第53話 幕間 克也と一郎 ④
「そうですか?」
朝倉さんは心外そうだったので、僕は内心慌ててしまった。なので、会話が途切れないよう更に
「少し話しかけ難い雰囲気があったものだから。」
なんて事を言ってしまった。あ〜、僕って奴は、何で傷口に塩を塗るような事を言うんだ。
朝倉さんはショックを受けたような表情になってしまった。
「そうなんですか。そんな事無いと思いたいですけど、まあ、私もいろいろやらかしてますからね。」
「いや、あれはあれで格好良かったですよ。」
そう取り繕うのが精々だった。彼女の心を傷付けてしまったとしたら、本当に申し訳ない。
「見てたんですか?今更ですけど、何か恥ずかしいですね。」
朝倉さんはそう言うと俯いてしまった。
「…」
「…」
僕も何を言っていいのかわからず、お互い俯いた状態となってしまった。
しかし、この膠着状態を打破してくれたのが朝倉さんと待ち合わせていた女子候補生達だった。
「咲ー、お待たせって、えっ?」
「何々?どうしたのかなぁ?」
僕は自分の不用意な言葉で彼女の心を傷付けてしまったかもしれない後ろめたさもあって、そのまま立ち上がると、
「朝倉さん、有益な情報を提供有難う。参考になったよ。訓練お互いに頑張ろう。それじゃ。」
と言って、進路反転180度で現場を急速離脱した。とても後ろを振り返って朝倉さんの顔を見る事は出来なかった。
「かっちゃん、どうだった?」
宿舎に戻ると早速いっちゃんに捕まった。僕はラウンジで朝倉さんに会う事が出来、楽しく会話を交わしたけど、最後に余計な事を言って気不味くなってしまった旨を話した。
「朝倉さんを傷付けちゃったかもしれないよ、いっちゃん。」
「かっちゃん、それって傷付いたとか、気分を害したとかじゃなくて、単に恥ずかしがって照れてたんじゃないの?」
「そうかな?」
「多分だけどね。」
なるほど。僕は士官学校に入学するまでは男兄弟の中で育ち、中学校までは共学だったけど、高校は男子校だった。おまけにずっと剣道部だったから、年齢=彼女無し。なので女の子の気持ちというものが今ひとつわからなかったりする。そう考えると、いっちゃんは大したものだな。
「俺だって大した事ないよ。まあ、俺んちは三人も妹がいて、ずっと共学で女友達もいたから、かっちゃんとはその差かな。」
うん。女心に関してはいっちゃんに一日の長があるという事か。
その後、僕は朝倉さんに避けられるような事は無く、廊下ですれ違ったり、顔を合わせ時などは挨拶したり、ちょっとした話などもするようになった。
そして、そうした会話の中で朝倉さんがパイロットを志望している事を知った。実は僕もパイロット志望なのだ。なので僕は迷う事なく卒業後の配属先に航空隊を希望し、なんと、朝倉さんと同じ月第18戦闘航空大隊への配属が決まったのだ。
遂に僕達は地球連邦軍横須賀士官学校における全課程を修了し、いよいよ卒業式を迎える。幸いな事に、僕が学生隊長を勤める2組から退校者は出なかった。皆が団結し、渾名で呼び合ってとても仲が良いクラスだった。僕もいっちゃんを始めクラスの皆に支えられて学生隊長の職務を全うする事が出来た。クラスの皆にはとても感謝しているんだ。
卒業式では、最後に長い伝統に従い、僕達卒業生は全員で制帽を頭上高く放り投げ、卒業式が行われた講堂を後にした。
卒業式の後は近隣の大学から女子大生を招いての卒業ダンスパーティが開催される。何故、女子大生が招かれるかって?それは士官学校はどうしても男子候補生の方が多いから、ダンスの際に男余りになってしまうからだ。
そして、僕はこれから、この横須賀士官学校における最後にして最大の戦いに挑もうとしている。そう、この卒業ダンスパーティで朝倉咲耶さんをダンスに誘うのだ。
はあ、ドキドキしてきた。ステップよし、臭いよし、手汗よし、準備よし。目標確認、さあ、go for broke で出撃だ。
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