第38話 練習艦隊②
「いやぁ、まさか旗艦に乗るハメになるとはね。」
「しょうがないよ。ウチら1組なんだからさ。」
ここは旗艦愛鷹の食堂。今、私達の班は練習航海初日の当直を終えたところ。私は夕食のカツ煮定食を掻き込みながら、先に食べ終えてまったりお茶を飲んでいる真樹と史恵のお喋り、というかぼやきを聞いている。
練習航海は士官学校と同様に分刻みの行動になるのかと思いきや、意外とゆとりのある内容となっていた。私は勤務中にそれとなくその理由を年齢の近い女性士官に尋ねてみたところ、三ヶ月に及ぶ長い航海になるので緊張でへばらないよう、ゆとりのあるスケジュールになっているのだという事だった。疲労は事故の発生要因にもなるし、疲れてヘロヘロで訓練しても身につかないしね。
しかし、それは暇であるという事では決してなく、飽くまで昔々と比較しての話。やるべき事は山ほどあり、先々を考え、早め早めに行動しなくては後々とんでもない事になるのは士官学校と同じだ。
では、何故私だけが忙しくしていたかといえば、日直として練習航海初日の訓練日誌を書かなければならなかったから。これは日直班が毎日作成するもので、練習航海初日の日直班に私達の班が当たってしまったのだ。しかも、そこはやはり班長たる私が率先垂範してみせなくてはならず、先程漸く日誌を書き終え、こうして急いで夕食をとっている訳であった。初日の日直と艦橋勤務は流石に緊張したし、疲れたよ。
練習航海初日、私達士官候補生は練習艦隊司令の磯山少将が乗艦した後、順次乗艦し、艦内の士官室にて磯山少将の訓示を受けた。更に艦隊参謀からの練習航海に関するガイダンスと続き、解散後は早速見習い士官としてそれぞれ配置に就いた。
因みに私達の班はいきなりの航海科の艦橋勤務。
巡洋艦愛鷹の艦橋内では艦長の指揮の下、出航準備が進んでいた。艦長の元には各担当から報告が次々と上がっている。
機関長「エンジン出力上昇、機関異常無し。」
航海長「トリムチェック完了、スタビライザー作動よし。」
通信士「通信、索敵異常無し。」
砲雷長「武器、防御システム異常無し。」
そしていよいよ出航となり、艦長三嶋洋一大佐の言葉が艦内放送で流れる。
「艦長の三嶋だ。異星人アムロイとの戦争が続く中、優秀な将兵を育成する我々練習艦隊の任務は
重要さを更に増している。また、士官候補生、研修生、新兵の諸君。戦闘続く前線では諸君等の一日も早い参戦を待ち望むものである。各員の一層の努力を期待する。以上だ。」
艦長は艦内放送での訓示を終えると、再び出航指揮に戻った。
「艦長、鹿島、香取より入電。発進準備よし、以上です。」
「了解した。司令、本艦以下2隻は発進準備完了しました。」
艦長からの報告を受けた磯山司令は練習艦隊に発進を命じた。
※作者からのお願い。この出航シーンはBGMに『ホワイトベース/重力圏へ』を聴きながらお読み下さい。
「艦隊発進せよ。」
「宜候」
ガシュンという音と共に船体が僅かに揺れた。第3宇宙ステーションから愛鷹に掛けられていたタラップは既に収納されている。先程の揺れは船体を固定していた固定具が解除された際のものだろう。
「艦長、第3宇宙ステーション宇宙港管制より平文で入電。貴艦隊の航海の安全を祈る、以上です。返信されますか?」
三嶋艦長は磯山司令に僅かに視線を向けると、それを受けた磯山司令が頷く。三嶋艦長は磯山司令に黙礼。
「訓練成果を誓って挙げると返信しろ。」
「了解。」
「微速前進。間も無く本艦は宇宙港を出ます。」
航海長が告げた通り、艦橋から見える愛鷹前方の視界は宇宙港内の明るさから徐々に宇宙空間の闇が拡がりつつある。
巡洋艦愛鷹以下2隻からなる練習艦隊は宇宙港から宇宙空間へと進んだ。
「艦隊進路異常無し。」
私はこの出航に伴う艦橋内の遣り取りを、緊張しながらも興味深く見聞していた。私は戦闘機パイロット希望なので、艦隊旗艦の艦橋でこのようなシーンを見る事は恐らく二度とないだろう。そう思うと最初はいきなりの艦橋での勤務なんて緊張するし、最悪だ思っていたものが、貴重な経験かもと思えてきた。
そして、ここに艦橋勤務をエンジョイしている者がもう一人。
「(小声)ねぇ咲、機関長の「フライホイール接続」は?」
そう、その人物こそ、我が友、立花エリカその人である。
「(小声)反物質エンジンにフライホイールは無いから。」
「(小声)ガントリーロック解除は?」
「(小声)ガントリーロックって何?」
「そこの候補生、私語は慎みなさい!」
「「はい、申し訳ありません」」
エリカの所為で美人船務長に私まで怒られちゃったよ。
艦隊は更に加速し、宇宙空間の更なる彼方、練習航海の最初の目的地であるスペンサー要塞へ向けて出発した。
お読み下さり有難う御座います。




