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第78話 強襲揚陸艦薩摩

宇宙空間で遭難した場合、地球や火星と違って酸素も水も食糧も有限だ。現地調達のサバイバルなどは到底出来ない。飽くまで今有る手持ちの酸素、水、食糧、そして電源で生き延びなければならない。そして、それらが尽きる前に救助されなければ、その先には死が待ち受けているのだ。


地球連邦軍では乗機が故障したり、事故を起こしたり、攻撃されたりして損傷して行動不能となった場合、乗機のAIは救難信号を発しつつ、しかし一定期間経過しても救助されなければパイロットは生命維持のため強制的に冷凍冬眠状態にされる。


今の私達の状況は言ってみればまだ「迷子」になっただけで「遭難」には至っておらず、機体の損傷も無い。まあ、想定外の出来事に遭遇して少々疲れてはいるけど。


という訳で、私達は敵機の追撃を返り討ちにしてパイロットは意気軒昂、機体も健在な状態だ。いつ醒めるとも知れない氷漬けにされる前に出来る事はあるはず。


「ビクトル、現在位置わかった?」


『小惑星群により星座、恒星の位置が感想出来ず正解な位置は不明です。』


「おおよそでいいよ。」


『了解。当機の現在位置はJ9宙域と推定されます。』


また、よりにもよってJ9宙域って、はあ〜


「パティ、ウチのAIによるとここはJ9宙域らしいよ。」

『飽くまで推定ですが。』

「ウチのもそう言ってる。」

『飽くまで推定デス。』


戦闘機のAIがパイロット同士の会話に入って来るのも珍しいけど、パティの機体のAIの口調が外人日本語っぽいのがウケた。


「じゃあさ、例の緊急展開部隊がいるんじゃない?」


パティの言う緊急展開部隊とは、正式には「第869特殊任務群」と言う。外惑星系にて人類の生存圏に対する重大な危機(地球連邦への反乱行為、テロなどの犯罪、異星人からの侵略、大規模自然災害等)が発生した場合、真っ先に現地へ出撃して展開し、危機に対処して解決、またはより大規模な戦力が到着するまで現状維持する事を任務とした精鋭部隊だ。その任務の特殊性からその戦力規模、装備、根拠地は秘匿されている部分が多い。


また、この部隊は任務として艦艇、船舶、宇宙基地、スペースコロニーでの反乱やテロ行為を制圧するため、その対象物へ麾下の艦艇を強制接舷してコマンドなどの陸戦隊を送り込む事から、連邦軍の他の部隊からは畏怖を込めて「海賊部隊」とも呼ばれている。


そして、その海賊部隊の異名と秘匿されて謎に満ちた実態は人々の想像力を掻き立て、様々な噂を呼んでいた。曰く「部隊員は各分野選りすぐりのエリートである」はいい方。他には「陸戦隊は改造人間だ」「いや、強化人間だ」「実は連邦軍中の鼻つまみ者を集めた愚連隊だ」等々様々。


まあ、海賊だろうが何だろうが、太鳳に生きて帰るためならこの際利用出来る物は何でも利用させて頂きましょう。あまり時間も無い事だしね。


「その部隊に助けて貰うのはどうかな?」


流石、我が戦友。パティも同じ事を考えていたみたい。


「じゃあどうにかして海賊さん達と接触しなきゃね。」


よし、次の行動方針は決まった。それなら限られた時間でどんどんやる事をやっていかなきゃね。


「ビクトル、レーダー索敵とこちらの識別信号の発信を並行して実施して。」

『それですと、当機が敵に発見される可能性も高くなりますが?』

「構わないわ。実施して。」

『了解しました。』


私がビクトルにそう命令を出すと、野村大尉の声が聞こえてきた。


「その必要は無いみたいだぜ。噂をすれば何とやらだ。」

「はえ?」


すると、ビクトルがレーダー索敵の結果を報告してきた。


『レーダーに複数の艦艇の反応を認めました。識別信号から友軍艦艇と思われます。続いて当機に通信が入っています。』

「うん。流して。」

『了解しました。』


確かにレーダーには戦艦クラスの大型艦が二隻と六隻の小型艦の反応が上がっている。


「…こちらは地球連邦軍第869特殊任務群旗艦、強襲揚陸艦薩摩。当宙域を飛行する友軍戦闘機に告ぐ。直ちに飛行を停止せよ。本警告に従わざれば敵対行為とみなし攻撃す。繰り返す、こちらは…」


拙い。お目当ての部隊に発見されたはいいけど、すぐに暖かく迎えてくれる程甘くはなかったみたいだ。


「パティ、聞こえた?飛行停止しよう。」

「了解。」


「こちら地球連邦軍宇宙艦隊護衛総隊第309護衛艦隊空母太鳳航空隊所属、朝倉咲耶少尉及びパティ・マツモト少尉です。隣接宙域にて訓練中に遭遇したアムロイ艦隊の攻撃を受けて退避中。救助願います。」


私が薩摩に救助要請すると、少し間を置いて救助要請の了解と艦内への収容指示が伝えられた。そして小惑星群の向こうから今まで見た事の無い威圧感のある戦艦クラスの大型艦が姿を現し、こちらへと接近して来た。


「うわぁ、でっかい!」


不意にパティの驚嘆の声が響いた。









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