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エキシビションその5 決着、そして景品

総合評価が2万をついに突破しましたー。パフパフ。


読者の皆様には最大限の感謝を。


誤字脱字の可能性大です。

沈黙が降りた。


興奮していた観客たちも、実況を行っていた灰猫先輩とフルールさんも、バ会長も、目の前の光景に何も言えなかった。


相手の貫手を制服の袖の中に捕らえるという、常軌を逸した拘束技を見せ、雄一が動揺している隙に流れるような投げ技を行ったミカヅキ。


勝機が見えるまで耐え忍ぶ我慢強さ。制服を使った拘束技を考えた発想力。格上相手に、負傷覚悟で奇策を実行する胆力。コンマ一秒の世界の中で、迫り来る貫手を袖口で捕らえた集中力。そして何より、それらを可能とさした天賦の才。


これら全てが揃っていたからこそ行われた、刹那の攻防。


学生のレベルを逸脱した達人の技術は、皆にミカヅキの勝利を確信させた。


だからこそ、誰もが言葉を発せないでいた。


雄一が立ち、ミカヅキが地に伏せているという、皆の想像とは真逆の光景がそこにあったから。


「……っ、……一体、何が……?」


強く身体を打ち付けられたからだろう。ミカヅキは意識が覚束無い状態で、辺りをキョロキョロと見渡した。


そしてその視線が自分を見下ろす雄一を捉えると、ミカヅキは小さく息を吐く。


「……そうか。私は負けたのか」


その言葉には、悔しさは微塵も含まれていなかった。込められていたのは、最善を尽くして尚超えられなかった、雄一という強者に対する尊敬のみ。


「教えてくれユウイチ先輩。私は何で負けたんだ? 敗北したうえで言うのもなんだが、アレは必勝の策だったと自負している」


一体どうやって、あの状況から逆転されたのか。その方法をミカヅキは知りたがっていた。それはもう、物凄く。


その様はご馳走を前にした子供のようで、爛々と輝く瞳には、流石の雄一も気圧されていた。


「あ、ああ、やった事は簡単だ。投げられた瞬間に手で地面を掴んで、腕の力で逆に投げ返したんだ」


そう。雄一はミカヅキに投げられた瞬間、捕らわれていない片腕で地面を掴み、そこを起点に片腕の力のみで身体を回転。その際に、捕らわれた方の腕で逆にミカヅキを捕まえ、回転に巻き込んで地面へと叩き付けたのだ。


それがあの刹那の中でとった逆転の一手。お世話にも策とは言えない、身体能力によるゴリ押し。


その詳細を聞いたミカヅキは、ふるふると身体を震わせる。


「………ぷっ、クハハハ! それはなんとも豪快な事だな! やはり先輩たちは無茶苦茶だ!」


そして心底愉快そうに、呵呵と笑い出したのだった。


「………何か笑うところあったか?」


「ハハハ! いや、失礼。余りにも予想外の事でな。つい可笑しくなってしまった」


目尻に浮んだ涙を拭いながら、ミカヅキはゆっくりと起き上がった。


「意外だな。てっきり俺は、技もへったくれもない対応に文句を言われるかと思ってたが」


うん。俺もそれは思った。ミカヅキ、こういう無理矢理な行動は嫌いそうだし。技で競ってこその武人とでも考えてそうと言うか。


そう思っていたのだが、本人の意見は違うらしい。


「そんな訳無いじゃないか。卑怯卑劣な手段を使われた訳でも無し。真正面から堂々と、策を喰い破られたのだ。賞賛こそすれども、文句なんて出ようものか。ましてや私の獲物は盾だぞ。ユウイチ先輩の力を受け止めきれなかった時点で私の負けだ」


あ、相変わらず男前やね………。


真面目でありながらも、竹を割ったようなさっぱりとした性格。本人の凛々しい容姿と相まって、ミカヅキは女性にあるまじきイケメンぶりを見せていた。所々で黄色い悲鳴が聞こえてくるし。


こりゃファンクラブ出来たな。


「男子はしっかり学んどけよー! これがモテルって事だ!」


『『『おおーーー!』』』


「喧しい!」


ミカヅキが怒鳴ると同時に、ピタリと止む感心の声。最近、学生たちのノリが良くなってきている気がします。


「全く、このノリに付き合わされるのか私は………」


「それは確定してるから諦めろ」


雄一が断言すると、ミカヅキは凄く嫌そうに顔を顰める。だが暫くすると、雄一の言葉の通り諦めたのか、大きく溜め息を吐いた。


「はぁ………。巻き込まれる事には納得した。悪いがユウイチ先輩、今回だけとは言わずに、今後も稽古を付けて欲しい」


「ん? それは構わんが、雲雀の被害関係で俺が教えられる事なんて、せいぜいが心構えぐらいだぞ?」


俺の行動や体質は、基本的に予想や想像の斜め上を行くからな。マトモな備えなんて出来んのですよ。


「それでも何もしないよりはマシだろう。あ、ついでに武術の手解きもしてくれると助かる」


ミカヅキはついでと言っているが、俺にはそちらの方が本命な気がしてならない。


「それ必要か? キミはもう十分に強いだろ。俺も危うく負けかけたし」


「最初から手加減して貰っていた相手に勝ちかけたところで、誇る事なんて出来ないさ。それにユウイチ先輩の技量なら、他にも投げを回避する方法は幾らでもあった筈だ」


「ぐっ」


言葉に詰まる雄一。答えなんてこの反応が物語ってるわ。実際、本気の雄一なら宙に浮いた状況でミカヅキを蹴り飛ばす事ぐらい出来るし、そもそも未来予知があるから投げられる事も無いんだよね。


これは俺の予想だけど、あの時、雄一が思い付いた対処法の中で、一番安全だったのが人間風見鶏だったのではないだろうか。だから雄一らしくない力技に走ったんだと思う。


そしてその辺りを含めて、ミカヅキには見破れてるっぽい。それが達人としての経験からか、女の勘かは知らんけど。


ま、取り敢えず言えるのは、雄一が何を言っても無駄であろうって事だな。


「おいコラ。何笑ってんだ雲雀」


流石と言うべきか、特にこちらを見ていない癖に、雄一は俺の表情を当てやがった。


なので隠す事なく揶揄う事にした。


「雄一、良かったじゃないか。美少女の弟子が出来て」


「気持ち悪い顔で近付いてくんじゃねえよ」


「残念でした。俺はミカヅキに景品を渡す役があるんですー」


シッシッと追い払おうとしてくる雄一に向け、ざまあみろと舌を出す。返答としてガチ目の拳が飛んできたけど気にしない。


「それじゃ景品を渡しまーす。今回は雄一相手に大健闘という事で、景品は割とガチのレベルの物になりまっせ」


『今までの事を考えると、ガチなレベルって何なんでしょうね……』


『洒落にならない物が出てくるのだけは確かね……』


景品をまだ出してないのに、解説の二人が既に遠い目になっている件。


いやまあ、今回は性能的には相当な物を出すから、反応としては間違ってないんだけどさ。


「で、一体どんな景品が貰えるんだ?」


「こんな物」


俺が魔窟から取り出したのは、一枚の大盾である。


その瞬間、またしても沈黙が訪れた。


『……また珍妙な物を……』


『……なんか、予想のわりにえらくファンシーな物が出てきましたね……』


漸くといった感じで絞り出される、解説役二人からのコメント。


「何でそんな反応なんだ? 可愛らしいネズミのキャラが描かれた盾ってだけじゃないか」


見た目だけなら、変なとこは見つからないのに。こんな空気になるなんて不思議。


『見た目だけでツッコミどころ満載なんだけど!?』


『盾自体はゴツイのに、表面のネズミの絵の所為で反応に困るんですよ!』


どうやら盾とデフォルメされたネズミの絵の組み合わせがミスマッチだと言いたいらしい。余計なお世話である。


「別に絵ぐらい良いじゃん。俺の勝手じゃん」


『……いやまあ、そうなんだけど……』


『だからと言って何でネズミ……』


「それはこの盾がネズミの力を宿しているからです」


『ネズミの力って何よ……』


『言葉だけ聞くと凄くショボそうですね……』


いやいや。この盾、結構どころじゃないぐらいにエグイぜ?


「そもそもこの盾は【窮鼠の盾】という名前なんですよ」


『窮鼠? それって窮鼠猫噛みの窮鼠?』


「そうそう。その窮鼠」


日本の諺が何でこっちの世界にあるかはツッコまない。どうせ過去の異世界人が原因だ。


「一応訊きますけど、窮鼠猫噛みの意味って皆さん知ってます?」


『当たり前でしょ』


『馬鹿にしてます?』


「ゴメンナサイ」


どうやらこの諺は常識レベルで浸透しているらしい。


あ、一応簡単に説明しておくと、窮鼠猫を噛むとは、追い詰められたネズミは猫にも噛み付く的な意味がある。


「まあそんで、この盾はその諺を体現してるんですわ」


『……何だろう、それを聞いて凄く嫌な予感がする』


『私もです。取り敢えず、碌でもない効果が宿ってるのは確信しました……』


「諺を体現しているとはどういう意味だ?」


何故だろう? 詳しい事は何も言ってないのに、解説の二人どころか観客からも変な確信を持たれてしまった。


そして周りの空気を全く気にしていないミカヅキが男前過ぎる。言ったらぶん殴られるだろうから言わないけど。


「諺を体現してるってのは、フルールさんの言葉通り、この盾の持つ能力故だ。この盾で攻撃を受け続けた場合、盾に攻撃のダメージが蓄積されるんだわ」


『あ、予想出来た……』


『相当エグイ能力なのは確実ですね……』


解説の二人は既に凡その予想はついたらしい。まあここまで説明したら、勘のいい人なら分かるか。


「まあ皆さんの予想通りですわ。ある程度ダメージが蓄積されたら、それを十倍にして加害者に衝撃波として叩き返す事が出来るんです。因みに衝撃波は半径一キロ以内なら必中です」


『はいアウトーー!』


『予想の斜め上を爆走してきましたね!?』


「あれ? 予想してたんじゃないんすか?」


『いや、ダメージを反射する系の能力かなとは思ってたけど! 余計な付属効果が付いてるとは思ってなかったわよ!』


『ダメージ十倍とか、半径一キロ必中衝撃波とか馬鹿ですか!? ぶっ壊われ装備にも程があるでしょう!』


そうかね? 追い詰められた相手ってのは何するか分かったもんじゃないし。そう考えれば余計な能力って訳でもないと思うけど。


「どっちにしろぶっ壊れなのは変わらん」


そうなんだけどね。必中十倍カウンターとか、ゲームなら確実にバグ技だし。


「まあ、諺を体現しているというのは分かった。ネズミの絵も、窮鼠を表しているのだろう。こうもデカデカと描かれている意味は知らんが」


「ああ。その絵は、盾にどんくらいダメージが蓄積されてんのかを判断する為のメモリみたいなもんだ。蓄積されたダメージ量に比例して、ネズミの絵もズタボロになってくんだよ」


「また使いづらくなるよう仕掛けを……」


「ついでに言うと、その盾で攻撃を受ける度に、ネズミの悲鳴を模した音が出る。その音には、周囲の生物の罪悪感を無差別に揺さぶる効果があるから気を付けろよ」


「また使いづらくなるような仕掛けを付けてくれたな!」


「ほら。強力過ぎる武具にはデメリットが付き物じゃん」


会心率がマイナスとか的な。


「それは確かにそうだが……」


「アレだ。安易に強い道具に頼らないようにする為の戒めだよ」


「その台詞、今さっきのノリが十割みたいな台詞の前に言って欲しかったぞ……」


まあ確かに、説得力は無えわな。


「取り敢えず、盾に関しての大まかな説明はこれで終わりだな。詳しい事はこの取説を読んでくれ」


そう言って、ミカヅキに窮鼠の盾の取説を渡す。


「他にも幾つかギミックとかもあるから、しっかり読んどけよ」


「まだあるのか……。本気で使いたくなくなってきたぞ」


「それはミカヅキの自由だ」


受け取った時点で盾はミカヅキの物。それをどう扱おうが、所有者の自由だ。


「……いやまあ、破格の性能だし使わないという選択肢は無いんだが……」


『デメリットが個性的過ぎて何とも言えないんでしょうねー。どうせ確信犯だろうけど』


『デメリットと言っても、我慢すればデメリットという程じゃないのがまたアレですよね。本当に嫌らしい』


あれ? 伝説級と言っても過言ではない武具を出したのに、周りの視線が冷たい?


「さて、それじゃあ次の挑戦者を決めるくじを」


『逃げたわね』


『逃げましたね』


「逃げたな」


それが何か?


「いいから早よ。時間もそろそろ押しとるし」


「……先輩、何時か仕返ししてやるからな」


ジト目でそんな宣言をされてしまった。窮鼠の盾がネタ武器なのバレてんなコレ。取り敢えず口笛吹いとこ。


ミカヅキは俺の態度に呆れながらも、何も言わずにくじへと手を突っ込んだ。


「有名な先輩、か」


『くじの内容は有名な先輩だそうです!』


『これはまたアバウトな内容ですね』


同感。これはこれで選択肢が多すぎて迷うと思う。


案の定、ミカヅキも考え混んでいる。


「……ふむ……あ」


「ん?」


何故かミカヅキが俺を見ている。


「そう言えばつい最近、誰かさんの婚約者騒動が話題になったな」


「………」


あ、これアカン奴や。

雄一に弟子が出来た。かと言って、ミカヅキの出番が増えるかは微妙。


次回、ついに彼女達が登場します。

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