第90話 Xの鼓動②
「手の空いている者は全員集合しろ。これからXFA-V3の出撃準備を行う。XFA-V3は試作機だからエンジン、兵装、通信、索敵、全てを完璧に仕上げろ!絶対に朝倉少尉をこの太鳳に帰すんだ!」
「「「おおー!」」」
「総員、かかれ!」
「「「よし!」」」
熊谷軍曹から報告を受けた整備中隊の今村中隊長がXFA-V3の機体整備と出撃準備の指揮を執ってくれた。技研の技官から指示を受けつつ整備員達が機体整備に取り掛かる。
その間に私は技研の佐伯少佐とベルナルド大尉からXFA-V3の操縦についてのレクチャーを受けた。
佐伯「いいかい?XFA-V3は六式艦戦の発展型だから操縦、操作に関してそう違いは無い。ただ、エンジンの出力がXFA-V3は六式の2倍になっているから、そこだけは気を付けてくれ」
ベルナルド「兵装に関しては対空、対艦ミサイルは六式の2倍積載している。六式との決定的な違いは、機体上部に搭載された2門の陽電子ビーム砲だ。これはエンジン出力が2倍に上がった事で射程距離は短いものの、巡洋艦の主砲並の威力があり、云々…」
難しい。一気に二人がかりで言われても頭に入らない。これ、一人で操縦出来るのだろうか?なんか不安になってきた。そんな私の内心が表情に出たのか、佐伯少佐がベルナルド大尉の説明をタイミング良く引き継いでくれた。
佐伯「一度に色々言われても大変だと思うけど、大破した朝倉少尉の六式のAIを移してあるから大丈夫だと思う」
ビクトルと一緒なら心強い。だけど、だったら先にそれを言ってよ!って感じだ。
ベルナルド「そもそもXFA-V3の設計思想は、六式艦戦の後継機が開発されるまでの間、六式艦戦の弱点をカバーし、且つ、火力支援を行うもので、更に少数で機動戦闘による空間制圧、確保した空間拠点の防御が出来るのが特色であり、云々(暫く説明が続く)」
私「…」
初めて見るXFA-V3。やっぱり六式艦戦よりも一回り大きく、それでいてずんぐりとした印象は受けないシャープな機体だ。機体後部には上下左右の4箇所に一つずつあるミサイルポッド。機体を正面から見るとアルファベットの"X"のように見えないこともない。だから米国系の技術者達からは"Xウィング"と呼ばれているそうだ。それに対して日系の技術者達はXFA-V3の"V3"(バージョンスリーの意味)から誰が言い出したのか"ブイスリー"と呼ばれているとか。
私は整備中隊の整備員の皆さんが一生懸命頑張ってくれたお陰であっという間に出撃準備が整ったXFA-V3のコックピットに乗った。なるほど、コックピット内のレイアウトは確かに六式に似ている。
するとそこへ佐伯少佐がやって来て、コックピットの縁をノックして顔を覗かせた。まあ、嫌味って程じゃないけど、ちょっと気障な仕草だと思った。
「少佐、まだ何かありますか?」
佐伯少佐は私にそう尋ねられると、微苦笑して言い訳するように話し始める。
「朝倉少尉には申し訳無く思っている。いきなり試作機で実戦に出てくれなんて無茶で無謀な事は僕も十分承知しているんだ。だけど誓って実戦で試作機の試験をしようなんて思っちゃいない。それに、このXFA-V3は僕達が精魂込めて開発した機体だ。だから少尉もこいつを信じてやって欲しい。必ず君の期待に応えるはずだ」
そう語る佐伯少佐の表情は真剣で、技術者、開発者としての矜持、そしてXFA-V3への深い愛情が感じられた。本当は佐伯少佐もベルナルド大尉もXFA-V3を実戦には出したくなかったのだろう。
そして、そんな機体を任されたのならば、技術者達の意気に応えるのがパイロットの意地であり、誇りってもんじゃない?
「わかりました。少佐の自信作なんですね?だったら私もこの子を信じます」
私が少し微笑みながらそう応えると、佐伯少佐は少し顔を赤らめて私から視線を逸らした。
「その、なんだ。少尉は笑うと実に、その、可愛いな」
「?」
「そっ、そうだな。うん、じゃあ武運を祈る。必ず帰ってくれ」
そう言うと佐伯少佐はあたふたと機体から離れて行ったので、私はコックピットのキャノピーを閉じる。
一瞬の暗闇の後、全方位モニターが機体周囲の光景を映し出した。機体のセルフチェックも異常無し。整備中隊の皆さんは僅かな時間で完璧に機体を仕上げてくれていた。
「お前さんも案外に天然だな?しかし、こんな時に女口説くとは、あの技術屋も何考えているのやら」
呆れたような野村大尉の声が不意に聞こえてきた。
「だが、あの技術屋の言った事にも一理ある。機体を信頼する事は実に大事だからな。そこでこの危機的状況を打開すべく、俺からお前さんに一つ加護を与えよう」
「加護、ですか?」
「そうだ。これは俺の生前に持っていた能力だった訳だが、何というかな、パイロットと機体が一心同体になれるってもんだ」
パイロットと機体が一心同体になれるって、一つの理想的な形だ。パイロットはみんなそれを目指して訓練してる訳だから。
「まあ、論より証拠だ。出撃までもう時間が無え。お前さん、目を閉じな」
私は野村大尉に言われた通りに両眼を閉じて俯いた。すると、私の額に温かな手の温もりが押し当てられる。
「これで良し。この機体を信じて、こいつの声を良く聞くんだぞ?」
野村大尉が話し終えると、途端に自分の感覚が研ぎ澄まされてXFA-V3の機体全体に広がり、そして行き渡って行く。
(わかる。今なら私はこの子の全てがわかる)
それは文字通り、自分と機体が一体になった感覚だ。
「よし、行って来い。赤毛の隊長さん達がまってるぜ」
「はい!」
私は野村大尉に加護に勇気を与えられ、出撃準備完了の報告を管制官に伝える。
「レッドライオン3からラッキードラゴンリーダー。XFA-V3、朝倉咲耶、発進準備よし!」
「こちらラッキードラゴンリーダー。レッドライオン3、XFA-V3発艦せよ!咲耶、頑張って」
「了解」
私が乗る新型戦闘攻撃機(試作機)XFA-V3は、空母太鳳の第一航空甲板の電磁カタパルトから射出され、私は再び戦場へと舞い戻った。
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それでは、次話「Xの鼓動③」にご期待ください。
勝利の法則は決まった!




