶可愛いです。はい。
そして、さっきから俺とフィアのやりとりを見て、雄一と翔吾が後ろで笑いをめっちゃ堪えている。イラっときた。
「さっきの質問なんだが、俺達はちょっと複雑な立場でな、悪いが答える事は出来無い」
「っ、そうですか」
フィアが俺の答えに残念そうな顔をする。
「だったら、名前を教えて下さい!」
名前か。雄一と翔吾に視線を向けると、ニヤニヤしながら頷かれた。殴りたい。
「わかった。俺は雲雀だ。あっちは雄一と翔吾」
「ヒバリ様に、ユウイチ様とショウゴ様ですね」
名前を噛み締める様に繰り返すフィアに、これからどうするか尋ねる。
「さて、フィア。一応聞いておく。俺達は戻るが、君はどうする?必要ならばリザイア王国に君を送り届けることも出来るが」
とは言っても答えなんて決まっているだろう。この場所は世界有数の危険地帯である。そんな場所で、恐らく戦う力を持たないフィアが生きていける様な環境では無い。
「えっと、ご迷惑じゃなければお願いします。御礼はいたしますので」
予想通り頷いた。
「了解。でも、別に御礼は要らない。大した手間でも無いし。悪いが、翔吾と雄一は先に帰ってくれ」
「二人になりたいのか?」
ニヤニヤしながら聞いてくる雄一。
「そろそろ黙れ。俺はともかく、お前達が居ないのは色々とマズイんだよ。二人は一般人って事になってんだぞ。だから、そろそろ戻った方が良い」
直に日も昇るだろう。
「そっか、了解。じゃあ、お願いね雲雀」
「んじゃ、やるぞ」
そして、二人を空間転移の魔法でルーデウス城に転移させた。
「っえ!?あ、あの、お、お二人共消えてしまいましたよ!?」
雄一と翔吾が消えた事に驚くフィア。
「少し落ち着け。転移させただけだ」
「転移ですか!?ヒバリ様は空間魔法も使えるのですか!?」
あれ、またやらかした?
「そんなに驚く事か?」
「当たり前じゃないですか!!既に失われた魔法ですよ!?」
完全にやらかしてた。
「そうなのか。まあいいけど俺はちょっと特殊だからな。空間魔法も使えるんだ」
嘘は言ってない。異世界の魔法使いは十分特殊だと思う。
「魔王をあんな簡単に倒せて、空間魔法まで使えるなんて、本当に何者ですか?」
「あははは・・・」
ジト目で聞いてくるフィアを、取り敢えず笑って誤魔化しておく。
「ともかく、フィアも転移で送り届けるつもりだから、本当に御礼は要らないよ」
「ですが・・・」
渋るフィアを無視して、手を握る。
「ひ、ヒバリ様!?」
「悪いな。行った事のない場所に転移する時はどうしても情報が必要でな。嫌かもしれないが我慢してくれ」
「・・・嫌な訳ないじゃないですか」
顔を赤くしながら小さく呟くフィア。
本人は聞こえて無いつもりだろうが、バッチリ聞こえてます。
「あー、んじゃ、転移するぞ」
取り敢えずスルーする事にして、リザイア王国へと転移した。




