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42.ティータイム


「……シア? レティシア?」

「は、はい!?」

「ずいぶん上の空だったけれど、大丈夫? 頭を使いすぎて疲れてしまった?」

「いえ、大丈夫です」


 ぼうっとしてたのは確かだけど、ダミアンの言い方が嫌みったらしくて一気に現実に戻ってこれたよ。

 は! ちょっと待って。これはひょっとして、休憩しようの合図?

『頭を使いすぎて疲れた=糖分足りない』の図式が成立するじゃない。

 ここで働かずして、何が庶務だ。

 お茶汲みは女性の仕事じゃありません、なんていう世界じゃないもんね。


「あの、私はお茶を淹れてきますね」

「手伝うよ」

「私一人で大丈夫ですから、ダミアン様は皆様と話し合いを続けてください」

「そう?」

「はい」


 むしろ邪魔なんだよね。

 生徒会室の隣にはちゃんと水場があって、茶葉もしっかり揃っている。

 先代からそのまま放置されたものではなくて、茶葉は確認すると新しいとすぐにわかるくらい芳醇な香りがする。

 茶器を洗浄魔法で洗って、火魔法と水魔法を駆使してカップを温め、その間にポットに茶葉を入れて熱湯を注ぐ。

 うん。魔法って便利。


 普段はこういう作業はクレールたちに任せているけれど、淑女教育の一環として一通りはできるように躾けられているんだよね。

 しかもレティシアの魔力は貴族の中で普通とはいえ、これくらいの魔法は使えるんだから、もっと魔力の強い人たちが支配者階級に属するのは当然だと思う。

 その中でも、ダミアンは突出しているっていうんだから怖いよね。

 ゲームの『王子様♡』ではどうにか倒すことができたけれど、実際のダミアンの実力はどれくらいなんだろう。


「レティシア」

「はい!」

「運ぶのは手伝うよ」

「……ありがとうございます」


 カートもあるけれど、ここで固辞するのも失礼かと思って、ダミアンの申し出を素直に受けることにした。

 それにしても、背後から急に声をかけるのはやめてほしい。

 言っても聞いてくれないだろうから、諦めるけど。

 焼き菓子まで用意されているから菓子器に盛りつけていると、ダミアンがふっと何かの魔法を使ったのがわかった。


「ひょっとして、毒を調べています?」

「念のためにね」

「そうですね」


 これは私を疑っているわけではなく、本当に用心しているだけ。

 カリナ様が毒殺されたかもしれないのに、学園の使用人が用意したと思われる飲食物を不用意に供しようとした私が迂闊すぎるんだよね。


「……ありがとうございます。至らず、申し訳ありません」

「気にしなくていいよ。これは習慣のようなものだから」


 落ち込む私を励ましてくれるダミアンの笑顔は本物で、ますます申し訳なくなってしまった。

 これはアクセル様がお口にされるものでもあるんだから、もっと気を配るべきだった。

 って、そうだよ。アクセル様が私の淹れたお茶を飲むというイベント発生!

 緊張する~!

 どきどきしながらトレイに菓子器を載せて、みんなの許に戻る。

 茶器セットはダミアンが運んでくれてよかった。

 緊張のあまりひっくり返したりなんてしたら大惨事だからね。

 震えそうになる手を根性で抑えて、アクセル様から順番にお茶を注いでいくと、お礼を言われてしまった。歓喜。

 お茶が揃って私が腰を下ろすと、アクセル様は一度香りをかいでから口をつけられた。


「うん。美味しい。ありがとう、レティシア嬢」

「疲れた頭には甘いものに限るな」

「お茶を淹れるのがずいぶん上手くなったな、レティシア。やはりこれもお妃教育の賜物か」

「レティシアは僕のために頑張ってくれているからね」

「レティシア様、ありがとうございます」


 お茶を淹れただけなのに、こんなに褒められると恥ずかしいんですけど。

 当然のことながら、ダミアンのためにはこれっぽっちも頑張ってないので、いい加減にお兄様はお妃教育につなげるのをやめてほしい。

 あと、ジャンはお茶に砂糖を入れすぎだと思うけど、体もすごく動かしているようだから大丈夫なのかな。

 アントニーは礼儀正しくお礼を言ってくれただけ。

 ただ、もう本当に、アクセル様が褒めてくださって大歓喜。

 毒に関して心配されていないようだったのは、ダミアンのおかげかな。

 それだけアクセル様はダミアンを信頼しているってことだよね。

 やっぱり手伝ってもらって、本当によかった。

 だけど、もしダミアンが裏切っていたら……いや、それなら私が絶対に阻止してみせる。


 とはいったものの、今のところそんな気配はないからね。

 議論は一時中断して、みんなでお茶を飲んで休憩。

 アントニーも議事録をとっていないから、今のうちにさっき気になったことを訊いてみよう。


「あの、つかぬことをお伺いしますが、そもそも『生徒間の格差是正』を生徒会の方針として打ち出したのは、何期ほど前の方なのでしょうか?」

「そういえば、いつからだろう?」

「僕たちが入学したときには、すでに生徒会の方針として掲げられてはいたな。ほぼ形骸化していたが……」

「ああ。だからこそ、我々の代では少しでも形にしたかったんだがな」


 私が疑問を口にすると、アクセル様とダミアンが答えてくださったけれど、結局はわからなかったみたい。

 すると、エルマンが立ち上がった。


「気になることはすぐに調べたほうがいいですからね」


 そう言って、隣の書庫へと入っていく。

 続いてアントニーも立ち上がり、私もと思ったけれど、ダミアンに止められてしまった。


「ダミアン様?」

「歴代の生徒会の活動はきちんとまとめられているからすぐにわかるよ。それよりも、レティシアは面白いところに目をつけたね?」

「そ、そうですか?」


 何だろう。この追い詰められた感。

 別に変なことを言っていないよね?

 晴乃の記憶もゲームの経験も関係ないはずなのに、どうしてダミアンは気にするの?


「レティシア嬢は本当に次々に面白い発想をするよな。俺なんてあれこれ考えたりするのは面倒で仕方ないがなあ」

「それは……ジャン様は騎士としての鍛錬も行っていらっしゃるので、それほどお時間もありませんでしょう? アクセル様もダミアン様もすでに国政を担っていらっしゃると伺っております。それに比べて私は学業以外には特にすることもありませんから、とりとめもないことを考えてしまうほど時間があるのです」

「要するに、暇ってことか?」

「……そうですね」

「そうかそうか。暇というのも悪いものではないんだな」

「……何事も余裕は大切ですから」


 ジャンは言い方に気をつけてほしい。まあ、暇と言えばそうなんだけど。

 しかも、アクセル様が珍しく口角を上げていらっしゃるからよし!

 ええ、私は暇なんです。なんといっても、モブですから。

 アクセル様が笑ってくださるなら、モブ令嬢とでも暇令嬢とでも好きに思ってください。


「で、暇人なレティシアは『生徒間の格差是正』を初めて掲げたのが誰なのか、どうして気になったのか?」


 ちょっと! また振り出しに戻る、だよ。

 もうダミアンは黙っとれ!




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