第46話 ずっとこのまま
真夏の昼下がりの横浜山下公園。一般社会は夏休みの真っ最中。木陰のベンチに腰掛けアイスクリームを食べる部活帰りの女子高生達。芝の上でボール遊びに興じる子供達に、優しく見守るお母さん。岸壁の手摺ではカモメが翼を休め、空には鳶が獲物を狙って旋回してる。汽笛の音、夕方前の日射し、潮の香りを含んだ海風。それら全てが変わらない、穏やかでありふれた日常の風景だ。
見上げると広い大空。この空の彼方で私達の同胞が異星人と生存を賭けて激しく戦っている事が嘘のように思えてくる。
「ねえ、」
そんな事を考えていると、不意に真樹が話しかけてきた。
「ん〜?」
「あのさぁ、ふと思ったんだけどさぁ、」
「うん。」
「ずっとこのままだったらいいのになぁって。そんな事、思っちゃいけないのかなぁ。」
実は私もそう思っていた。ずっと、この穏やかな時間が続けばいいのにって。
「うん。いいんだよ。思うだけなら自由だもん。」
「そうだよね。思うだけなら自由だもんね。」
私と真樹は同じ風景を見て、同じ事を考えていたみたい。他の仲間は何を考えていたのだろう。
すると史恵が私と真樹の間に入ってきて腕を絡めた。
「私、みんなと出会えて本当に良かったな。」
史恵に私と真樹の会話が聞こえていたみたいだ。
「私、入校した頃はこれで結構身構えていてさ。台湾も日本連合の一国だけど、やっぱり日本とは違うから。親に反発して、気負って横須賀士官学校に入校したはいいけど、日本人の中で私一人でやっていけるのかなって不安だったんだ。でもみんなそんな事気にもしないで仲良くしてくれて。みんなと同じ班になれて本当に良かった。仲間って本当にいいなって思ったんだ。」
私も一人だけスペースコロニー出身で、少し不安だったから、史恵のその気持ちはとても良くわかる。
「私もみんなと出会えて本当に良かったなって思うよ。入校してからいろいろあったけど、このメンバーだから乗り越えられたと思ってる。」
ひとみが「いろいろ」と言いながらチラッと私の方を見たのは偶然か、意図的か。
「私も。でも、なんかこの風景見てたら、私達は別の形で出会っても面白いのかなって思っちゃった。」
「別の形?」
「うん。例えばさ、横浜だから山手女子大の女子大生とかさ?」
またエリカの妄想が始まったわけだけど、平和な時代に女子高生や女子大生の友達として出会い、みんなと過ごすしてみるのも悪くないな、と私も内心エリカの妄想に賛成した。
私もみんなと出会えて本当に良かったと思う。みんな大好きだし、尊敬している。このままこの穏やかな時間の中でずっと一緒にいたい。
でも、現実がそれを許さない。この時間もそろそろ終わりに近づいている。私も果たすべき目的があり、みんなもそれぞれ有る事だろう。だから、この時間を宝物の記憶として、また前に進まなきゃ。
「この先どんな事があっても、またみんなでここで会おうね。一人も欠ける事無く。」
私達が「うん」と声を合わせて約束したのは言うべくも無い。
「我ら生まれた時は違えども、死すべき時は、」
「いやいや、エリカそうじゃないから。死んじゃダメでしょ。これからもここで会おうって事だから。」
エリカの三国志ネタボケに真樹が冷静なツッコミを入れる。私達はそれを契機にワイワイと話をしながら駅へと向かい、それぞれの帰省先へと別れた。
私はそのまま横浜の祖父母宅に滞在して、妹共々お世話になる予定。エリカは今回はパリではなく、白金台の実家へ帰るそうだ。
みんなと再び会うのは8月の終わり。その後は演習、実科査閲が続き、いよいよ士官学校卒業が待っている。
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