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第89話 Xの鼓動①

「朝倉少尉、申し訳ありませんが、この機体の修理は現場じゃあ無理です。寧ろ修理するよりも分解して使用可能な部品を予備として再利用したいレベルです」


「そうですか、済みません」


「いえ、そういう意味じゃないんです。寧ろ私はこの()を誉めてやりたいんですよ。こんなになるまで良く頑張ったなってね」


恐縮して謝る私に、くまさんは慌ててそう弁解した。


あの戦闘の後、太鳳にどうにか帰艦出来た私は、すぐに整備小隊のくまさんこと熊谷軍曹に応急修理を依頼した。だけど機体を一瞥したくまさんから帰ってきた言葉が先程のものだった。


第309護衛艦隊は今も輸送船団を護る戦いを続いている。一パイロットである私に戦況はわからないけど、苦戦している事くらいはわかる。そして、木星駐留艦隊の来援はまだ来ていない。


今回のアムロイ軍の攻撃は明らかに今までと違っていた。敵は戦力を増強させ、その豊富な戦力を出し惜しみせず、執拗に、まるで自隊が全滅してでもこちらの輸送船を沈めようとしているように私には感じられた。そして、彼等の攻撃には恐れや躊躇というものが一切感じられず、心の無い機械とたたかっているようにも。


「くまさん、それじゃあ予備機は有りませんか?」


空母太鳳の航空機格納庫には5機の予備機が積載されているはず。その内の1機を貸してくれたら、私はまだ戦える。今も戦場で戦っている仲間のため、戦死した仲間のため、そして輸送船団を護るため、私は戦い続けなくてはならないから。


「朝倉少尉、残念ながら本艦の予備機は既に全機出撃中です」


くまさんは申し訳なさそうに、そう私に告げた。


「そう、ですか」


空母太鳳の航空戦力は度重なる戦闘で消耗し切っているのが現状。あまり我儘を言って現場を困らせる訳にもいかないか。


乗機は大破し、予備機も無いとなればパイロットの私にはもう戦う術は無い。


私はこみ上げる悔しさで叫び出したい衝動に駆られた。だけど、それは私の自己満足に過ぎないし、それをやれば周りから小娘のヒステリーと思わされるのがオチだろう。無力なこの身を恨めしく思う。


と、そこへ30歳くらいの男性士官が2人、私と熊谷軍曹の元へと歩み寄って来た。私の記憶には無いから太鳳の乗組員ではないのかもしれない。


「朝倉少尉は君かな?」


「はい、そうですが?」


2人の内の1人の士官が私に話しかけてきた。その2人の士官は1人が黒髪の理知的な細面でおそらく日系人。もう1人は金髪の白人で、同じく理知的な顔をしている。2人とも軍人というよりは、どちらかというと、


「私達は国防技術研究所の技術将校なんだ。私が佐伯少佐で、こっちがベルナルド大尉だ。よろしく」


そう、軍人というよりは科学者か技術者という印象だったのだけど、どうやらビンゴだったようだ。


「私に何かご用でしょうか?」


私はこの状況が上手く飲み込めないでいた。技術将校が私に何の用があるというのだろう?


「あぁ、そう警戒しないで欲しい。私達は君に一つ提案をしに来たんだ」


「?」


佐伯少佐から話を引き継いだベルナルド大尉の説明によればこういう事だった。


現在この空母太鳳には国防技術研究所(略して技研)で開発された新型戦闘攻撃機の試作機が木星圏での試験のため積載されているのだという。

しかし、この戦況のままでは輸送船団の木星圏到達はかなり悲観せざるを得ない。今は少しでも戦力が必要であり、技研としても座して死を待つよりは少しでも生存の可能性を高めるためこの試作機を戦力としてし提供したく、艦長にも意見具申して許可を得ている。

ところが機体は有ってもパイロットがいなかった。そこへ朝倉少尉が乗機が被弾して帰艦した。パイロットに怪我は無く、戦闘記録を見たが少なからぬ戦果を上げているエースだとわかった。ついては君が試作機で出撃してみてはどうだろうか?

勿論、これは命令ではなく我々にそんな命令権も権限も無く、飽くまで我々技研側からの提案であり、君は断っても一向に問題は無い。


「わかりました、やります」


私は一も二もなくこの提案に乗った。今戦えるのなら私は悪魔とだって手を結んでみせる。まあ、実際には悪魔どころか英霊が付いて下さっている訳だけども。


「朝倉少尉、待って下さい。その試作機は初期不良の調整も改善も出来ていないような代物ですよ?実際戦闘中にどんな不具合が出るかわかったもんじゃありません。少尉が仲間のために戦いたい気持ちは十分理解しますが、非常に危険です。考え直して頂けませんか?」


私と共に黙って佐伯少佐達の説明を聞いていた熊谷軍曹は、試作機の危険性をそう指摘する。熊谷軍曹の指摘はパイロットの私にも現場の整備員の意見として実に正論だと思えた。実際に試作機をいきなり実戦に投入するなんて有り得ない。まあ、エリカによると、実際には第二次世界大戦のベルリン攻防戦で試作の自走砲で出撃した開発会社の社長の事例があるそうだけど。


「それに無礼を承知で申し上げます。戦場で試作機の試験を目論んでいるならもってのほかです。止めてください。パイロットの命を何だと思っているのですか!こんな事はすべきじゃない!」


熊谷軍曹は猛然と佐伯少佐達に食ってかかった。


熊谷軍曹に抗議された2人は、いかにも心外だという感じで自らの思いを告げる。自分達は決してパイロットの生命を軽視している訳では無い、まして試作機の試験なんて考えともいない、今は非常事態であると。


私はどちらの意見も正しいのではないかと思う。ならば、後は私がどう考え、どう行動するかだ。


「くまさん、心配してくれる気持ち、とても有難いです。でもこのままじゃ皆死んでしまいます。この戦況を覆せる可能性があるのはその試作機しかないと思うんです。私は命には使い時ってものがあると思っています。私にとってそれは今がそれじゃないかと。みんなの命が掛かっているのに、それをどうにか出来る者がそれをやらないまま死んだら、私もみんなも死んでも死に切れませんよ。私だって何も死に急ごうって訳じゃありません。もう少しで木星駐留艦隊が来ます。それまでのひと頑張りです。私、必ず戻って来ますから」


熊谷軍曹は暫く黙った後、無理して作ったぎこちない笑顔を浮かべると、「無理はせんで下さい。約束ですよ、少尉」と言って私に右拳を突き出した。


「はい、約束です」


私はそう言ってから、くまさんの突き出した右拳に自分の右拳当てた。








いつも『朝倉家の戦争』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。


それでは、次話「Xの鼓動②」にご期待ください。


君は、(とき)の涙を見る


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