フィア様参上
遅くなってすいません。
更新が遅いというコメントが幾つかありましたが、いやホントにゴメンなさい。
三月ぐらいから、以前のペースを取り戻したいと思ってます。
誤字脱字の可能性大です。
普段の喧騒が嘘のように、シンと静まり返った教室の中。
「………」
俺の目の前には、ニコニコと幸せそうな笑顔を浮かべる少女がいる。
「……なあ」
「はい! 一体何でしょうか!?」
凄まじい食い付きである。
「………いや、何でもない」
何でいるの? とか色々と訊きたかったが、喜色満面溢れる笑顔を前に、それらの疑問は強引に飲み込む事に。流石に訊けねえよ。
「あー、その……」
「はい!」
会話にすらなってない会話。それなのに、少女……フィアはとても幸せそうで。
「……何でそんなに嬉しそうなの?」
「ヒバリ様がいるからですよ」
ただいるだけで良いと、それだけで幸福なのだと。恥ずかしそうに、けれどはっきりと告げられ。
「………はぁ」
俺が思ったのは、とても有りがちな感想だった。
嗚呼、どうしてこうなった、と。
時は、ほんの少し前に遡る。
婚約話などとーー
「ストップ。遠く見るな現実を見ろ」
……回想という名の現実逃避を行おうとしていたら、翔吾から無情なツッコミが入ってしまった。
「………翔吾、何故邪魔をするかね?」
人が折角、防衛本能に身を委ねようとしていると言うのに。
「回想入ったところで状況は変わんないでしょう。ちゃんと現実を受け入れなさい」
「てかそもそも、まだ事が起きて五分も経ってねえぞ」
……いや、そうなんだけどさ。
「雰囲気作りって大事やん?」
「だから、五分程度の時間で雰囲気作りも何もねえよ!」
「いやいや、そんな事無いだろ」
「……ならやってみろ」
では、要望にお応えして。
時は、ほんの少し前に遡る。
婚約話などという予想外のイベントはあった物の、何時もと変わらず朝はやってきた。
何時も通り登校し、何時ものメンバーで雑談を交わす。
「そう言えばさ、この学園の一組に今日から留学生が来るらしいよ」
「ほう」
「そうなんだ」
アルトがタイムリーな話題を提供し、親友二人がそれに乗っかる。
「何でもリザイア王国の王女様なんだーー」
アルトの話を遮るように、ガラリと大きな音を立てて扉が開いた。
「ヒバリ様! やっと会えましたね!」
やって来たのは、話題の王女様その人だった。
そして、冒頭に戻る。
「くっそ短えじゃねえか」
「あり?」
あ、本当だ。駄目だわコレ。
「まあ、そもそも回想なんて俺たちを対象としてる訳でも無いーー」
「「止めろ」」
コレは駄目か。
「じゃあーー」
次のネタはーー
「ボケ倒すのはもう良いよっ! それよりこの状況を説明して!」
ボケをアルトに止められた。えー。
「不満そうな顔しない! 皆いきなりの展開に困惑してるんだよ!?」
そう言われて気付いた。説明を求める視線の雨に。……仕方ない。現実と向き合うか。
ニコニコと笑顔を浮かべるフィアの方を向き、先ほど飲み込んだ疑問の数々を吐き出す事に。
「えーと、何か用?」
「違う! それも気になるけどそれじゃない!」
……じゃあ何を訊けと。
「そんな不思議そうな顔しないで! まず誰この娘!?」
ビシッと擬音が聞こえそうな勢いで、アルトはフィアを指差した。おい、指差すな失礼だろ。
「あ、自己紹介が遅れました。リザイア王国から来ました、フィリア・マキ・リザイアと申します。この度、このルーデウス魔法学園に通う事になったので、皆様どうかよろしくお願いします!」
アルトの疑問に答えるようにして、フィアは皆に向けて自己紹介を行った。
最後のカーテシーは見惚れる程に洗練された物だったので、賞賛と歓迎の意を込めて拍手。
「久しぶりだねー」
「これからよろしくな」
親友二人も俺に続いて拍手した。
「えへへ。ありがとうございます。ヒバリ様、ユウイチ様、ショウゴ様」
俺たちからの拍手を受け、フィアは恥ずかしいそうに、しかし嬉しそうに頬を染める。
「ストーップ!!!」
「「「ふぁ!?」」」
歓迎の雰囲気の中、アルトが叫びながら割って入ってきた為、俺たちは揃って飛び上がってしまう。何ぞ?
「いきなり大声上げてどうしたアルト? フィアもビックリしてんじゃねえか」
「それについてはゴメンだけど! ちょっと皆こっち来ようか!!」
そう言って、アルトは俺たちを教室の隅へと引っぱって行く。因みに、フィアには他のクラスメートが頭を下げてフォローしている。
「(何だよアルト。客人の前だぞ)」
「(その客人が問題なんだけど!? リザイアって事は、あの娘が噂の王女様!?)」
「そだよ」
「うん」
「だぞ」
「何で三人ともそんな冷静なの!?」
何でと言われても……。
「何で?」
「「「「こっちのセリフだ!!」」」」
クラス中からツッコミを受けた。オイ、またフィアがビクついてんじゃねえか。
「逆に何でお前らそんな驚いてんの?」
「訪ねて来たのが王女様だからビックリしてんだけど!?」
「公爵子息二人と侯爵子息一人いるのに何を今更」
「「「「お前らは例外だよ!!」」」」
全員から例外判定を受けてしまった。
「え、それって僕も?」
「俺も?」
雄一と翔吾は不服そうな顔をしている。
「「コイツと同類とか嫌過ぎんだけど」」
「ハモるな」
泣いて良いかな?
「兎も角! ヒバリみたいなナンチャッテ貴族を、どうしてマジもんの王女様が訪ねてくるのさ!?」
「待てコラ」
誰がナンチャッテ貴族だオイ。貴族らしくないのは否定しないけどさ。
「そんな事はどうでも良いから、答えろヒバリ!」
「知り合い」
「もっと詳しく!」
えー。
「もっと詳しくねえ」
「……えっと、ヒバリ様は私の婚約者ですよ? ……まだ正式ではないですけど」
俺が何て答えようか悩んでいたら、教室の向こうからフィアの助け船、という名の爆弾が投下された。
「………へ?」
「……は?」
「…うぇ?」
皆が各々に変な声を上げた後、一瞬の沈黙。
そして、
「「「「「えーーーー!?!!?」」」」」
盛大に爆発した。
「ちょっとヒバリ!? 婚約者ってどういう事!?」
「婚約者候補な。あくまで候補」
そこだけは間違えないで頂こう。
「そんな細かい事なんて関係ないから! え、王女様が婚約者って本当!?」
「らしいよ」
「らしいって何!?」
「いや、俺も昨日聞いたばっかなのよね」
何かしてくるんじゃね? みたいな予想は立ててたけど、話を聞くまで忘れてたからな。いや、薄っすらとは残っていたのよ? 頭の片隅に、サランラップぐらいの透明度で。
「……その割には、王女様の事知ってたっぽい反応だったよね? ユウイチとショウゴもだけど」
アルトは先ほどの俺たちの行動を振り返り、疑わし気な目を向けてきた。
「婚約話を昨日聞いたのはマジだぞ。その前から知り合いではあったけど」
というか、それが原因でこんな事になった訳だし。
「へー、そうなんだ。どんな経緯で知り合ったのさ?」
「フィアがチンピラに襲われててな。そこに出くわした」
流石に魔人や魔王については言えないので、肝心な部分を適当にボカして話す。
「(魔人や魔王をチンピラですか……)」
「(雲雀からすれば似たような物なんだろう)」
「(流石はヒバリ様ですね!)」
「(……それで片付けるフィアちゃんも凄いね。流石は恋する乙女)」
何やら、親友二人がフィアと小声で会話していた。いつの間に近づいたのか気になったが、取り敢えず、仲が良さそうで何よりです。
「はっ!? つまりアレか!? 悪漢を態と嗾けて助けるというマッチポンプか!?」
「馬鹿な!? その作戦は必ずイケメンの横槍が入り、咬ませ犬になる筈だ!」
「んな事するか! てか、お前らは何でそのフラグを知ってんだよ!」
こっちはこっちで、息ピッタリの言い掛かりかましてくれてもう!
「確実にヒバリの影響出てるよね」
ぐうの音も出ねえわ。
「でも、なるほどねー。それで王女様はあんなスキスキオーラが出ててた訳か」
「ヒバリが婚約者とか同情してたけど、王女様的にはむしろラッキーだったのね」
「ヒバリが好きとか正気を疑ったけど、王女様にとっての白馬の王子様ならしゃーないよねー」
女性陣が何やら納得の声を上げているが、そこにさらりと俺への罵声が入っているのは何故なのだろう?
「ヒバリの影響だよ」
ぐうの音も出ねえわ。
「いやいやいや! 何で納得しちゃうんだよ女子は!?」
「ヒバリだぞ!? 享楽的で刹那主義の人を人とも思わないクソみたいな人格破綻者だぞ!? そんな奴に婚約者とかオカシイだろう!」
男性陣も言いたい放題言ってやがるし。
「何でこんなクラスになっちゃったのか……」
「モロにヒバリの影響受けたからだよ」
やっぱり、ぐうの音も出ねえわ。
俺とアルトがそんな会話をしているの横では、男子たちが妙な盛り上がりを見せていた。
「ヒバリがモテるなんてあり得ない!」
「「「「そうだそうだ!!」」」」
「ヒバリはクズだ!」
「「「「そうだそうだ!!」」」」
「どうせ精神に作用する薬でも盛ったに決まってる!」
「「「そうだそうだ!!」」」
「ちょっと待とうか」
そろそろ良い加減にしろよお前ら?
「大合唱してるところ悪いんだけど、それって喧嘩売ってるよな? 売ってるよな?」
言い値で買うぞ?
「フィア、悪いけど自分のクラスに帰ってくれる? 俺はこの馬鹿どもを仕置きしないといけなくなったから」
「え、え?」
「わざわざ貴重な朝の時間に会いに来てくれたのに、こんな事で帰って貰うのは本当に悪いんだけど、ここから先は見せる訳にはいかないんだ」
これから先は、楽しい楽しい虐殺劇なのだ。フィアには少しばかり刺激が強過ぎるだろう。
因みに、今の時間は朝のホームルームが終わったばかりである。今日が初日のフィアにとっては、クラスの友達を作る絶好の機会となった筈なのだ。それを蹴ってまで来てくれたのに、こんな事になってしまって本当に申し訳なく思う。
「いえ! そんな謝らないでくださいヒバリ様!」
俺の申し訳なさそうな表情を見て、フィアは慌てて否定してくる。
チャンスである。
「そうか。じゃあ今直ぐ戻りなさい。今からこの教室は戦場になる」
「え? え、え!?」
「良いから良いから」
戸惑うフィアの背中を押し、教室の外へと誘導する。
「あの、戦場ってどういう!?」
フィアの疑問は、今回は不参加な女性陣が答えてくれた。
「心配しなくて大丈夫ですよ王女様。このクラスでは良くある事ですから」
「そうそう。ちょっと重症者が出るぐらいだから、気にしないでくださいねー」
「けど、慣れてないと怖いと思うんで、ここはヒバリの言う通り、クラスに戻った方が良いですよ」
「それって本当に大丈夫なんですか!?」
意外と大丈夫なんだよね。怪我人はしっかり治療してるし。
「戦争なんて言ってるけど、実際はただの喧嘩だしね。それも基本ヒバリが買う側の」
「即座に買われる事分かってんのに、ここの連中は学習しねえし」
「ぶっちゃけ自業自得」
喧嘩両成敗って事だな。
「そういう訳だから、心配すんなフィア! 埋め合わせに昼飯でも皆で食おうや」
「は、はい!」
昼食の誘いを受け、とても嬉しそうな返事が聞こえてきた。
俺に誘われたからこの反応だと言えば、思い上がりが過ぎると思われるだろうが、事実なのでしょうがない。
「あ、友達出来なかったら、クラリスって名前の娘に話し掛けとけ。俺の義妹だから」
「えっと…はい」
今度は微妙そうな返事が返ってきた。これは余計なフォローだったらしい。
微妙に締まりの無い空気になったが、兎も角フィアは自分のクラスへと戻っていった。
「さて……お前ら、覚悟は良いな?」
フィアが居なくなったのを見届けてから、男子たちに視線を飛ばす。
「おうおうおう! 掛かって来いヤァ!」
「今度こそぶっ潰してヤルァ!!」
「数の暴力舐めんじゃねえぞオラァ!」
睨み返してくる男子たち。殺る気は十分みたいだな。
「ヒバリ戦争、今回で何回目だっけ?」
「八だよ確か」
「じゃあ、第八次ヒバリ戦争だね」
「良くやるよ、全く……」
「本当、男子って馬鹿よねー」
観客に回る女子たち。因みに、コイツらもヒバリ戦争には何度も参加してる。……ヒバリ戦争って何ぞ?
「……色々と言いたい事もあるが、まあ良いや。良いかテメエら。こっからは、R18タイムだ!!」
「銀○か」
「銀○んだ」
その通り。
「いくぞオラァァァァ!!」
「「「「掛かって来いヤァァァァ!!!」」」」
そして、戦争が始まった。
勿論、先生たちにはメタクソ怒られた。
そして昼休み。
キーンコーンという鐘の音と共に、クラス中が喧騒に包まれるを
「ああ、やっと終わったー」
午前の授業やら説教やらは無事に終了したので、机の上でホッと一息
「いやー、エクレ先生の説教長いわやっぱり」
コキリと固まった身体を解しながら、もう何度も受けたかも分からない説教への愚痴を零す。
「……毎回毎回、クラスの半数近くがダウンしてるんだから、説教が長くなって当然だと思う」
いやいや、結果が分かってんのに、喧嘩を売る方が悪いだろ。
「エクレ先生泣いてたしねー」
「アレは、ちょっと申し訳なく思った……」
先ほどの光景は、俺でも気不味く感じたからな。
説教の途中で、エクレ先生は泣き出したのだ。俺が問題行動を起こす度に、周囲の先生から文句を言われているのが原因らしい。
また、俺が学生会に入った翌日だったのも原因のようだ。何でも、最初は俺が学生会に入った事で、その先生たちはエクレ先生に『エクレール先生の日頃の指導の賜物ですな』的な感じで褒め称えた。しかし、俺がまたやらかした途端、『貴女の指導力に問題があるのでは』と手の平を返したそうだ。
「その時のヒバリの反応もビックリだよ」
「そうか?」
我らの担任を追い込んだ先生たちに、報復として喧嘩を売ろうとしただけなのだが。余計に泣かれたので止めたけど。
「でも腹立たねえか? 自分たちで勝手に思い込んで、それで期待と違ってたからってエクレ先生に文句を言うのは。文句があるなら俺に直接言えっての」
「言っても治らないから、文句がエクレ先生の方に行ったんじゃないの?」
そう言って白い目を向けてくるアルトに、俺は肩を竦めて反論する。
「それとこれとは話が別。俺が腹立ったのは、勝手に期待して舞い上がって、期待を裏切られたら関係の無いエクレ先生の所為にした事だ。明らかに自分らが悪いだろうに」
それなのに、エクレ先生に文句を言って追い込んだ。俺が元凶だろと突っ込まれれば頷くしかないが、それとは違う部分で腹が立つ。
……やっぱり、こっそりと報復しようかな? バレなければ問題無い訳だし。
俺が密かにそんな計画を立てている中、アルトはジト目でこっちを見てくる。わっつ?
「……それだけ先生の事を想ってるなら、そもそも問題行動を起こさなければ良いのに」
「俺の生き甲斐なのに?」
「そこまで言うか……」
生き甲斐と断言した俺に、アルトは呆れたと言いたげな顔を浮かべた。
「はぁ……。ヒバリたちの担任になったのが、エクレ先生の運の尽きだよね」
本当、ご愁傷様です。
「え? ヒバリ、たち? それって僕も入ってんの?」
「俺も?」
アルトに一括りにされ、とても不服そうな顔をする親友二人。お前らが食い付くとこはそこか。
「僕らの印象だと、基本的に三人でワンセットだよ?」
「それは止めろ」
「一纏めにされると吐き気がするから」
「お前らな……」
そろそろ泣くぞ俺。
「泣けば?」
「思いっきり嗤ってやるから」
一度お前たちとは友情を確かめないといけないようだな……。
「何言ってんのさ! 僕らは親友じゃないか!」
「この場面で出てくる友達宣言は信用出来ねえよ」
「なあ心の友よ。ちょっとパン買ってこい」
「パシリだよな? それ親友じゃなくてパシリだよな?」
本気で泣くぞ。
「ったく……そろそろ行くぞ」
これ以上、心に傷を負う訳にもいかないので、朝に交わした約束を果たすという名目で逃げ出す事にした。
「ふむ……もっともっと挑発したいところだけど、確かにフィアちゃんを待たせちゃ悪いね」
「そうだな。そんなしょうもない理由で待たせたら、色々と申し訳ないか」
まだまだ物足りなさそうな二人だったが、フィアの事を考えて素直に引き下がった。コイツらはまだ飽きないのか……。
「アルトはどうする? 一緒に来るか?」
この流れで、一人だけ置いていくのも悪い。そう思っての誘いだったが、
「遠慮しとく。王女様と食事ってのは、ちょっと心臓が保たない」
と断られた。
「……今更じゃね?」
アルトは、てかクラスメートの殆どだが、相当に馴れ馴れしい態度を取っていたように思うんだけど。
「いやまあ、そうなんだけどさ……。あの時は突然の事で気が動転してたし、王女様も結構腰が低かったから……」
「それで馴れ馴れしくしちゃったと」
「……うん」
やっちまった的な表情で、アルトはコクリと頷いた。
「まあ、今後は気を付けな? ここは学園だし、フィアは別に気にしないだろう、というか気にさせないから良いけど、相手や場所によっては不敬罪なっても可笑しくないし」
「だよね……」
顔を僅かに青くしながら、アルトは頬を掻く。今更ながら、自分たちがかなり危ない行為をしていたのだと気付いたようだ。
「ヒバリたちみたいなナンチャッテ貴族と接してたから、その手の意識を忘れてたよ」
ナンチャッテ貴族言うなし。
「前はハンス(懐かしい)にすら怯えてたもんなぁ」
「怯えてないよ! 単に、あの人はヤバイタイプの貴族だって知ってたからっ」
怯えていたと思われたくないのか、慌てて言い繕うアルト。とても微笑ましい。
「男の子だね」
「うるさいっ!」
猫耳+尻尾をピンと立て、アルトはこれ以上言うなと全身で訴えてきた。とても可愛いらしい。
「ゴロゴロニャー」
「死ね」
泣いていいかな?
「……くすん」
「え!? マジ泣き!?」
「まあそんな訳で、一組行ってくるわ」
「帰ってくんな」
アルトの罵声をサラリと聞き流し、俺たちは一組へと向かう。
一組は十組から多少離れているので、多少の雑談を交わしながら歩く。
「それにしても、皆、本当にヒバリの影響受けてきたよね」
「俺だけかよ」
「朱に交われば何とやらと言うが、お前の場合は全てを飲み込む黒だよな」
「誰が夜のような黒だ」
「言ってない」
「どちらかと言うとアレだ。原油とかそっち系の黒」
「濁りまくってんじゃねえか」
「燃える時にムラがあるらしいし、案外当たってない?」
確かし。
と、そんなくだらない会話をしている内に、一組へと到着した。
「何気始めてじゃね? ここ来んの」
「そう言えばそうだね。クラリスちゃんやライトもいるのに」
「基本、用がある時は向こうから尋ねてくるからだろ」
そうなんだよね。クラリスは勿論の事だが、実子組はとても気が効く。人の頼みは進んで引き受けるし、逆に大抵の事は、それがどんな些細な要件でも、人に任せず自分で済ます。
気が効くというよりは、性格が良いと言い換えても良いかもしれない。
「クラリスちゃんやアリアちゃん、シャナ姉さんにライトも、喧嘩とかとは縁が無さそだよね」
「無縁って訳じゃないだろうけどな。流石に全ての人を愛せよ、なんて精神はしてねえだろうし」
「まあそれ以前に、あの性格だと、そんな状況になるような事がまず無いだろうがな」
それもそうだな。
雄一の台詞に納得し、俺は一組の扉を開ける。
「おーい。迎えに来たぞー」
「ヒバリ……。流石に初めてのクラスなんだから、何か他に一言無いの?」
「一組の連中も面喰らって………無い?」
雄一の言葉を聞いて、俺も気付いた。
何やら一組の教室が、妙な緊張感に包まれている。
「何かあったのかね?」
妙に張り詰めた雰囲気に首を傾げながら、教室を見回して騒ぎの中心を探し出す。
「あ、あそこ。原因は多分、あそこのふた……お二人さんだね」
翔吾が指差した先にいたのは、
「おおう………マジですか」
我が愛しの義妹様と、親愛なる婚約者様であった。
ついにフィアさん登場。
これでやっと物語に絡ませられる……。
構想自体はインセラートらへんから出来てたんですけど、そこからが長え長え。
小説を書く事の大変さを、改めて思い知りましたわ……。
これじゃあ、新ヒロインはどんだけ先になるのやら……。
因みに、最後の部分は、現状のヒバリの好感度を表してたりします。




