第55話 和解
卒業式を終え、講堂から出た私達は、再集合までの短い時間をクラス毎に集まり、校庭で式の余韻に浸りながら過ごしていた。
「遂に卒業か、こうして5人でいられるのも暫くないね。」
史恵がそうしんみりと呟く。
「まあ、私と咲とエリカは配属先が同じだから、また暫く一緒だけどね。」
「いいなぁ、私なんか一人で今どこにいるのかもわからない空母に行かなくちゃいけないんだよ?何か不安だよ。」
史恵は真樹のやや自慢げな返しにそう嘆いたけど、そこはひとみも同じ。史恵は空母龍騎に、ひとみは空母赤城にそれぞれ配属される。
基地が根拠地の部隊と違って、艦艇の場合は母港に戻っていない限りは航海中であり、ましてや、今は戦時中だから軍艦の位置情報は軍事機密として秘匿される。だから、史恵が言ったように作戦中の艦艇に配属となった場合は、実際に乗艦するまでに待機が長かったり、戦時なので乗艦前に撃沈されていたりなんて事だってあったりする訳である。
私達がそのように話していると、一人の男子候補生が歩み寄って来ていた。私はひとみと空母赤城について話が盛り上がっていたところだったので、不意に名前を呼ばれ、えっ?という感じで振り向いた。するとそこには同じクラスの木村がバツの悪そうな顔をして立っていた。
(また面倒臭い奴が来たな。今度は何だろう)
同じ班のみんなも木村に気付いて、私を守るような感じで左右に立ってくれる。
「何?」
まだ用件も何も聞いていないのに、やや剣呑でぶっきら棒な物言いになってしまったのは悪かったかなと少しだけ思った。
木村は私と班のみんなが醸し出す雰囲気に少し傷付いたような表情になったものの、こほんっ、と一つ咳払いをすると、用件を切り出した。
「いや、その、在学中は君には大変不快な思いをさせて迷惑をかけた。俺はあの時はどうかしていた。大変申し訳なかった。」
木村はそう言うや私に深々と頭を下げた。私は彼の用件にちょっと構えていたのだけど、木村君(うん、その謝罪に免じて"君"付けにしてあげよう)の真摯な姿勢に、内心自らを恥じつつも彼の謝罪を受け入れた。
「もういいよ。終わった事だから。大事な人を亡くしたなら誰だってどうかしない訳ないんだから。」
「…そう言ってくれると助かる。」
木村君は少しはにかんだ笑みを浮かべ、顔の作りは結構いいんだな、などと思ったりして。
「じゃあ、これで本当の和解って事で。」
私はそう言ってから木村君に右手を差し出した。勿論、握手って意味で。
「おっ、おう。」
木村君がおずおずと私の右手を握り、私と木村君はどちらからともなく微笑み合った。
「じゃあ、元気でね。」
「ああ、君もな。」
すると、いつの間にか木村君の後ろに彼の班員達が来ていた。
「良かったな、班長。」
「やったな、班長。」
「イェーイ、班長。」
「でかした、班長。」
彼等は口々に木村君を囃し立て、揉みくちゃにされ、「やめろよ」とか言いながらも満更でもない感じだった。
私は彼等のその様にやや引いてしまったのだけど、ひとみが彼等を一喝!
「あなた達、"良かったな"じゃなくて、ウチの班長に何か言うべき事があるんじゃないの?」
ひとみに一喝された木村君の班員達は、ビクッと身体を震わせるや、私の方に恐る恐る向きを変え、
「「「「大変申し訳ありませんでした!」」」」
と一斉に頭を下げた。
私はというと、もう面倒事はゴメンだったのと、彼等のその様子がおかしかったのもあり、にっこり笑い、こう言って終わりにした。
「うん。みんなも頑張ってね。」
再集合の時間が迫って来た。この後、私達は再集合して横須賀市内のホテルで開催される卒業ダンスパーティに参加するのだ。
「ああ、そうだ。言い忘れていた事があったんだ。」
「?」
班毎に集まりだした中、木村君が再び私に話し掛けてきた。もう立ち話している時間も無いので手短に願おう。
「何?どんな事?」
「俺もパイロット志望で、配属先は月第18戦闘航空大隊なんだ。」
「えっ?」
木村君はそう言って、してやったりという顔をして班員達の元へ走って行った。
そうなの?気にもしていなかったから、ちっとも知らなかった。それじゃあ、文字通り背中にも目を付けなきゃダメかな?
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