第35話 空挺降下④
そして、遂に始まった輸送機からの空挺降下訓練。私達は降下装備を着装して霞ヶ浦訓練場の飛行場に駐機している中型輸送機に搭乗した。
この中型輸送機の全長は50m。胴体後部の両型に2機の重力制御エンジンが装備され、衛星軌道まで飛行が可能。また、胴体の貨物コンテナは脱着可能で、貨物コンテナを外して爆撃や地上掃射などのユニットを搭載すると爆撃機や地上支援機などとして多用途に使用出来る。兵員輸送能力としては、歩兵なら1個中隊を輸送する事が出来る。
中型輸送機は飛行場からふわりと垂直に浮き上がり、その後すぐにやや前傾になると上昇を開始した。
昔の空挺降下の映像を見ると、エンジンの轟音で機内はまともに会話が出来ず、小隊軍曹やロードマスターが隊員の耳元でガーガーとがなりたてている。しかし、23世紀の現代にあって、機内は多少の機械音がするものの静粛そのものだ。その静粛の中を訓練軍曹の注意とも訓戒ともつかない言葉が続く。
「いいか、遂にお前等はこの時を迎えた。俺は教えるべき事は全て教え、お前等はそれに応えて十分に訓練を積んで来た。最早俺がお前たちに言うべき言葉はただ一つ。」
訓練軍曹は言葉を切ると、渋くニヤリと口の端を歪めると気合いの入った言葉を放った。
「思いっきり飛んでこい!以上だ。」
「「「おおー!」」」
鬼の様な訓練軍曹からの思いの外の激励に、私達の士気はいやが上にも盛り上がった。
輸送機は目標である高度4000mに達し、いよいよ降下が始まる。降下の順番は学生隊長からで、その後は名簿の建制順、つまり私が朝倉であ行だから2番目となる。
輸送機の後部ハッチが開かれ、機内は物凄い風圧に襲われた。降下1番目の北条君がロードマスターとの遣り取りの後にハッチから空中へと飛び出す。次は私だ。私はロードマスターに降下準備よしと右手の親指を立てて合図する。ロードマスターは私の肩をバンバン叩くと、よし行けとばかりに自身の右親指を立てた。
数歩前進して、ハッチの手前に立つ。やるべき事は全て全力でやった。恐怖は無い。訓練通りにやるだけだ。
私は降下塔での訓練降下の時とは違い、この本番では何も叫ばず、ただ無言で空中へとダイブした。
全身にかかる風圧が凄い。でも、私は今飛んでいる。飛んでいるんだ。視界に広がる世界はひたすら蒼く、地平線はどこまでも広く丸みを帯びている。
やがて開傘高度に達し、私はパラシュートを一気に開傘させると、急にガクンと体が上に吊り上げられるような衝撃に襲われた。
高度はパラシュートの空気抵抗でゆっくり(と感じられる)と降下して行く。そして高度が低くなると、急に地面が迫って来るようになり、私は訓練通りに着地すると受け身をとって衝撃を逃した。
はぁ、遂にやった。風を孕んだパラシュートに体が持っていかれそうになりつつ、私は重心を下げて耐え、風が弱くなった隙に手早くパラシュートを畳んだ。そして一回深呼吸して興奮を鎮める。ふと前方を見ると、私より先に降下していた北条君が風を孕んだパラシュートに悪戦苦闘していた。
その後、輸送機からの降下訓練は4回行われた。そして最終日には訓練課程の修了式が行われる。
私達の訓練小隊は修了式の会場である訓練場の講堂で整列し、霞ヶ浦訓練場の司令と横須賀士官学校の教養課長の講評を有難く聞いた。そして士官候補生を代表した北条隊長と花月副隊長が司令より空挺徽章を授与された。
地球連邦軍の士官になる方法は士官学校に入学するばかりではない。他にも幾つかの方法があり、例えば下士官から昇任選考を経て士官候補生となる方法、一般大学で短期現役予備士官養成課程を受講して予備役士官となり、更に現役任用を志願する方法などがあり、どの方法を経て士官となったかで昇任等に差が出たりもする。
しかし、決定的な違いは士官学校の士官候補生は、士官学校にて空挺課程を履修出来、空挺徽章を手に出来るという事である。他の過程を経て士官となる場合は下士官兵時代に空挺課程を志願しなくてはならない。つまり、士官としての任用前に空挺徽章を手に出来る事は、士官学校の士官候補生の特権でもあるのだ。
修了式が終わると私達は集合写真を撮った。整列したものの他にふざけたポーズで撮ったり、班ごとに撮ったり。そして私達の左胸には愛しくも誇らしい空挺徽章が燦然と輝いていた。
「あら?奥様、それってもしかして、噂の空挺徽章じゃありませんこと?」
「いやだわぁ、わかります?奥様のそれも、もしかして?」
「お気付きになりまして?」
「「オーホッホッホ」」
エリカと史恵の漫談を聞きながら、私達は教場に戻った。
こうして私達は4週間に渡る空挺課程終えた。空挺徽章をこの手にする事が出来、士官学校1学年は山場を越えた。この後は横須賀士官学校にもどり、新年を迎えて4月から2学年となる。
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