第50話 幕間 克也と一郎①
俺が朝倉咲耶さんを知ったのは、こんな切っ掛けだった。
「なあ、カッちゃん、聞いたかあの噂?」
「いや、いっちゃん。あの噂だけじゃ何の事だかわかんないって。」
カッちゃんとは僕の事だ。僕の名前は山中克也。この4月から地球連邦軍横須賀士官学校に入校した士官候補生だ。一応、一年二組の学生隊長をやらせてもらっている。
僕の事を「カッちゃん」と呼ぶこの男は、二組の副隊長を勤める佐々木一郎。彼は士官学校に入校早々に僕の事を「カッちゃん」と呼び出した。その馴れ馴れしさというか、人懐っこさに最初やや引いていた僕だったが、それが天然なのか彼には嫌味や裏表が無く、自然と受け入れてしまっている自分がいた。
しかし、誤算であったのは、彼が僕をカッちゃんと呼んだため、やはり早々にクラス内での僕の渾名がカッちゃんとして定着してしまった事だった。やられたらやりかえす、がモットーの僕は直ぐに反撃を開始。彼の名前「一郎」から、僕は彼の事を「いっちゃん」と呼ぶ事にしたのだ。
彼はそれを嫌がるでもなく、そのままクラスの学生隊長と副隊長がお互いを渾名で呼び合うようになってしまった。その作用なのだろうか、我が二組では候補生同士で渾名を付け合い、呼び合うようになり、その結果クラスの皆があっという間に打ち解けてしまったのだ。
いっちゃんは副隊長としてクラスの運営の為、こうある事を意図して僕にカッちゃんという渾名をつけたのか、単なる偶然の結果オーライなのか。いっちゃんを見ていると判断に迷うところだ。というのも、士官学校の学生副隊長とは学生隊長を支える役割上、あの意味では隊長よりも優秀でなければならないからだ。
「同期生に、あの"南風"艦長の娘がいるって話だよ。」
"南風"とはアムロイの地球圏襲撃の際、Cー1コロニー防衛戦でコロニーへ体当たりしようとしたアムロイの戦艦を、最終的に体当たり自爆で阻止した駆逐艦だ。自らを犠牲にしてCー1コロニーの住民30万人以上を救った朝倉友雄艦長をはじめとした南風の乗組員は今次大戦における英雄だ。
「その朝倉大佐の娘さんが同期生にいるからって、何かあるの?」
「いや、タイミング的にコネとか軍上層部の関与があったんじゃないか、とか言ってる奴がいるようなんだよ。」
馬鹿馬鹿しい、そんな事がある訳が無い、とは100%言い切れないタイミングではある。自らを犠牲にして多くの国民を救った英雄の遺児、しかも女の子。遺された娘が戦死した父親の意思を継いで士官学校に入校する。確かに国民の戦意を高揚させるにはとても都合が良い美談である。
もし、士官学校入学試験において朝倉大佐の娘さんの試験結果が思わしいものでなければ、軍上層部の関与で彼女の得点に下駄を履かせるくらいはあるかもしれない。そう考える者だっているだろう。人間誰しも聖人君子ではあり得ないのだから。だが、しかし、
「そうであるかもしれないし、そうではないかもしれず、さりとて証明しようもない。それにその噂には悪意を感じるな。ウチのクラスでそんな根も葉もない噂に同調する奴がいたらシメとかないと。」
「いや、俺を見ながら言うのはやめてくんない?一応、副隊長として不穏な噂がある事実を報告してるんだからさ。」
いっちゃんはその噂が士官学校生活にとって重要度が高いと考えたらしい。
「別にいっちゃんがそうだなんて思ってやしないよ。それで、その娘どんなだった?もう見てきたんだろ?」
いっちゃんはそこでニヤッと笑うと、
「いゃぁ、結構美人だったぜ。綺麗可愛いって感じ?」
と、まだ見ぬ朝倉候補生の感想を述べた。
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