第51話 幕間 克也と一郎②
入校から一ヶ月が経過した。残念ながら僕達一年生の間で朝倉候補生に関する噂は悪い方向へヒートアップし、誰か言い出したものか「特待生」なんて渾名まで付いてしまっていた。他のクラスの事だから詳しい事はわからないけど、どうも噂を積極的に広めている黒幕がいるようだった。
そして、遂に事件が起きた。朝倉さんと黒幕(なんと彼女と同じクラスの男子候補生だ)が、課業終了後に格技棟で互いの進退を賭けた決闘をするというのだ。
決闘自体は、褒められた事ではないが、士官候補生同士のいざこざ解決法として、それこそ中世からの伝統があり、ルールを守れば問題は無い。
その話を聞いて僕とたっちゃんは格技棟に駆けつけた。クラスは違っても学生隊長という立場上、想定外の問題発生に備え、一組の学生隊長である北條君を補佐しなければならないと思ったからだ。決して野次馬根性からではない。
僕達が格技棟に駆け付けた時には既に朝倉さんと思しき女子候補生が木村(こいつは呼び捨てで十分)と対峙していて、周りには噂を聞きつけて来た連中が集まっていた。みんな課業終了後だってそれなりに忙しいはずなんだけど。
ここで僕は初めて噂の朝倉さんを見た。そして絶句した。何故って、そりゃもう、とても美しかったから。
その凛とした佇まい。口元を引き締めて、瞳を燃やし、刺すような視線を木村に向ける姿はまさに、
「戦乙女…」
「はあ?カッちゃん、何言っちゃってるのw」
「うっ、うるさいな!いいだろ別に。人の心の声を聞くなよ。」
「いや、しっかり声に出てたよ。」
僕の呟きはしっかりといっちゃんに聞かれていた。恥ずかしい限りだ。でも、この時に僕は彼女、朝倉咲耶さんにすっかり魅力されてしまったのだ。
あの決闘騒動からしばしの時が過ぎ、朝倉さんに関する噂はすっかり影を潜めた。そりゃあ、木村をあっさり倒した空手の実力とエゲツなさ、いや容赦の無さを見せられれば、もう誰も何も言えないってもんだ。
それに朝倉さんは元々高校の成績も優秀だったようで、士官学校も十分合格圏だったそうなのだ。
また、士官学校のカリキュラムが進むにつれ、逆に彼女の優秀さが噂になったりもしていた。
僕は二組の学生隊長をしている訳だけど、朝倉さんの一組とは隣同士という事もあり、何かと行動が一緒なる事が多く、実科訓練などでも朝倉さんを見かける事も多くなった。
僕はいつの間にか、飽くまでクラスの学生隊長としての責務を果たした上でだけど、朝倉さんを目で追うようになっていた。勿論、誰にもバレないようにさり気なく。
「そんなに気になるならさあ、話しかけてみればいいじゃん。」
まあ、いっちゃんにはしっかりバレでいた訳だけど。
「いや、用も無いのに話しかけられないよ。」
この僕のへタレ発言を聞いたいっちゃんは、一瞬呆れたような表情を浮かべたけど、すぐにニヤッと笑い、
「用が無ければ作ればいいんじゃない?」
と言ったものだ。
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