かつての仲間からの、善意の皮を被った悪意がツライ
良い感じに区切れたので投稿します。
うーん、中々思うように進まない………。
取り敢えず、ドロップの口調関係や、こっちに来た理由はざっくり説明出来てる筈。でも不安。
ツッコミどころが無い事を願う。
修正しました。
誤字脱字の可能性大です。
絶世の美をその身に宿す、師天十二衆の一人。時に衰退に向かう国を救済し、時に数多の国を滅亡させた、万物創造の魔導師。
それが異世界クラックでの、ドロップの認識だ。
「まあ実際は、性格諸々が狂ってる駄目人間なんだけど」
「む」
「文句言うな。事実だろうが」
「ん」
そこで素直に認める辺り、質が悪いというか何というか………。同類の俺が言うのもアレだけど。
俺がそんな風にドロップの態度に呆れていると、ドロップの美貌に固まっていた灰猫先輩が動き始めた。
「やっとお目覚めですか?」
『う、五月蝿いわね! こんな美人がいきなり出てきたら、誰だって固まるわよ!』
「でも灰猫先輩も同じぐらい美人ですよ?」
自分の顔で見慣れてると思うんだけど。
『………キミは本当に躊躇無くそう言う事言うわね。ありがとうとは言っておくけどさ』
「いえいえ」
『でもやっぱり、私は男だし。本物の女性の方が衝撃がね』
「今は女ですけどね」
『元凶が何を言ってるのぶっ飛ばすわよ?』
おお怖い怖い。でもちょくちょく性転換について言及しとかないと、色々と忘れそうでね。だから怒らないでちょ?
「笑顔が胡散臭くてキモイね」
「お前はディスる時だけ普通に喋んじゃねーよ!」
さっきまで何時もの一文字喋りだったじゃねーか!
「ふ」
「その見下した感じの笑みヤメロ!」
馬鹿にしてんのか!? いや馬鹿にしてんのか。どっちにしろ腹立つ。
『………何かアレね。ヒバリ君から聞いてた感じとはちょっと違うのね。もっと怠惰な人だと思ってたわ』
俺とドロップのやり取りを見て、灰猫先輩は首を傾げていた。ドロップが、自分の想像とかけ離れていたからだろう。
『会話するのも苦戦するレベルみたいに言ってたけど、意外と分かり易い人じゃない。口数は確かに少ないけど、その分表情が豊かだし』
そこは俺も否定しない。ドロップは感情とかが顔や雰囲気に出やすいので、ちゃんとそれを感じ取れれば意外と会話は成り立つのだ。
ちゃんと感じ取れればだけど。
「コイツの場合、会う時は大抵ベットの中にいるか、色んな道具の山の中で作業してるんですよ? 幾ら表情とかが分かり易くても、それを把握出来無いなら意味無いです」
基本寝てるか埋もれてるかの相手に、顔に出るも何も無えから。結局判断材料は、声のトーンと一文字だけだから。
「表情とかが分かり易いのだって、口で伝えるよりも楽だからって理由で、そういう風になっていっただけですし」
『あー………そう考えると筋金入りね』
全くだよ。喋るのが面倒だからって、変な成長しやがって。そっちの方がよっぽど面倒だと俺は思うがね。
『けどそれなら、何でドロップさんはここに来たの? 御丁寧に変装までして』
『確かにそうですね。話を聞く限り、変装とかするような性格じゃないですよね?』
灰猫先輩たちの疑問も尤もだろう。喋るという行為すら面倒になって、謎の進化をしたドロップ。怠惰も此処に極まれりと言える性格の彼女が、わざわざ世界を渡ってこの学園にやってきた。
意外。あまりに意外だ。
俺の予想では、師天メンバーの中でこの世界に来るとしたら、第一は義理の息子であるヒイロ、次点で比較的常識人のニャーさん。大穴で新たな武術を求めたバーサーカー。
女性陣はまず来ないと思っていたから、ドロップが来た事には俺自身とても驚いている。
だがそれと同時に、確信している事もある。
「予想はしてるけど訊いておく。誰に指示された?」
「………へーか」
「やっぱりか………」
予想通りのドロップの回答に、俺は大きく溜息を吐いた。
この怠惰の化身である馬鹿娘を自由に動かせる人間は、師天メンバーでさえ限られている。
御意見番であるオジジと、師天の実質的なボスであるクイーンだけだ。
そしてわざわざドロップを異世界に派遣するような真似は、オジジなら絶対にしない。なら必然的に、この件を裏で糸を引いているのは、あの女帝という事になる。
事態としては最悪の部類。絶対に碌な事にならない。
「どうせアレだろ? お前が選ばれたのも、引き篭もるのもいい加減にしなさい的な理由だろ?」
「ん」
「クラリスの変装もクイーンの指示か?」
「そ」
「命令されたのは何時だ? お前の事だから、どうせ直ぐ動いたんだろ?」
「半」
「三十分前か。相変わらず行動が早い」
行動が早い。ドロップに使うには似つかわしくない言葉だと思うだろうが、実はそうでも無かったりする。
ドロップは怠惰の化身であるが、全く何もしないという訳じゃないのだ。むしろ、やらなければならない事はしっかりとやる人間である。
じゃあ何故、怠惰の化身と呼ばれているのか。それはドロップの中で、絶対にやるべき事とやる必要の無い事が明確に分かれており、尚かつやるべき事と判断されるハードルが異様に高いのが原因だ。
更にやるべき事であっても、魔導師のスペックをもって極力手間を省き、即座に取り掛かって終わらせる。
夏休みの宿題を最初に終わらすタイプの究極系、または某古典部男子の完全上位互換と言えば分かり易いだろう。
灰猫先輩がドロップを分かり易いと感じたのも、俺が説明したりする二度手間を嫌ったドロップが、最低限分かるように口数や雰囲気を無意識のレベルで調整したからだ。
「本当、無駄に器用な奴というか………。絶対に普通にしてた方が楽だろうに」
「無」
問題無いってお前………。いやまあ、言っても無駄なのは分かってるけどさ。でもそこまで筋金入りだと本当に怖えよ。
「そして何より、そんなお前を言葉だけで動かせるクイーンがガチで怖い」
冷笑を浮かべながらドロップに命令する女帝の姿を想像し、俺の身体が勝手にガタガタと震え出す。ドロップも釣られて震えている。
俺たち師天メンバーの中では、クイーンの命令は絶対だ。
我の強いなんてレベルじゃない、ある種の狂人とも言える師天メンバーでも、クイーンの命令にはほぼ必ず従う。何故なら怖いから。勿論、命令によっては拒否する勇者も存在するが、数分後には土下座して許しを乞うた後に従う事になる。何故なら怖いから。
やるべき事以外は絶対にやろうとしないドロップでも、それは例外じゃない。というより、クイーンの命令=絶対にやるべき事とドロップの中では認識されているっぽい。
『………えーとつまり? 怖い人に命令されたから来たって事?』
「イエス」
いきなりガタガタ震え出した俺たちに戸惑いながらも、灰猫先輩はドロップがこっちに来た理由を簡単に纏めてくれた。
『………思ってたより理由がしょぼいわね』
『怖いからって、子供ですか………』
そらアンタら、我らの女帝を知らんからそんな事が言えるのよ。
「俺はクイーンに出会って、戦乱の時代と平和な時代の区別がつかなくなった」
「死が幸福」
『へ、へー………』
俺とドロップの虚ろな瞳に射抜かれ、解説の二人が気圧される。
ガタガタと身体を震わし、虚ろな瞳で周囲を眺める俺たちの姿は、痛々しいを通り越して禍々しい。
『や、闇の深さが伺えますね………』
『何があったのか、聞きたいようで聞きたくないわね………』
聞かない方が良いと思うよ? クイーン主催の溶岩素潜り大会とか普通にトラウマになるから。
『というかヒバリ君大丈夫なの? そんな怖い人から遣いが来たとか、キミ死ぬんじゃない?』
「止めろ現実を直視させるな!」
折角人が気付かないようにしていたのに! 何て事を言うんだこの人は!
「ひー」
「聞きたくないヤメテよドロップさん!」
俺はイヤイヤと首を振るが、ドロップは俺の抵抗を無慈悲に切り捨てる。
「無理。へーかの命令は絶対だもん」
「だから何でこんな時だけ喋るのキミは!?」
「私だって喋りたくないよ。でも内容が正しく伝わらないと、私がお仕置きされるもん。………もう石の中は嫌」
かつてのお仕置きを思い出し、悲壮な雰囲気に包まれたドロップに、俺は何も言えなかった。俺自身、クイーンのお仕置きを味わっているから。
そしてドロップは、この世界に来た理由を語りだした。
「クイーンはずっと、暇な時はひーの生活を見てたの。このイベントも、つまらなそうに眺めてた」
「そのつまらないって情報いる?」
師天メンバーにつまらなって言われると結構ショックなんだけど。
「それでさっきの銀髪姫の件も観てたらしいんだけど、そこで思ったんだって。コイツ何時までグダグダやってんだって」
「………わっつ?」
ちょっと待って。何か雲行きが怪しい、というか変な方向に進み出したぞ?
「ここからはクイーンの実際の感想。『お前は何で何もしないの? 折角異世界行ったんだから冒険しなさいよ。グダグダグダグダ似たような日常パートばっかやって。偶には学園から出なさいよ。イベント少しは起こしなさいよ。ただの学園生活送るんだったら異世界行かなくていいじゃない。見ていてつまらないのよ』だって」
「アイツは人の人生なんだと思ってんだコラァ!!」
つまんねえとか言うなし! 学生が学園から出なくて何が悪いんじゃい! というか、下手に冒険すると、妙なイベントに絶対巻き込れるから冒険しねえんだよ! フラグ建つのが分かってて建てに行くのは、勘違い馬鹿か物語の主人公だけだっつーの! てか見ててつまらないなら見るな!
「無」
「言っても無駄なのは分かってるわ! でも言わせろ!」
「そんな訳で、私がテコ入れしてこいと派遣された」
「言わせろや! ………テコ入れ?」
え、何? スッゴイ嫌な予感がするんだけど。
「ドロップさん何する気? てか止めて」
ゴメン無理と即答され絶望する。
「テコ入れの内容は、ひーの異世界ライフに起伏を付ける事。具体的には、ひーに恋人を作らせる」
「おい馬鹿止めろ」
とんでもない事を言い出したドロップに、俺は即座に止めに入った。結構ガチなトーンで。
「因みに候補は第一候補はあの銀髪姫。ハーレムにするかは検討中」
「いや本当に待てコラ。よりにもよって何でそこなんだよ。絶対無理なの知ってるだろ」
「それに対してクイーンから伝言が。『そろそろお前トラウマ治しな。丁度良い相手もいるんだし、こっちも協力するから。取り敢えず、ドロップをそっちにやって、あの銀髪姫のサポートさせるからよろしく』」
「はぁっ!?」
何言ってんのあの傲慢チキ!?
「あと『相手を傷付けないように、自分から悪役になろうとするのキモイ。お前の気遣いなんて反吐が出る』って」
「え? 俺そんな少女マンガの主人公みたいな事してないんだけど?」
好きでも無い女の為に、自分から悪役になる程イケメンじゃないよ俺?
「うん知ってる」
じゃあどゆことなの?
「それとこんな事も言ってた。『傲慢チキについては今度詳しく話そうか』って」
「イヤーァァァ!?」
ヤベェ死んだ! 俺これ絶対死んだ! 星詠みの魔法使うとか、あの女帝ガチで色々とヤル気だ!
「ァァァウァァァッ!!」
『………ヒバリ君が発狂してるんだけど、大丈夫なの?』
「問題無い。ひーだし」
『そ、そう………。ところで、さっきのお話で色々と聞き逃せない単語があったんだけど。異世界とか』
「[ひーは異世界人だよ。親友の二人もね。でも問題無いでしょ? ひーだし]」
『それもそうね』
『ヒバリ君ですしね』
コイツ、人が発狂してる間に【悪魔の囁き】で全員洗脳しやがった。
「………お前、本当に何してん?」
「仕込み」
集団洗脳を仕込みとのたまいやがったコイツ。
「でも楽」
「いや、まあ、うん………。動き易くはなったけど」
それでもね? こっちが出鱈目やっても大丈夫なように打った布石が、全部パァになったのよ?
「でも、手っ取り早いし」
「手っ取り早いって、何が?」
「ひーに対する誤解を解くのが」
誤解? 俺に対する?
俺には心当たりの全く無いのだが、それを無視してドロップは声を張り上げる。
「皆はひーの事を誤解してる! ひーは本当は優しい子なの! さっきの女の子に酷い事を言ったのだって、ひーの本心じゃないの!」
ドロップが声を張り上げるという珍現象に、俺は呆気に取られていた。呆気に取られていたのがいけなかった。
『………どういう事?』
「ひーは昔、私たちの世界に流れついた。色々と苦労しながらも、徐々に力を付けて、貴族の令嬢の友人や、町娘の恋人と幸せに暮らしてたらしい」
『………え? コレに恋人いたの?』
「いた。いたんだよ」
『………ねえ、過去形なのは………』
「そう。幸せは、最悪の形で終わったの」
ドロップの口から、俺の忌まわしき過去が、俺のトラウマの原因となった出来事が語られる。
「ひーの恋人は、貴族たちに殺されたの」
師天メンバーは基本身勝手。自分の為なら他人に迷惑かけるの大歓迎。慈悲はない。
因みにドロップ、最後の方は完全に演技です。
次回、ヒバリ君の過去とバトル………いけたら良いなぁ。




