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第83話 帰還

「ストーンスロウイング作戦」は大戦果を挙げ、青木大佐は実に上機嫌だと副官の江摩中尉が教えてくれた。私とパティが懸命に伝えた情報が生きて友軍に益した事と、妹が初陣を飾って無事に戻って来た事がとても嬉しい。色々と大変だったけど、終わり良ければ全て良し、かな。


「ストーンスロウイング作戦」の成功により、停止されていたアステロイド宙域での通信及び船舶の運行が漸く再開された。869の司令部がクヌート宙域管制本部に問い合わせてくれたところ、第309護衛艦隊と輸送船団は既に地球圏に向けて出航したとの事だった。


私はパティと二人で呼び出された青木大佐の執務室でそう告げられ、実に暗澹たる気持ちになった。原隊に戻れないとなれば、最悪このままクヌート宙域で別の航空部隊に編入なんで事だって十分あり得る事だから。


そんな事を考えていると、ガビーンという効果音と共に縦線が入りまくりであろう私の顔を見て、青木大佐はニヤリと悪人面を歪ませて笑みを浮かべた。


「そう悲観するんじゃない。先の戦いにおける最大の功労者達に報いなければ我々は忘恩の徒と罵られよう。君達が原隊に復帰出来る手筈はもう付けてある。安心するがいい。」


詳細は話を引き継いだ江摩中尉が話してくれた。


第309護衛艦隊は既にクヌート宙域から地球圏に向けて出航してしまっている。だけど、薩摩だけ若干遠回りして根拠地に戻る事によって第309護衛艦隊に予定針路に接近するらしい。だからそのタイミングで私とパティが薩摩から六式艦戦で発進すればパイロットも機体も同時に空母太鳳に帰艦が叶う、という訳であった。


軍艦が私達を原隊に帰すためだけに、例え若干であっても回り道をして余計な航続距離を延ばすなんて本来なら有り得ない事だ。何しろ軍艦とは金食い虫で、稼働させればその分だけ費用がかかる。だからこれは青木大佐、更には第309護衛艦隊から私達への好意による例外措置なのだ。


私は半ば諦めていた原隊への復帰が叶う嬉しさで思わずパティを見ると、パティも嬉しそうな表情で私を見ていた。とても気の合う私達。


「「大佐、有難う御座います。」」


「うむうむ」


私達はここまでしてくれた青木大佐に謝意を伝えた。思わずハモってしまったのはご愛敬って事で。


青木大佐は機嫌良く満足気に頷いている。最初に江摩中尉が言っていたように、青木大佐は基本優しくていい人なのだ(男性方からは異論が出るかもしれないけど)。ただ、長身で体格も良く、顔が厳つくて眼光鋭くて、精強な部隊を作り上げる事に関しては一切の妥協が無いから恐れられ、あるいは変人と謗られるのだろう。


それからの私達は帰還の準備を急いだ。薩摩と第309護衛艦隊とのランデブーは約二時間後ともうあまり時間的余裕は無かった。愛機ビクトルの調子は良好。


出発の際、妹と妹の上官である三剣大尉、それからお世話になった江摩中尉が見送りに来てくれた。妹とはお互いに焦らないでしっかりお父さんの敵討ちをしようと、そしてまた必ず会おうと約束し合った。


「あっ、そうだ。クヌート宙域のスペースコロニーでお母さんに会ったよ。」


「えっ、そうなの?」


「なんかイケメンの部下達を引き連れてね。」


「うわぁ、なんなイヤラシイね。」


「本当ね。」


妹とのこうした会話もこれで暫くはお預けだ。私は妹の事が心配でしょうがないけど、私達は同じ目的を持ちながらも既に軍人としてそれぞれの道を歩き出している。だから妹も私や母に心配されるような子供ではもうないのだ。先の戦いでは戦車小隊の小隊長として出撃して戦果を挙げているのだから、寧ろ私よりしっかりしているんじゃないかと思ってしまう。妹にしてみれば、私の心配は杞憂であり、はた迷惑なのかもしれないな。


妹が私の後を付いて回っていた頃を思い出す。しっかり者だと思ってみても、やっぱり心配になってしまったので、私は妹の上官である三剣大尉に妹の事をくれぐれも宜しくお願いしますと頼み込んだ。


「大事な部下ですからね。妹さんの事はお任せください。」


三剣大尉はやたら二枚目な顔でそう言うと、実に絵になるような素敵な笑顔で約束してくれた。江摩中尉はそんな三剣大尉をチラ見しては下を向いて顔を赤くしていた。実にわかりやすい人だと思う。


それにしても三剣大尉は格好いいイケメンだ。妹が三剣大尉を好きになってしまい、江摩中尉や他の女性隊員達と修羅場を演じないかと今度は別の心配事を抱いてしまう程だ。心配事の種とは尽きない物だと思う。


「ねえ、サク、妹さん困ってるよ。もうやめてあげたら?それにもう時間だからね?」


パティの声が私を現実に戻す。パティはハァヤレヤレといった呆れ顔で私を見ていた。


「六式艦戦の搭乗員は発艦準備にかかれ!」


そんなタイミングで格納庫内に航空管制官の拡声が響く。


「じゃあ、行こっかパティ?」

「よしきた。」


私とパティはお互いに帰艦の決意を込めてそう頷き合う。


「皆さん、助けて頂き、お世話になり、有難う御座いました。どうかご武運を!」

「ご武運を!」


いつの間にか私達の周囲には妹達だけではなく、六式艦戦の整備をしてくれた整備小隊員や陸戦隊員など多くの人達が集まっていた。私とパティは感謝の意を込めて出発に際して第869特殊任務群の武運長久を言祝いだ。


「あんたらもしっかりな」


「お前らも負けんじゃねえぞ」


「エースを狙え」


「今度会ったらデートしようぜ」


「妹ちゃんは貰った」


思わぬ励ましに少し瞳に心の汗が滲みそうになった。最後の方に不穏な声が聞こえたので引っ込んでしまったけど。


最後に二人でペコリと頭を下げ、大きく手を振って(妹の七海に)、私達はそれぞれの愛機に飛び乗った。



ビクトルのコックピットに乗り座席に座ると、キャノピーが閉じられ、全方位モニターが稼働すると周囲の映像と機体情報の数値が映し出された。


『マスター、セルフチェック完了。当機に異常有りません。発進準備完了です。』


「有難う、ビクトル。それじゃあ懐かしの我が家へ帰るとしましょうか?」


『了解しました、マスター』


電磁カタパルトの信号が赤から青に変わり、管制官から発進許可が出る。カタパルト上の機体が一気に加速して射出された。次の瞬間には艦外、宇宙空間を飛行している。


パティの機体も続いて射出されると私達はすかさず編隊を組み、第309護衛艦隊が航行している方向へと加速した。強襲揚陸艦薩摩は既に彼方後方となり、漆黒に小さく点滅する発光点となっていた。


『マスター、空母太鳳のガイドビーコンを受信しました。』


「了解。こちら第309護衛艦隊第1戦闘航空大隊所属朝倉咲耶少尉とパティ・マツモト少尉、空母太鳳への着艦を許可願います。」


「こちら太鳳管制、両機の着艦を許可する。二人ともお帰りなさい!」


「「ただいま!」」


太鳳の管制官は馴染みのお姉さん、早勢大尉だった。早勢大尉の声は、私にはまるで太鳳が私達にお帰りと言ったように感じた。進行方向には発光シグナルを点滅させる太鳳の艦影が見える。その姿がとても懐かしく思える。


飛行甲板には私達を迎えるように誘導灯が灯る。私は機体を減速させてガイドビーコンに導かれるまま着艦し、遂に私とパティは帰艦を果たした。




いつも『朝倉家の戦争』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。


次回「地球圏へ」にご期待下さい。

戦雲が咲耶を呼ぶ!

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