第67話 ようやく、いざ出航
漆黒の月の裏側、モスクワ海基地から出航した第309護衛艦隊。途中に訓練を行いつつトロヤ群へ向かう輸送船団と月軌道上で合流した。艦隊はこの頃には訓練の甲斐あって目的に応じた艦隊運動が十分に出来るようになっていた。空母太鳳航空隊の私達も哨戒や索敵等の任務のため、小隊毎にローテーションを組んで出撃していた。
そのような中、船団が火星軌道を過ぎた辺りで、先行していた輸送船団がアムロイ軍の襲撃を受けて連絡を絶ったという情報が入った。
火星を取り戻したといっても、既に地球圏を遠く離れたこの宙域は、いつ敵襲があってもおかしくない宙域となっていた。そして、遂に先行するピケットの駆逐艦が船団の進行方向上に多数の未確認物体を発見したのだ。
第309護衛艦隊の艦隊司令部は航空隊に索敵のため出撃を命じた。下命により当番であった私達レッドライオン小隊が出撃し、該当未確認物体が護衛艦隊を含む連絡を絶った輸送船団である事を確認した。
私は初めて目の当たりにした生々しい戦闘の跡、そして激しい死と破壊の気配に絶句した。
その宙域からは多数の救難信号が発信されていたため、レッドライオン小隊は現場宙域に留まり、護衛艦隊から発進した救助隊の護衛任務に当たった。
太鳳に帰艦した私は、自機を格納庫で整備小隊に預け(その際丁寧に頼んだのは言うまでもない)、搭乗員室へ向かった。因みにエルザ隊長は出撃報告のため大隊長の元へ。
私、ラビィ、パティの三人は搭乗員室でエルザ隊長を待った。
「飲み物、何がいい?」
ラビィが飲み物を用意してくれるらしい。
「ありがとう、じゃあ私、オレンジジュースで。」
やっぱり、こういう時は強烈な甘いものが欲しくなる。
「私はアイスミルクティーでお願い。」とはパティだ。
ラビィが後から来るであろうエルザ隊長の分も含めて四人分の飲み物をトレイに乗せて席へ持って来てくれた。ラビィの、このお姉さん感はどこから来るのだろうか。美人でナイスバディの優しいお姉さんとか、世の男性諸氏は放っておかないでしょう。
私はありがとうと言って、早速オレンジジュースに口をつけた。程良く冷えて甘さと柑橘系の酸味が出撃で疲れた体に心地よく染み渡る。
ふと見ると、ラビィもパティも無言で飲み物を啜っている。
「「「はぁ」」」
一頻り水分と糖分の補給が終わると、三人同時にため息が出た。出撃の高揚感は私には既に無く、きっとラビィとパティもそうだろう。私達三人は、初めて遭遇した戦争の現実に意気消沈してしまっていたのだ。
すると、そこに報告に行っていたエルザ隊長がやって来た。
「待たせてごめん。」
「お疲れ様です。」
私が日本人らしくそう労うと、私達三人の雰囲気に気付いたエルザ隊長はラビィに尋ねる。
「みんなどうしたんだ?ラビィ、何かあったのか?」
「いえ、何があったという訳ではないのですが、」
「?ですが、どうした?」
「何と言いますか、」
エルザ隊長からご指名を受けたラビィだったけど、考えがまとまっていなかったのか、はっきりと答えられない。
「パティ、どうしたんだ?」
「はい。まあ、私達は今日初めて戦場に臨んだ訳でして、そこで友軍の犠牲を目にした訳でして、そのぅ、」
「恐くなった、か?」
「そっ、そうではありません。そうではありませんが、」
エルザ隊長に恐くなったのかと言われて、少しムキになってパティは否定した。パティは座ったまま両の拳を膝の上で握りしめ、下を向いて黙ってしまった。なので、その後は私が引き継ぐ流れ。
「エルザ隊長、別に私達は恐くなった訳ではないんです。友軍の犠牲に気分が沈んでいるだけです。」
「ああ、そういう事か。」
エルザ隊長は席についてアイスミルクティーを一口飲むと、徐に口を開いた。
「まあ、みんなの気持ちもわかるよ。私だって今までの戦闘で戦友を失ったり、味方の犠牲も目にしてきたからね。」
私達は顔を上げてエルザ隊長を見ながら次の言葉を待つ。
「私だって軍人としてそんなに実戦経験がある訳じゃない。隊長にだって初めてなったのだからな。だからあまり偉そうな事は言えないけど、こうした事は軍人を志した以上は、しかも戦時に軍人になった以上は誰しも避けては通れない道だと思う。味方の犠牲に慣れろ、とは言わない。慣れたらそれはそれで良い事ではないからね。私が言えるのは、気持ちを切り替えるしかない、という事だけだ。」
エルザ隊長はもう一口アイスミルクティーを啜ると、更に話を続けた。
「だけど、人である以上、色々な感情があるんだ。みんなは否定したけど、"恐い"というのも当然その一つで誰もが持っている。恐いと思う事は決して恥ずかしい事ではないよ。これからはこうして、どんな事でも四人で話そう。話すだけでも気分は変わるし、同じ気持ちを共有して互いを理解する事は大切だからね。」
「「「はい。」」」
エルザ隊長の語り口は優しく、私達を思い遣るその言葉に、私は沈んだ心が少しだけ暖かくなった気がした。
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