第34話 空挺降下③
降下塔での降下訓練が終わり、来週からは輸送機からの降下訓練が始まる。その前の土曜日、日曜日の二日間は訓練が休みとなり、緊張を強いられる空挺降下訓練における貴重な休日となる。
とはいえ、ここは霞ヶ浦の湖畔にある訓練場である。せっかくの休みでも訓練場の周りには、地元の人達には悪いけど、楽しめるような施設は何も無い。ここから一番近い街まではバスで1時間近くかかり、且つバスの本数も少ない。無論、士官学校によるバス送迎などは無い。
それでも少数ながらどうしても外の空気が吸いたいと、毎年外出を試みる者達もいる事はいるらしい。しかし、大半の候補生達はこの機会に洗濯をしたり、食事・排泄・入浴以外はベッドでゴロゴロ過ごしたりと思い思いに二日間の休日を過ごすようだ(日直班を除く、残念)。
さて、私達はどう過ごそうか。金曜日の夜に自班の部屋でジュースを飲み、菓子を摘みながらみんなで考えたのだ。しかしながら、結局の所、訓練場内でゆっくりしようか?という事となった。訓練場の近くは娯楽施設は無いけど、由緒ある寺社や美しい大自然の名所・旧跡などの観光地もある。だけど、まあ、休める時は休んだ方が良いからね。
そして、土曜日の昼下がり。私はひとみと史恵と訓練場でにある宿泊棟のラウンジに来ていた。ひとみと史恵はPXに飲み物を買いに行っていて、私は席取りのため一人テーブル席でマガジンラックから拝借した雑誌をパラパラと読み飛ばして二人を待っている。
「あの、1組の朝倉さんですよね?」
すると、他クラスの男子候補生が話しかけてきた。
「…はい、そうですけど?」
私は以前の特待生事件以来男子候補生がちょっと苦手だ。なので、その男子候補生に話しかけられて少し警戒しつつ応じる。まあ、その男子候補生には一応見覚えはある。
「ええと、2組の学生隊長の山中さんでしたっけ?」
「はい、そうです。」
私が山中候補生を知っているとわかると、彼のテンションが一気に上がったようで、嬉しそうだ。
「少しお時間よろしいですか?」
ちょっと面倒くさいなと思いつつ、彼の屈託のない笑顔に、まあ悪い人ではなさそうなので、取り敢えず席を勧めた。
「友人を待っているので、それまでで良ければどうぞ。」
「いや、申し訳ない。ありがとう。」
山中候補生はそう言うと、私の正面の席に座った。
一体何だろう?彼の様子から悪意が無いのはわかるけど、早く要件を切り出してくれないものかと思う。山中候補生は席に座ったはいいけど、もじもじしていて。しょうがないから自分から切り出してみた。
「あの、それでどういったご用件でしょう?」
「あっ、そうですね、えっと、」
「?」
「ええと、2組は来週から訓練塔からの降下訓練に入るのだけど、1組は終わってみてどうでしたか?」
今週私達1組から空挺降下訓練に入り、2組は来週から訓練に入る。そういう事で、きっとクラスの候補生達を率いる学生隊長として情報収集に余念がないのだろう。
「そうですね、最初は目の前に降下塔からダミー人形を落とされます。まずはこれに驚かされますね。それから訓練軍曹の「お前らもこうなりたくなければ云々」となる訳ですけど、」
「へぇ、そんな事やるんですか。最初に気合いを入れるって感じですかね?」
「そんな感じです。それで落下したダミー人形の顔がこっちを向いていて、偶然なんでしょうけど、なんとなく恨めしそうというか。こっち見ないで!って感じでした。」
「ははは、それは中々不気味ですね。」
そんな感じで、暫く山中候補生と話を続けていると、
「朝倉さんって話すと面白い人ですね。」
などと言ってきた。
「そうですか?」
「ええ、少し話しかけづらい雰囲気があったものだから。」
えっ?そうなんだ。なんか微妙にショックだ。高校までは男子ともすぐ仲良くなって、友達も多かったつもりだけど。
「そうなんですか。そんな事無いと思いたいですけど、まあ、私も決闘とかいろいろやらかしてますからね。」
「いや、あれはあれで格好良かったですよ。」
正直、あれは私の黒歴史だから、あまり触れて欲しくないのだけど。
「見てたんですか?今更ですけど、恥ずかしいですね。」
私がそう言って俯くと、山中候補生も俯いてしまった。拙い事を言ってしまったと思ったのだろう。
「…」
「…」
お互い俯いて黙っている。えっと、これどうしよう?などと考えていると、救世主が登場してくれた。
「咲ー、お待たせって、えっ⁈」
ひとみと史恵がPXから戻って来たのだ。二人は向かい合って座り、下を向いて黙って固まっている私と山中候補生に絶句していた。
「何々?どうしたの、何があったのかなぁ?」
史恵がニヤニヤして態とらしく小首を傾げて尋ねたため、山中候補生は焦ったように立ち上がり、
「朝倉さん、有益な情報を有難う。参考になったよ。訓練お互いに頑張ろう。それじゃ!」
と言ってそそくさと立ち去って行った。
「何?どうしたの彼は?」
ひとみはまるで不審者でも見るような一瞥を山中候補生に寄越した。流石にそれでは彼が不憫なので経緯を話す。
「ふ〜ん、訓練の情報収集にかこつけて咲耶に近付こうとした訳か。」
「いゃあ、どうだろうね。」
「いいんじゃない?山中隊長。格好いいし、同期女子の間じゃ好感度高いよ?」
「史恵、だめよ。そういう事言わないの。」
「エリカと真樹に言っちゃおうかな、ライバルの登場だよって。」
史恵が茶化すように、しかも何が聞き捨てならない内容を含めて言い放った。
「何言ってんの、山中候補生とはそんなんじゃ無いよ。それと、エリカとも真樹ともそんな関係じゃないし!」
「まぁまぁ、咲耶も落ち着いて。はい、咲耶のミルクティー。」
私は「有難う」と言ってひとみからミルクティーのボトルを受け取り、気分を落ち付けようとキャップを開けて一口飲んだ。
「で、どうなの?実際のところは?」
こうやって情報を聞き出すところも、ひとみは流石だと思う。まあ、私も山中候補生が単に降下訓練の情報収集だけの為に私に話しかけて来た訳じゃないのはわかってるよ。
「うん、まあ、不器用そうだけど、感じの良い人だと思うよ、愛嬌もあって。北条君とは違うタイプの隊長だよね。でも、私は今はそれどころじゃないから。」
「そっか、まあ、そうだよね。私達は異星人と戦争中だもんね。それに咲はお父さんの敵討ちをしなきゃだしね。」
史恵がさっきの勢いはどこに行ったものか、納得したように両腕を組んでうんうんと頷いた。
「でも、なんかつまらないな。」
「はあ?何よそれ。」
読んでくださいまして、有難う御座います。




