第63話 愛機ビクトル①
エルザ隊長に案内されて、私達は太鳳の艦載機格納庫へ向かった。戦闘航空第1大隊は左舷にある第1格納庫となる。
艦内の通路上では私と同様に着任したばかりの艦内に不案内そうな乗組員が散見された。また、そこかしこでベテラン下士官に怒鳴られながら、若い水兵達が受持パート毎に部分訓練を行なっている。誰もが、この生まれたばかりの第309護衛艦隊に命を吹き込むべく必死の様子だ。
私とエルザ隊長は第1格納庫に着くと、入庫者用のヘルメットを被り庫内へ入った。格納庫内では整備小隊が機体に取り付いて無心に整備を行なっている。艦隊は出撃していなくとも、格納庫内は既に戦場のようだ。
暫く庫内を進むと、エルザ隊長が男性下士官に声をかけた。恐らく、私達の小隊の機体整備を担当する整備小隊の方なのだろう。その下士官の年齢は30代前半といったところ。熊のような体躯で、まくった整備服の袖からはモジャモジャの二の腕が覗き、本物の熊のようだ。
「サクヤ、紹介しよう。彼が私の小隊の機体整備を担当する分隊長の熊谷軍曹だ。」
「朝倉咲耶少尉です。若輩者ですがこれから宜しくお願いします。」
私はエルザ隊長から紹介を受け、気を付けの姿勢で熊谷軍曹に挨拶した。私の方が階級が上だけど、年上のベテラン軍曹には敬意を払わって払い過ぎる事は無い。ましてや自分達の命を預ける機体を整備してくれる訳だから。
「いやぁ、これはご丁寧に痛み入ります。熊谷士郎軍曹です。この子たちの事なら何なりともおっしゃって下さい。少尉のいいように合わせますんで。」
熊谷軍曹はそう言うと、徐に右手の手袋を外し、手掌をゴシゴシと整備服の腰の辺りで拭いてから差し出した。
「それじゃあ、お言葉に甘えて頼りにしますね。」
私は差し出された熊谷軍曹の右手を握りながら、手汗をお尻でぬぐった事には触れないでおこうと思った。
熊谷軍曹は「それじゃあ私は作業があるもので」と言って整備作業に戻って行った。
「隊長、態々有難う御座いました。」
「ハハハ、見た目だけなら海兵隊も真っ青だろ?でも機体整備の腕はピカイチなんだ。何でも詳しいし、熱心だし、面倒見もいい。我が隊は当たりだな。」
「そうですね。」
さて、次はいよいよ私の乗機となる機体とご対面だ。
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