第52話 幕間 克也と一郎 ③
僕はいっちゃんからのせっかくのアドバイスを上手く活かせないまま時は過ぎ、霞ヶ浦での空挺課程が始まった。
空挺課程は訓練施設の都合上、一クラスずつ、1組から始まる。3週間続く訓練課程であり、2組は1組の1週間後の開始だ。という事は、2組は1組と霞ヶ浦での訓練期間が2週間被るという訳になるのだ。うん、内容は兎も角として、なかなか魅力的な訓練だ。
そして僕達2組の訓練が始まって、瞬く間に1週間が経過した。士官学校は基本的に週休二日制で、それは戦時であっても変わらない。土曜日、日曜日は日直班に当たってなければ丸々自由な時間となる。
とはいえ、ここ霞ヶ浦の訓練基地の周りには、わざわざ貴重な自由時間を費やしてでも行きたくなるような観光やレジャー施設は無い。
となると、大半の士官候補生は土日を基地内の宿舎やラウンジなどで過ごす事になる。
とするならば、ラウンジや食堂などで僕と朝倉さんが出会ってしまう事だって十分あり得るかもしれない。
そうであるならば、
「かっちゃん、そう難しく考え込まないで、今からラウンジ行って朝倉さんがいたら話しかけてみればいいじゃん。」
はぁ〜、やれやれといった感じでいっちゃんが呆れたように言った。
「でも用も無いのに、何て話しかければいいんだ?」
「だから、用は自分で作るもんなんだって。何だっていいんだよ。例えば、今なら訓練棟からの降下どうでした?とかさ。」
うん。それならば学生隊長としてクラスのために有益な情報を入手するという用が成り立つな。
「いっちゃん、それ名案だよ。」
「…かっちゃんは優秀で勇敢だけど、そっちの方は全くのへタレだな。」
いっちゃんこと副隊長の佐々木一郎候補生に背中を押された僕は、そのまま宿舎を出てラウンジのある棟へ向かった。時刻は15時のおやつ時。今ならもしかして朝倉さんがいるかもしれない。
さり気なくラウンジの中に入ると、果たしてテーブル席に座っている朝倉さんを見つけてしまった。更には、朝倉さんは一人であった。僕も男だ。いっちゃんの にはへタレだって言われたけど、ここでの撤退は有り得ない、突撃あるのみ。Go for broke だ。
「あの、1組の朝倉さんですよね?」
僕が話しかけると、朝倉さんは読んでいた雑誌をめくる手を止め、「えっ?」という表情で僕を見上げた。その表情がまた実にいい!
「はい、そうですけど?」
朝倉さんは一瞬考える様な表情を浮かべた後、僕にとっては感動的な言葉を続けて言ったのだ。
「えーと、2組と学生隊長の山中さん、ですよね?」
なんて事だ。彼女、僕の事知っていてくれたよ。僕は内心の感動を隠しつつ、早速いっちゃんが考え出してくれた「用件」を切り出した。
「少しお時間よろしいですか?」
「…友人を待っているので、それまでなら。」
「いや、申し訳ない。ありがとう。」
朝倉さんが席を勧めてくれたので、彼女の向かいの席に座らせて貰った。
さて、どう話を切り出そう。と、そう考えていると、彼女の方から用件を尋ねてくれた。
「それで、どういったご用件ですか?」
「ああ、そうですね、えーと、」
あまり間が空くと不審がられてしまいそうなので、思い切って言ってみる。
「えーと、2組は来週から降下塔からの降下訓練に入るのだけど、1組は終わってみてどうでしたか?」
この後はお互い初めて言葉を交わしたので、会話は敬語でややぎこちなかったものの、降下訓練の話に続いて、朝倉さんが落下したダミー人形の顔が自分達の方を向いていて不気味だった話など面白おかしく話してくれ、楽しく会話が続いた。
僕が朝倉さんとの会話で彼女について思ったのは、彼女がとても頭が良くて、洞察力に優れているという事。そして、優しくて、気遣いが出来る女性という事だ。あの決闘で見せた姿は、彼女のほんの一面であり、本来は決闘なんて事をするような女の子ではないのだろう。そう考えると、朝倉さんをそこまで追い込んだ木村が実に許し難く思える。
なので、ふと僕はこんな事を言ってしまった。
「朝倉さんて、話すと面白い人ですね。」
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