魔人が現れた
一度、間違って文章を消してしまい、書き直すハメに。
膨大な魔力の奔流。
それは、強力な魔物を大量に倒した翔吾や雄一すらも竦ませる程の、今までの敵とは一線を画する物だった。
「な、何、この感じ?」
「わからない。雲雀、お前また何かやらかしたんじゃ無いよな?」
「知らんわ。俺が原因みたいに言うな」
「じゃあ、どうする?確認しに行くか?」
流石に放置しておく訳にはいかないので、雄一の言葉にする。
「そうだな、ヤバそうだったり、関係無さそうだったら即行帰るぞ。放置しておく訳にいかなかった場合は臨機応変って事で」
「ざっくりし過ぎだろ!大丈夫かそんなんで!?」
「もうちょっと何かないの?」
「下手な考え休むに似たりだよ。どうせ、行き当たりばったりにしかなんないんだ。考えるだけ無駄だろ」
「大丈夫なの?そんなので」
「逃げることぐらい出来るんだ。気楽にいった方がいいだろ?・・・あ、そうだ。二人共、気配は消しとけよ」
そう二人に言って、原因を突き止めるべく、魔力の中心に向かって行く。
原因と思われる場所に着いた。
そこには神殿の様な建築物が存在し、祭壇と思われる場所には複数の人影が見える。
人影を一言で表すならば『異形』である。
人型では在るが、決っして人間とは言い難い姿の者達が、なにかを行っているらしい。
「・・・どう思うよ、雲雀?」
絶対にまともでは無い光景を目にして、雄一が聴いてくる。
「良い方と悪い方、どちらの見解が聞きたい?」
「なんでハリウッド風?」
「どんな見解なんだ?」
「良い方が一般人としての見解、悪い方が魔法使いとしての見解だ」
「じゃあ、良い方で」
げんなりとした顔で、一般人としての見解を聴いてくる雄一。「どっちにしろ厄介事には変わらない」と、その表情が語っていた。
「如何にもラストダンジョンって感じの場所。神殿に祭壇。そこでなんか儀式っぽいのやってる怪物達。どう考えても、BOSSキャラの登場だろ」
「やっぱりか・・・」
同じ光景を予想をしていたのだろう。雄一が項垂れる。
「魔法使いとしての見解だと?」
翔吾が聴いてくる。その顔からは否定してくれという感情がありありと伝わってきた。
「この場所にはそこそこの規模の魔法が掛けられているみたいだ。詳しくは知らんが、魔力が何かを抑えてる感じがするから十中八九封印系。でも、彼奴らが行なってる儀式っぽい奴の所為で魔法が弱くなってるな」
「一応聴くけど、つまり?」
「封印解いてる。ついでに言うと、彼奴らは多分魔人。封印されてるのは魔王だろうな」
予想が確信に変わった。
「なんでこう、雲雀が行動すると厄介事が発生するんだろう?」
翔吾の悲壮さを含んだ呟きに雄一が答える。
「仕方ないだろ。雲雀なんだから」
「そっか、雲雀だからしょうがないか」
「何二人して納得してんだコラ」
閑話休題。
「実際どうするアレ?」
「放っとく訳にいかないし、何とかするしかないだろ」
俺の答えに意外そうな顔する二人。
「・・・何その意外そうな顔?」
「勇者の仕事だから自分には関係無いって言って、放置するかと思ってたから」
「雲雀なら放っとくと思ったから」
「お前達が俺をどんな風に見ているのかが良く解ったよ」
悲しくなってきたじゃないか。
「しょうがないだろ。あの魔人達、最低でも翔吾や雄一ぐらいの強さは在るぞ。今の京介達じゃどんなに逆立ちしても魔人にすら勝てないし、他の国の勇者だって召喚された時期は似た様なもんだし。そうすると、俺にお鉢が回ってくる可能生が高いんだ」
そうなれば、絶対に面倒な事になる。
「後の事を考えると、今やった方がマシだ」
「・・・もう、どうせ面倒事に巻き込まれると思うんだが」
「自分から原因作る必要も無いだろ」
「っ!雄一、雲雀、あれ!」
雄一と話していると、翔吾が声を掛けてきた。どうやら、状況が変わったらしい。
祭壇に視線を向けると、一人の少女が祭壇に寝かされていた。意識はある様で必死に抵抗しているが、縛られて身動きがとれないらしい。
「女の子?」
そして、刃物を持った魔人がおもむろに腕を上げ、少女の胸に振り下ろす。
刃が少女に突き刺さり、血が流れだす。
すると、封印の魔法が一層弱まり、地面が揺れ始める。
「マズイ!!我、求める全てを手中に収めん!【強欲の魔手】!」
咄嗟に魔法を発動した。すると、祭壇にいた少女が一瞬で俺の腕の中に現れた。
【強欲の魔手】は空間転移の魔法の一種だ。対象を自分の元に引き寄せる事ができる、俺の魔法の中でもかなり使い勝手の良い魔法だ。
「何だと!?」
魔人達が驚愕の声を上げる。
腕の中の少女は、おびただしい量の血を流していて一目で致命傷だと分かった。
「癒せ。すべての傷を。我の前では決っして痛ましい姿を見せる事など許されぬ。【慈悲の輝き】」
急いで少女に回復魔法を掛ける。傷口が輝き出し、傷が塞がっていく。更に、魔窟の中から増血剤を取り出して飲ませる。意識が朦朧としていたがなんとか飲ませる事ができた。
恐らく、少女の血が封印を解く鍵なのだろう。その証拠に封印の魔法が殆ど消えている。
「今のは貴様らの仕業か?」
魔人達が此方に気付いた様だ。
「貴様らが人間か召喚したという勇者か?まさかこの場所が割れていたとは思っていなかったが、一足遅かったな。今しがた封印は解かれた所だ」
魔人の一体が高々と声を上げる。
「もうじき、魔王ガルマン様は復活なされる。その女を助けた様だが無駄な事だ。貴様らはこの場所で死ぬのだから!!」
魔人達が此方をむいた。
「貴様ら勇者の血肉をガルマン様への供物として献上してくれよう。皆の者、殺れ!!」
どうやら魔人達の中で、あの喋っている蛇の様な魔人が一番立場が上らしい。
蛇魔人の言葉に従い、魔人達が向かってきた。
「二人共、この娘を頼む」
「え、ちょ、雲雀!?」
俺の言葉に慌てた様子の翔吾を無視して、魔人達と向き合う。
「さて、ちょっくら真面目にやりますか」
魔人達を見据えて、全力で地面を蹴る。
向かってくる魔人達。彼等の動きは団長よりも遙かに速く。そして、欠伸が出る程遅かった。
すべての魔人の動きがスローモーションに見える中、小手調べとして、近くの魔人を唯ぶん殴る。
殴られた魔人は、音速に近い速度で吹き飛んだ。
「馬鹿な!?」
その光景に、蛇魔人も、意識を取り戻した少女も驚愕し、雄一と翔吾を呆れさせた。
(予想よりちょっと硬かったかな?さて、お次はっと)
殴った感触を確かめながら、今度は魔力を纏わせた拳を、近くの魔人に放つ。
唯の拳よりも遙かに威力が上がった拳を受けた魔人は、跡形も無く爆散した。
「っ!?」
想像を絶する光景の連続に言葉を失う蛇魔人と少女。ドン引きする雄一と翔吾。
そんな彼等を眺めながら、魔人達を殲滅して行く。
全ての魔人を殲滅し終え、蛇魔人に向き直る。
「馬鹿な!貴様、本当に人間か!?勇者とはそれ程まで人外の存在なのか!?」
今まで強者だった己が、より圧倒的強者を前にして、狩られるだけの唯の獲物に成り下がった事が信じられず、狼狽する蛇魔人。
「一応訂正するが、俺は別に勇者じゃないぞ。ちょっと強いだけの唯の一般人だ」
そんな訳あるか!!そう続けようとした蛇魔人の言葉は、巨大な地響きによって掻き消された。
「っ!ふ、フハハハハ!!人間、確かに貴様は強い。それは認めよう。だが、我々の勝利だ。封印が完全に解かれた。魔王ガルマン様の復活だ!!!!」
蛇魔人が勝利を確信し、哄笑を上げる。その言葉と共に大地が裂け、裂け目の中から巨大な人型が現れた。
牛頭の巨人。
ミノタウロスの魔王が復活した。




