第61話 宇宙空母太鳳
転属先に向かうのには軍用機を利用する。私はスーツケース一つに収まってしまうあまり多くもない私物と辞令を持ち、原隊があるフンボルト海基地から軍用の連絡機に乗り、月の裏側にあるモスクワ海基地を目指した。そこには私がこれから所属する事となる第309護衛艦隊が錨を降しているはずだから。
第309護衛艦隊は、輸送船団の護衛を主任務として新設された艦隊だ。巡洋艦日進を旗艦とし、6隻の駆逐艦、そして私が乗組む護衛空母太鳳からなる小規模な艦隊だ。
こうした護衛艦隊編成は開戦当初の護衛戦での苦い経験が反映されているかららしい。というのも、アムロイ艦隊が通商破壊戦を始めた当初、地球連邦軍は木星などの資源地帯から大規模な輸送船団と護衛艦隊を編成したんだそう。だけど、輸送船団が大規模に成れば成る程、あちこち隙が出来て攻撃側が有利になるもの。その結果、アムロイ艦隊の奇襲に護衛艦隊は振り回され、輸送船団と護衛艦隊共に大損害が出てしまったのだという。その経験から輸送船団は寧ろ小規模にして、その船団を十分カバー出来る護衛艦隊を編成しましょう、という事となったそう。
月の裏側、モスクワ海の宇宙艦隊基地に到着した私は、その足で護衛艦隊司令部に向かい、着任の報告を行なった。司令部からの指示で、更に私はそのまま自身が乗組む空母太鳳へ。
司令部から無人の小型車に乗り、広大な基地内を進むと彼方此方に照明装置に照らし出された基地施設や接舷している大小の艦艇が見える。モスクワ海基地は月の裏側なので照明がなければ真っ暗だ。
やがて前方に照明に照らされた巨大な艦体が迫って来た。宇宙空母太鳳、私が乗組む艦だ。
戦時に量産するため、艦体の構造は簡易化された護衛空母。全長360m、艦体の左右に全通式飛行甲板を装備、2個戦闘航空大隊を運用して艦載機を80機積載する。以前に訓練で乗り組んだ空母イカロスは艦齢が古いとはいえ、かつては正規空母だった。戦時簡易構造の護衛空母太鳳、果たしてその乗り心地はいかがだろうか。
私が乗る小型車は空母太鳳が接舷しているドッグに至り、入口の車寄せで停車した。
(はぁ〜、やっと着いたか)
小型車から降り立つと、私はスーツケースを引っ張ってドッグの正面入口に向かった。入口は完全武装した2名の海兵隊員が警備している。私が入口のゲートに近づくやビシッと敬礼し、白人の新兵と思しき二等兵から丁寧ではあるけれど、ややぎこちない誰何を受けた。
「失礼します少尉殿。此方にはどのような御用向きでしょうか?」
「朝倉咲耶少尉です。空母太鳳の航空隊員として乗艦を命ぜられ赴任しました。」
私は答礼し、IDカードをもう一人の海兵隊員に手渡すと、IDカードの顔写真と私の顔をしかめっ面で交互に見比べ、次いでインターフォンで問い合わせる。
職務に忠実なのはいい事だけど、もう少し愛想良くしてもバチは当たらないだろうに、などと内心思っているうちに照合は終わったようで、IDカードが返される。
「朝倉少尉、確認終わりましたのでお返しします。このままお進み下さい。」
「わかりました、有難う。お勤めご苦労様です。」
私がIDカードを受け取りながら笑顔と共に労うと、その海兵隊員は少し照れたように
「いえ、どういたしまして!」
と言ってはにかんだような笑顔をみせた。何だ、やれば出来るじゃない。
その後、携帯端末の案内に従ってドッグ内を進み、遂に空母太鳳の艦内に入る。連絡が行っていたのか若い黒人男性の伍長が艦橋まで案内してくれた。まだペンキの臭いも新しい新造艦である空母太鳳、その艦内は実に慌しい雰囲気だ。案内してくれているホワイト伍長によると、予定通りに乗組員が集まっていないのだそうで、今いる乗組員はオーバーワーク気味なんだそう。
遂に艦橋に到着。副長から申告の手順を説明されて艦長室入室。副長の号令で申告が始まる。
「気をつけ!艦長に敬礼!」
「申告します。朝倉咲耶少尉は第309護衛艦隊空母太鳳航空隊員勤務を命じられました。」
そのまま艦長の手短な訓示を受けて申告は終わった。
艦長室を退室すると、搭乗員室に向かいながら航空参謀と第1戦闘航空大隊の大隊長に挨拶。
「大隊長の松崎少佐だ。朝倉少尉の着任を歓迎する。考課表を見させて貰ったが優秀なようで大変結構だ。期待しているぞ。」
松崎大尉は日系人の割には異様に色黒で、オールバックにしている。少しハスキーな渋く通る声だ。
「これからの予定は朝倉少尉の直属の上司となる小隊長のヘンダーソン中尉に尋ねて欲しい。」
「はい。」
搭乗員室に入ると、閑散としている室内に一人の若い女性士官が立っていた。スラリとしていて、室内用戦闘服を着ていてもわかるグラマラスボディ。ベリーショートの赤毛をオールバックにしたボーイッシュな美人さんだ。
「朝倉少尉、紹介するよ。彼女が君の小隊長となるエルザ・ヘンダーソン中尉だ。」
ヘンダーソン中尉は私に歩み寄ると右手を差し出した。
「エルザ・ヘンダーソン中尉だ。よろしく、朝倉少尉。」
私は彼女から差し出された右手を握りながら内心、
(宝塚か!)
と突っ込みを入れた。
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