第96話 信頼
試験艦ペガッス。その艦内の士官用ベッドで私はなかなか眠れないでいた。ペガッスは元輸送艦だけに艦内は広いけど、そのスペースの大部分は実験や試験・開発機材などの収容に当てられていて、乗組員のパーソナルスペースは他の軍艦とさほど変わらなかった。考え事をして眠れないのか、眠れないから考え事をするのか、何かとあれこれと深く考え込んでしまうのは私の悪い癖だ。
考え事とは、日中に佐伯少佐から言われた件。制式採用となったFA-v3による部隊の発隊と、佐伯少佐が私を新部隊に推薦してくれた、という話だ。
私は父の敵討ちのためならばレッドライオン小隊を離れる事も辞さない、別の部隊への異動だってする。そう決めたのであり、その思いは変わらない。
「お前さん、だったら何をうじうじ悩んでいるんだ?」
気付くと私は野村大尉の喫茶店「銀座亭」、そのいつもの席に座っていた。いつの間にか眠ってしまったらしい。野村大尉は私の向かい席に座っていて、両手を組んで両肘をテーブルの上に乗せ、苛立たしげに私を軽く睨んでいた。
「済みません、大尉にもご心配をお掛けしちゃって」
「そんな事はどうでもいい。お前さんは一体どうしたいんだ?」
野村大尉は生前は学生時代に野球部でピッチャーをしていたそうだ。早くて重い球を投げたもんだと以前に自慢げに語っていた事があった。今回はかつてのエースパイロットではなく、学生野球の名ピッチャーとして私に直球勝負を挑んでいるよう。
「私は父の敵を討つために軍人に、パイロットになったんです。だから、より強力な機体でアムロイと戦いたい、そう思っています」
「ならそれでいいじゃねえか?何を悩む必要がある?」
野村大尉にそう言われて、自分でも返答に困る。だって大尉の言う通りなのだから。結論が出ているのに何を悩む必要があるのかって話だよね。でも、実際私はこうして悩んでいる訳で。何を悩んでいるのかと言えば、ここは嘘がつけないし、誤魔化しも効かない場所だ。
「何か、私がみんなを裏切るみたいで。一緒に戦ってきたエルザ隊長もラビィもパティも。それが怖くって」
私は心の奥底に蟠っていた悩みを正直に野村大尉に話した。もう、なんか泣きたい気分。
野村大尉はそれを聞いて「はぁ〜」と盛大なため息をついた。ヤレヤレとばかりに頭を振りながら。
「そんなこったろうと思ったぜ。お前さんに一つ訊いていいかい?」
「はい」
「そのお前さんの戦友達は、お前さんにとってどんな存在だ?」
エルザ隊長、ラビィ、パティ。私にとって彼女達は、
「大事な仲間であり戦友です。エルザ隊長は尊敬してるし、ラビィもパティも信頼してる。背中を預けられるし、預けて欲しい。そんな存在です」
「お前さん、得体の知れない試作機に乗ってまで仲間を助けに行ったな?ろくすっぽ試験飛行もしてない機体で。途中で機体に不具合でも出たら、戦場なんだ、忽ち死に直結だ。恐くはなかったかい?」
先の戦闘ではあのまま何もしなかったら航空隊は全滅してた。それどころか、艦隊も船団も。だから私はXFA-v3に乗った。
「みんなを救ける事しか考えてませんでした。自分が死んでもみんながそれで救かるのなら、それはそれで構わないって」
「ならお前さんが、そんな思いまでして救けた仲間達が、お前さんが父上の敵討ちのために転属したいと言ったからって、お前さんを裏切り者呼ばわりするかい?」
エルザ隊長、ラビィにパティ、みんなの顔が目に浮かぶ。みんな素敵に微笑んでいて。
「多分、そんな事は言わないんじゃないかと」
「お前さんがそんな事で悩んでいるのを知ったら、むしろ自分達を信頼していないのかとみんな悲しむんじゃないか?」
そうだ。エルザ隊長もラビィもパティも、絶対そんな事は言わない。私が異動になっても、きっと寂しく思ってくれても、裏切り者と罵るような人達じゃない。お互い知り合ってそれほど長い時間一緒じゃないけど、長さよりも濃い時間を共に過ごして来たから。
「大尉、私、この話が決まるにしろ、そうじゃないにせよ、みんなに正直に打ち明けます。きっとわかってくれると思います」
「ああ、それがいい。俺の見たところお前さんの戦友達はなかなかいい娘達だからな。わかってくれると思うぜ?」
「はい」
その後、野村大尉は今回入れてくれたコーヒーの蘊蓄を語り出し、私はそれを聞きながらコーヒーを飲んでいるにもかかわらず、ぐっすりと眠ってしまっていた。
艦内時間は午前6時となり、艦内放送の起床ラッパで私は目が覚めた。予定では、この日、試験艦ペガッスは試験航海を終えてコロニータロスチャーリーに入港する事になっている。そして、私のレンタルテストパイロットとしての役目も終わり、みんなが待つ空母太鳳へ戻る事となっている。
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それでは次話「告白」をお楽しみに。
我は放つ、光の白刃!




