第44話 練習艦隊⑧
「どう?何か困った事は無い?」
男子候補生達から解放された森井中尉は、女子候補生の方へ来てくれて、何かと気遣ってくれた。
「森井船務長、うちの馬鹿供が済みませんでした。」
副隊長の花月さんが申し訳無さそうに森井中尉へ謝罪する。いや、あいつらは、もう本当に恥ずかしかったんだから。
森井中尉はちょっと肩をすくめると、
「まあ、しょうがないわよ。こんな時だもの。でも男って本当馬鹿よね。」
と身もふたもない辛口コメントをした。
その後、私達は森井中尉に現状の哨戒任務などについて幾つかの質問をしたのだけど、そう中で出たのが、やはり、艦隊司令が何故正規のスケジュールを変更してまでこの任務を受けたのか?についてだった。
「船務長、司令には司令のお考えがお有りなのでしょうが、月まではスケジュール通りに訓練しながら航海を続けた方が、私達士官候補生にとっては良いのではないかと思うのですが?」
花月さんはここだけの話とはなるものの、司令を批判したとも受け取られかねない疑問を率直に森井中尉に尋ねた。それに対し森井中尉は「う〜ん」と人差し指を頤に当て考える仕草をすると、私見だけどね、と断りを入れながらも森井中尉自身の考えを話してくれた。
「確かに戦闘配備中の士官候補生は、余程の事態にでもならない限りここで待機しるしかないから、花月さんが言ったように訓練した方が良いというはわかるけど、」
森井中尉は女子候補生達から集められた視線を受けて、皆を見渡してから再び話を続けた。
「だけど磯山司令は士官候補生達に戦闘配備中の艦内の空気を感じて、覚えて欲しいんじゃないかって思うの。特に愛鷹は香取や鹿島と違って正規の巡洋艦だからね。」
確かに練習巡洋艦と違って正規の巡洋艦である愛鷹は、今回たまたま練習艦隊の旗艦となっただけで、本当だったら船団護衛なり、火星奪還作戦なりの実戦に投入されていただろう。
「それから、火星奪還艦隊を見送る事によって、あなた方士官候補生に軍人として従軍する覚悟を促したいという思いがあったのだと私は思うの。」
私達が見送る火星奪還艦隊は、これから火星に赴いてアムロイと戦う。その結果、勝って火星を奪還するにしろそうでないにしろ、戦傷者や戦死者が出る事は確実だ。だから艦内で待機するだけとはいえ、哨戒任務ではあっても、これから死地に赴く友軍を見送る経験は貴重だと思う。
「では森井船務長ご自身は、今回の任務に思うところはありますか?」
なんとなくしんみりとなった雰囲気を破ってひとみが森井中尉に質問した。
「そうね、私の同期の友人の好きな男性が、たまたま火星に任務で出向していてね。そのまま運悪くというか、アムロイの火星襲来があって原隊に戻れなくなっちゃたのよ。友人はその彼の事が本当に好きで異動希望まで出して、やっと同じ所属になれたって喜んでいた矢先だったから。その火星を取り戻すための艦隊を見送る事が出来て、個人的には良かったと思っているわ。」
その森井中尉の同期生の好きな彼は、今どうなんだろうか?皆同じ事を考えていたのか、誰かが呟いた。
「その方が無事だといいですね。」
「まあ、大丈夫なんじゃないかな。同期曰く、その人は何があっても生き残るどころか、ピンチをチャンスに変えて、転んでもタダじゃ起きない人だって言っていたから。私も一度会った事があるけど、確かにそんな感じだったわね。何と言ってもその彼の所属は第869任務部隊だから。」
「「ほえ〜!」」
第869任務部隊と聞いて女子候補生達から感嘆の声が上がった。その部隊は地球連邦軍に幾つかある緊急展開部隊の一つで、アステロイドベルト地帯を根拠地として外惑星系に睨みを利かす最精鋭の特殊部隊なのだ。戦艦並みの強襲揚陸艦を擁し、通称「海賊部隊」。そんな部隊に所属している人ならアムロイ占領下の火星でも生き残っている可能性も高そうではある。
しかし、森井中尉の同期生も男を追ってそんな部隊に異動希望を出すとか、よっぽどその人が好きなのか、凄いなと思うよ。
それから暫くして、練習艦隊と火星奪還艦隊に向かう新設の第14艦隊は月軌道を通過したため、練習艦隊は任務を解かれて練習航海に戻った。艦内も戦闘配備が解除されて士官室で待機していた私達士官候補生も訓練に戻る事となった。
「咲っ、何してるの、行くよ?」
先に士官室を退室した真樹とエリカが出入口のドアから私を呼んだ。
「あっ、うん、ごめん、今行く。」
私はそう返事をすると、早足で彼女達の元へ急いだ。退室前にふと室内を振り返ると、士官室のモニターには艦外カメラから撮影されている第14艦隊が火星に向けて加速する映像が映されていた。
(ご武運を)
私は一瞬だけ瞳を閉じてそう祈ると、班員達の元へと向かった。
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