VS魔王
少し短いです
異世界シーラにおいて、御伽や英雄譚で必ずしも登場する存在がある。
『魔王』
ーそれは恐怖の代名詞
ーそれは殺戮の権化
ーそれは絶望の化身
ーそれは絶対的な強者
眼前に現れた牛頭の巨人は、伝え聞いた魔王の伝承が間違えでは無い事を証明していた。
大木を連想させる程太い四肢。小山を彷彿させる巨大な身体。目にした者全てを萎縮させる威圧感。
圧倒的な強者の気配。
その存在に雄一や翔吾、少女さえも呑まれている。
「あ、あれが、ま、魔王・・・!」
震えながらも声を出す少女。彼女はこの世界の人間だ。魔王という存在がどれ程の存在か俺達よりも理解しているのだろう。血の気は引き、今にも気絶してしまいそうになるのをなんとか抑えているといった様子だ。
俺達の様子を尻目に、蛇魔人は魔王の前に跪く。
「貴様が我の封印を解いたのか?」
魔王が喋る。魔王の声は、どんな強靭な精神を持つ者でも折られかねない重みがあった。
「は!ガルマン様の封印を解いたのは、正しく我と我が同胞で御座います。現在、ジーク大陸に存在する殆どの魔王が、封印又は討伐されています。低俗な人間共は此処ぞとばかりに増長し、好き勝手を行っています。我々はその現状を嘆き、封印されている魔王様方を復活させるべく、立ち上がった次第です」
魔王の問いに蛇魔人が答える。
「そうか。先ずは、封印を解いた事を褒めて遣わそう。大義であった」
「我が身には勿体無きお言葉です」
その様子は、王と臣下のそれであった。
「お主達にそこまでされては、我も動かぬ訳にはいかぬな。良いだろう!我、魔王ガルマンは、お主達の願いを聞き届けた!今此処に宣言しよう!我は魔王として、人間共に絶望を与える災禍と成る事を!!」
ミノタウロスの魔王は誓う。人に仇なす不倶戴天の敵と成ると。破壊と絶望を振り撒く厄災と成ると。
「手始めに、そこの人間共を殺し戦いの狼煙としてくれよう!」
魔王の言葉に少女は恐怖し、翔吾と雄一は気圧される。
彼等を見ながらも、俺は構える。
「人間よ、我は魔王ガルマンである!貴様らを殺し、人間共に破壊と絶望を振り撒く厄「呪法の鎖よ」っぬぅ!?」
名乗りを上げた魔王ガルマンの周りに、おびただしい数の魔法陣が現れる。
「獲物を繋ぎ、決して逃がすな。抵抗の意思を与えるな。自らの力を糧として、魂すらも縛り上げろ!【禁獄の縛鎖】!」
全ての魔法陣から鎖が放たれ、ガルマンの全身を縛り上げる。
ガルマンも巨体に見合わぬ俊敏さで咄嗟に回避を試みるも、完全に包囲されている為失敗に終わる。
「不意打ちとは卑怯な!」
鎖に繋がれた魔王を見ながら、俺は言う。
「知らんがな。戦いに卑怯も糞もあるか。復活したてで興奮してた所悪いが、こっちは早く帰って寝たいんだよ」
不遜な物言いに、その場の全員が絶句する。
お約束?何それ美味しいの?ぶち壊しだって?知らないなあ。だって彼奴らの話し長いんだもん。
「大体な、敵が目の前にいるのに悠長に宣言やら名乗り上げとか攻撃してくれって言ってるのと同じだろ。それで卑怯?冗談も大概にしろよ脳筋魔王が」
「貴様はそれでも戦士か!魔王に挑む英傑ならば、正々堂々と戦わんか!」
ガルマンが吼えるが、俺はそれを躊躇無く切り捨てる。
「残念、魔法使いです。武人気取ってるとこ悪いが何であんたの要望に答える必要あんだよ?
正々堂々?笑わせるなよ?まともに戦いたいなら隙をみせんな。不意打ちなんて喰らったお前が悪い」
怒りに打ち震えるガルマンを眺めながら更に続ける。
「大方、人間に負ける訳が無いなんて意味不明な根拠を基にして、余裕ぶっこいてたんだろうが、それで不意打ち喰らってちゃ世話無えよ。つーか、魔王に挑む英傑だと?誰が好き好んでそんな事やるか!こちとら仕方無くやってんだよ。思い上がるな畜産物」
「貴様ァァァ!!!!」
ガルマンが激昂して襲いかかろうとするが、鎖に繋がれ一歩たりとも動けない。
【禁獄の縛鎖】は、単純な捕縛力なら俺の魔法の中でも屈指の魔法だ。全方位から鎖が放たれる為回避はほぼ不可能。力任せに鎖を千切ろうとすると、鎖に掛けられた力の倍の力で締め上げられる。更に、鎖は魔力と体力を吸収してそれを魔法の維持に使う為、一度発動すれば半永久的に発動し続けるという鬼畜仕様。
もちろん、欠点が無い訳じゃない。この魔法は物理極振りって言って良い魔法で、空間転移など魔法を使われる簡単に逃げられるのだ。
まあ、ガルマンの場合は物理特化見たいだから持って来いなんだけど。
「んじゃ、さっくり終わらせるか。安心しな。さっさと帰って寝たいし、せめてもの情けだ。一撃で終わらせてやるよ」
俺の言葉を聞いて尚、鎖を千切って攻撃しようとするガルマン。
「ふざけるなァァァ!!!!」
「至って真面目だよ、脳筋魔王。我、求めるは神の鉄槌。天の裂き、地を砕く。断罪の閃光よ、我が敵目掛け降り注げ!【裁きの雷霆】!」
詠唱を終えると、空に巨大な魔法陣が出現する。
瞬間、轟音が轟き閃光が視界を塗りつぶした




