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33.壁に耳あり

 

「――それでは、レティシアが王宮に住むことになったのは保護するためで、今後何かと危険が迫る可能性もあるので、ジャンとエルマン、そしてアントニーにも学園内では協力を要請する、としよう。アントニーもレティシアを保護することで、プラドネル王家に恩を売れるしね」

「私を囮にしていることも話したほうがよくありませんか?」

「しかし、それではエルマンの反発を買うだろう。エルマンにとって大切な妹君を囮にするなど許せるだろうか」


 ダミアンがしれっと話をまとめていたので嫌みを言ったら、アクセル様が難色を示された。

 ああ、すみません。私が余計な嫌みを言ったばかりに大失敗。

 でもアクセル様は決して悪くないんです。悪いのは全部隣で笑いを堪えているダミアンですから。

 それなのにアクセル様の麗しい眉間に寄るしわに萌えている私をお許しください。

 償いに、アクセル様に大丈夫だと早くお伝えしなければ。


「あの、アクセル様にもし妹君がいらっしゃって、同じ状況になったとしたら、どうお思いになられますか?」

「王族の義務として、命の一つや二つくらい賭けるべきだろう」

「おそらく、兄も侯爵家の嫡子として同じように思うのではないでしょうか。父が宰相として王家とこの国のために尽くしているのを間近で見ているのですから」

「……確かに、エルマンならそう判断するな」

「はい」


 即答だなんて、さすが『氷雪の王子様』。

 アクセル様の国を思うがゆえにご自分の立場を理解されていて非情なところがあるのよね。

 それも、カリナ様が亡くなってから顕著になったとされていたけれど、婚約者を亡くした悲しみよりも、その死因でさらに優しさを封印されたのではないかしら。

 聖女であるヒロインは皆の怪我だけでなく、凍りついてしまったアクセル様の心までもを癒して二人は結ばれるのよね。

 だからさっさと魔王を倒して――。


「レティシア、どうかした?」

「い、いえ。ジャン様や兄には、ダミアン様からご説明してくださいね」

「わかった。それじゃあ、明日……は休みだったね。来週の放課後、生徒会室で三人には話すよ。それまでは、レティシアも十分に気をつけて、僕とできる限り一緒に行動しよう。学園内でも決して一人で行動したりしないようにね。帰りも迎えにいくから」

「……はい」


 私の中での魔王認定をしているダミアンを睨んでいたら、優しい(ように見える笑みで)問いかけられてしまった。

 慌てて誤魔化したけど、それがまた墓穴を掘りました。

 穴の深さはもう十分だから、墓石に銘を彫り刻む過程に進んでいる気がする。


 今のようにアクセル様の前で念押しされてしまっては、先に生徒会室に向かうこともできない。

 学園でまた目立ってしまうけど、それもまたダミアンの目的なんだろうな。

 腹立つけれどアクセル様のためなら囮でも何でもやりますよ。はい。

 アクセル様の前だというのに、憂鬱な気分になってしまって、ダミアンに部屋まで送ってもらってから、大きくため息を吐いた。


「あー、疲れたー」

「お嬢様、何度も申し上げますが、たとえそのように思われていたとしても、言葉や態度に出されるべきではありません。いつどこで誰が見ているかもわからないのですから」

「はいはい」

「はい、は――」

「一回でしょう?」


 またお小言を始めたクレールに先んじて答えれば、渋い顔をされた。

 クレールこそ、そういう顔はよくないと思うけどな。


「でもね、クレール。一応ここは今の私の自室なのよ? それなのに、リラックスもできないなんて息が詰まってしまうわ」

「お嬢様、そのお気持ちはわかりますが、それでもやはりここは『一応』でしかないのです」

「え? ひょっとして、覗き穴でも見つけた?」

「……見つけてはおりませんが、ここが王宮内であることを考えれば、どこかに耳目があるのは当然でしょう」

「わかる~! 私もそう思う。でも、さすがに浴室を覗かれるのは嫌だなあ」


 やっぱりクレールも察していたんだ。

 ダミアンを筆頭に、王族の方たちがこんな好機を見逃すはずがないもんね。

 この部屋だけじゃなくて、王宮内にはあちらこちらに覗き穴っぽいのはあって、みんなの噂話から悪巧みから色々と情報収集していると思う。


「声は聞かれたとしても、覗かれることはないと思います」

「なら、まあいいんじゃない?」

「よろしくはありません。お嬢様の残念な……ところがあると知られてしまっては、王弟殿下に呆れられてしまうかもしれませんよ?」

「心配しなくても、最初から期待はされていないから大丈夫」


 今、クレールは「残念な」何を言おうとしたの?

 しかも完全には訂正していないよね?


「それなら、なおさら少しでも印象をよくするために、努力なさるべきではありませんか? このような好条件の縁談はそうそうないのですから」

「クレールは王弟殿下との結婚が好条件だと思うの?」

「はい。そもそも、内面に目をつぶればお嬢様こそ、好条件の花嫁候補です。そんなお嬢様に釣り合うお相手はかなり絞られます。そのうえで、お嬢様を心身ともに上手く御してくださる方は王弟殿下しかいらっしゃいません」


 どうしよう。すごいディスられてる気がするんですけど。

 しかも心身ともに御するって、酷くない? 

 モラハラDV肯定しているよね?

 それがこの社会――この世界の常識だとしても、(晴乃)としては認めたくない。


「……でもクレールの言う通りだとすると、私はいつ気を抜けばいいの? 私が私らしく生きられなくて、息が詰まっちゃう」

「ですが、最近のお嬢様は――王弟殿下と婚約なさってからのお嬢様はとても活き活きとしていらっしゃいますよ?」

「どこが?」

「あら、お気づきになっていらっしゃいませんか?」


 何がどうなってそう見えるの?

 ダミアンは私を監禁して、今はほぼ軟禁しているのに。

 でも両親以上に私のことを知っているクレールに言われると、簡単には否定できない。

 クレールには、今の私がそんなふうに見えてるってことだよね。


「その条件なら、アクセル様だって釣り合うってことなんじゃ……」

「僭越ながら、私はそのようには思いません」

「どうして?」

「お嬢様が王太子殿下をお慕いしていらっしゃったことは存じておりますが、今よりもずっと息苦しそうでいらっしゃいましたよ?」

「それは……」


 だって、どうにかしてアクセル様に好かれたくて、でもカリナ様のことがあるから安易に近づけなくて、どうすればいいかわからなかったんだもの。

 だから学園でも模範的な淑女として過ごしていて……そうか。今は学園でもダミアンと話しているときにはわりと素でいられる。

 それって、要するに……。


「ダミアン様の前では猫をかぶってもバレバレだから、今さら取り繕っても無駄なのよね。というわけで、疲れたー!」

「お嬢様……」


 クレールは呆れたようだったけれど、もう何も言わなかった。

 だって、もし誰かがどこからか覗いていたとしても、それはきっとダミアンの部下の人だろうから。

 なんといっても、私は囮だもん。

 きっと密かに護衛とかつけてくれているんだよ。……たぶんね。




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