50.婚約破棄に追放してくれてありがとう
洞窟を抜けるためひた走る。
暗さに慣れたお陰でなんとか足元は見えるけど、注意しないと転んでしまいそうだ。
ただなんとなく出口の方角はわかる。
「ここやっぱり、前に来たドレイクの洞窟だ」
だから見覚えがあったんだ。
お陰ですんなり出口まではたどり着けそう。
と、思っていたんだけど……
出口前で隠れる羽目になってしまった。
予想はしていたけど、出口に見張りが何人か立っている。
武器を持った男性が三……いや四人?
「不意打ちでいけ……ないよね。麻痺はもうないし、他の方法で突破しないと。あのポーション拾って来ればよかった」
カイウス様が持っていた催眠系のポーション。
あれがあれば、四人くらいを一時的に昏睡させるのも簡単だったのに。
なんて言ってはいられない。
早く準備しないと、麻痺の効果だって永久じゃないんだ。
吸い込んだ量によって効果時間が変化する。
あの中に魔法使いが一人でもいたら、口が動くようになった段階で回復されるかも。
「急がなきゃ」
「――ん? 誰だ!」
「え!?」
嘘?
バレちゃった!?
「止まれ! 止まれと言っている!」
あれ?
違う、私じゃない。
声は私に向けてのものじゃなくて、正面に誰かいる?
「止まらないのなら切り捨てて――」
「アイスレイン」
「なっ、ぐおああ!」
「ま、魔法だと!?」
見張りの男たちが一瞬で倒された。
氷柱を無数に降らせる魔法を受けて、洞窟の入り口で土煙が舞う。
煙の晴れた先で立っていたのは、怒りの形相をしたトーマ君だった。
後ろにはシュンさんにイルちゃんの姿もある。
「やり過ぎだぞ、トーマ」
「これくらいで良いんだよ。彼女を攫った悪党どもには」
「あちゃ~ 主様が完全に切れちゃってるよ」
「みたいだな。やり過ぎないように俺たちでカバーして……ん? 奥にもう一人にいるな」
シュンさんが私に気付いた?
トーマ君が睨むようにこっちを見る。
私はビクッと震えて、思わず立ち上がる。
「トーマ君!」
「――その声! アメリアか!」
「うん!」
私は慌てて出口へ駆け出す。
月明かりに照らされた外へ向かって。
「アメリア」
「トーマ君、みんなも助けに来てくれたんだね? ありがとっ――へ?」
抱きしめられた。
力強く、少し強引に。
だから驚いて、気の抜けた声が出てしまった。
「と、トーマ君?」
「良かった……無事で良かった。凄く心配したんだぞ」
泣きそうなくらい震えた声が耳元で聞こえる。
鼓動の速さも直に伝わって、どれだけ心配してくれていたのかわかる。
「ごめんなさい」
「身体は? 何もされなかったか?」
「うん。される前に逃げ出してきたから!」
「そうか……なら良いんだ」
「心配し過ぎだよ。私だってやれるんだから、少しは信頼してほしいな」
「馬鹿。信頼してることは、心配しない理由にはならないんだよ」
トーマ君ならそう言うと思った。
期待通りの……ううん、期待以上に嬉しい。
もしもどうしようもなくなって助けを求めるなら、きっとトーマ君の名前を呼んでいた。
その彼が、こうして助けに来てくれている。
ぬくもりを感じて、すごく安心する。
「でもトーマ君たち、どうしてここがわかったの?」
「シズクだよ。あいつ、出発前に俺の所に印の書いた地図を置いて行ったんだ。それだけじゃ意味もわからなかったけど、一言だけ……夜は気を付けろって書いてあってさ」
「それで最近は、深夜定期的に俺が見回りしてたんだよ」
「シュンさんが?」
「ああ。でもタイミングが悪かったみたいで、気づいた時にはもう遅かったみたいだ。すまない」
シュンさんは深々と頭を下げる。
私は慌てて首を振る。
「シュンさんの所為じゃありませんよ! 私は何ともありませんし、こうして助けに来てもらえましたから」
「そうだシュン。悪いとすれば俺だ。今までこんな場所の屋敷に賊なんて入り込まなかった。だから警備にも金を回してない。その結果が招いたんだ」
「トーマ君だって悪くないよ」
「君はそう言ってくれるだろうけど、俺が俺を許せないんだ。君を危険な目に合わせてしまった不甲斐なさがね」
彼は悔しそうに拳を握る。
助けに来てくれただけで十分なのに。
トーマ君は頑固だから、言っても聞かないよね。
「あ! 中にまだたくさん悪い人たちが残ってるんだ! もしかするとそろそろ麻痺が解けるかも」
「わかった。その前に全員拘束するぞ。どうせあの馬鹿貴族もいるんだろ?」
「うん」
もう一切否定できないね。
カイウス様の馬鹿さは。
私はトーマ君たちを連れ、奥のカイウス様の所へ戻る。
目的地に近づく少し前くらいで、ガサガサと蠢く音が聞こえた。
どうやら麻痺の効果が弱まって、多少は動けるようになっているようだ。
それでも自由にとはいかない。
到着すると、誰も彼もが地面で這いつくばり、頑張って立ち上がろうとしていた。
「これリア姉さんが倒したの! すっごいじゃん!」
「本当? ありがとうイルちゃん」
「く、くそ……お前たちは……」
「カイウス殿、さすがにこれはやり過ぎましたね? いくらあんたでも言い逃れ出来ない。陛下の名を騙った件も含めて報告しよう。国外追放か永久投獄で済むと良いな」
国家反逆と見なされれば、下手をすれば死刑もあり得る。
野盗との繋がりも露見したわけだし、もう言い逃れも出来ないだろう。
少なくとも、彼の貴族としての地位はここまでだ。
「正直殴ってやろうかと思ったが、それは俺の役目じゃないな。アメリア、この際だし言いたいことは全部言ってやれ」
「え、私? さっき言っちゃったけど……あ、一つだけあった!」
そういえば、まだ言ってなかったけ?
カイウス様には唯一感謝していることがあるんだよね。
最後になるだろうし、この機会にお礼を言わなきゃ。
「カイウス様」
感謝だし、精一杯の笑顔で言おうか。
「婚約破棄に追放までしてくれて、どうもありがとうございました! お陰で私、今とても幸せです」
「くっ……」
悔しそうな表情に私は微笑みかける。
この差こそ、私の選んだ道が正しかったという証明になる。
私は錬金術師。
宮廷ではなく、辺境の地で生きる。
私の幸福の全ては、この場所に詰まっているんだ。
これにて第二章完結になります!
最後まで読んでいただきありがとうございました!
少しは楽しんで頂けたでしょうか?
たくさんの方々に読んでいただけで、とても嬉しいですね。
三章については現在準備中でして、目途が立ち次第連載を再開します。
そこまで時間はかからないと思いますが、一応未定ということで。
というわけで物語としては一区切りです。
ぜひこの期待に皆さんも評価をして頂けれると嬉しいです。
ページ下に☆☆☆☆☆がありますので、お好きな★を入れて頂ければ。
続きも頑張ろうというモチベ維持・向上につながります!






