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41.ノブレスオブリージュ


「レティシアは問題提起しただけなんだから、無茶ぶりはダメだよ、ジャン。レティシアも気にする必要はないよ。何せ僕が推薦して無理に庶務になってもらっただけなんだからね?」

「それもそうか。すまない、レティシア嬢」

「いえ、お気になさらず……」


 おのれ、ダミアンめ。

 私を庇ったふりをしながら、あきらかに挑発してるよね?

 私が庶務になりたくないって苦情を言ったことを根に持っているのかも。

 性格悪いよ。知ってたけど。

 とはいえ、目標ねえ。

 オールフォーワン。ワンフォーオール。みたいなことくらいしか思い浮かばないけど、学級目標じゃないんだから。

 って、いや、でも何だっけ? 似たような言葉というか、横文字でいい感じのやつがあったような?


「あ、ノブレスオブリージュ……」

「レティシア、何か言ったかい?」

「え? い、いえ……」


 しまった。思わず口に出してしまっていたみたい。

 まだ上手く整理できていないけど、ここ最近のもやもやの一つに関係ある気がする。

 とにかく、言葉にしてしまえば、アクセル様やダミアンには通じるかもしれないし、言うだけ言ってみよう。よし。


「あの、私たちは……この学園生たちは、当然のことながら生徒間の格差はありますが、世間的には学園生皆が〝力を持つ者〟です。ただほとんどの生徒たちがそのことに気づかないまま、卒業して社会に出てしまうのではないでしょうか」

「ああ、確かに……。皆が目に見える形――実家の地位や財産の保有、魔力学力の優劣に囚われてはいるが、この学園に入学できた時点で皆が何かしらの力を持っていることは間違いない」

「そうだね。一般生だって――いや、一般生こそ魔力や学力にかなり秀でていないと入学できない。だけど、この学園で六年も過ごしているうちに、この狭い世界がすべてだと思ってしまう。社会一般では〝持たざる者〟が多い中で、僕たちは間違いなく〝力を持つ者〟だからね」


 上手く言葉にできなかったけれど、私の言いたいことはアクセル様にもダミアンにも伝わったみたい。

 そうなんだよ。学生はどうしても狭い世界がすべてだと思いがちで、大人になっても抜け出せなかったりするから思春期の経験って大事。


「私は……この学園で皆が目指すべきは〝自覚と義務〟を知ることではないかと思います。私たちには〝持たざる者〟たちを助け守る〝義務〟があるのですから。そのためにも、学園というこの小さな社会で、まずはお互いを尊重することを学ぶべきです。そうすれば、社会に出たとき、自分たちの力を必要とする人たちが多くいると知ることが〝自覚〟できるのではないでしょうか」

「ああ、それは素晴らしい考えだな」

「レティシア、さすがだね」

「――ありがとうございます」


 ここは素直にお礼を言っておくべきだよね。

 アクセル様に褒められたことは踊り出したいくらい嬉しいけど、ダミアンが裏もなく喜んでくれているのがわかって胸が高鳴る。

 ついに魔王を倒したから? いや、まだまだ油断禁物。


「レティシア、素晴らしい考えだな。これもお妃教育の賜物か……。兄として誇らしいよ」

「お兄様……」


 お妃教育は関係ありません。

 教師である女官の方たちはとても優しくはあるけど、実のところレティシアとして十六年教育を受けてきたので、それほど真新しいことはなかったからね。


「なるほどな! レティシア嬢の案が素晴らしいことはわかった。で、それがどういう意味かは後で教えてくれ」

「ジャン……。伯爵の後を継がれるのなら、もう少し自分で考えようか」


 それな。

 ゲームのときのジャンはとても頼もしく思っていたけど、今思い出してみると単純に目の前に現れた敵をばっさばっさ倒していただけだったような?

 まあ、いいや。ベンティ伯爵家の行く末が心配じゃないわけではないけど、一人で支えていかなければならないわけでもないからね。

 長というのは優秀な補佐がいればどうとでもなる。大切なのは人を惹きつける力だよ。

 そう考えると、アクセル様もダミアンも大丈夫か心配になるな。


 二人とも超優秀で周囲の助けを必要としないけど、今のままでは臣下がついてくるか……いや、大丈夫か。

 アクセル様は『氷雪の王子様』と冷たいような印象を受ける二つ名がついているとはいえ、生徒会長に選出されるくらいの支持を得ているもんね。

 これは単に王太子殿下だから、というわけではないことはモブとして感じていたから間違いない。


 それにダミアンは『微笑みの貴公子』ってちょっとダサい二つ名がつけられるくらいに、笑顔を振りまいて親しみやすさで人気を得ているからね。

 でも、たまに本気で笑っているときには黄色い声が大きくなるのは、みんなも無意識下では感じているんじゃないかな。ダミアンの笑顔が嘘だって。

 とにかく、この二人が次代の国政を担い、皆をけん引してプラドネル王国を統率していくなら安泰だとは思える。

 今だって、私の曖昧な言葉を具体的にわかりやすくしてくれて、今季生徒会の目標として話し合っているもん。


(うん。なんかもやもやが少し晴れた気がする……けど、何だろう……?)


 真剣に話し合っているアクセル様はそれはもう光り輝いて眩しいくらいに素敵。

 それに、悔しいけどダミアンもかっこいいとは思う。

 あの嘘くさい笑顔がないからかな?

 エルマンお兄様は鋭い質問をすることによって問題点を明確化しているし、ジャンが発言することによって、全生徒が理解できるよう気を配ることができてる。

 アントニーは相変わらず書記に徹しているから、何を考えているのかはわからないけどね。


 きっとこれが本来の生徒会の姿なんだろうな。

 ゲームでは何回かヒロインに選択肢が与えられて、生徒会の方針は決まっていたから。

 そうだ。確か、その中でも最初に学園内の格差是正の選択肢があったんだ。


 《今期生徒会としての活動に対して意見を求められていますが、あなたはどうしますか?》

 ▼学園内での生徒間の差別をなくせるよう提案する

 ▼みんなの活動を頑張って応援する


 この選択肢はダミアンルート以外ですべて出てくる。

 当然、提案するを選んで、平等を尊ぶヒロインちゃんすごい! となるわけ。

 なぜダミアンルートだけは選択肢自体がなかったのかというと、シナリオ上必要ではなかったから。

 みんなのルートでは、ラスボスだったダミアンは平等精神なんて不要、超差別主義者だったからなあ。


 要するに『王子様♡』では、格差是正もヒロインが言い始めたことだったんだ。

 ゲーム開発者が現代日本人だから、平等精神は尊い、差別反対、というのはわかる。

 だけど、そもそも王侯貴族が支配するこの国――この世界で学園内とはいえ、格差是正、平等主義を唱えるのって、不自然じゃない?

 レティシアだって、小さい頃からの教育で侯爵令嬢としての矜持を大切にしながらも奉仕精神を教え込まれてはいたけれど、平等なんて一度も聞いたことはなかった。

 それは、レティシアが支配者階級に属しているから?

 だとすれば、慣例化してしまっていた生徒会の方針『生徒間の格差是正』はよっぽど奉仕精神にあふれた生徒会役員が言い始めたのかな。




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