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第32話 空挺降下①

11月の筑波おろしが4列横隊で整列する私達訓練小隊に容赦なく吹きかかる。顔には防寒用のファウンデーションを塗ってあるけど、本当に気休めでしかなくて、顔が冷たくて痛い。鼻水が垂れそう。


休めの姿勢で待機する私達の中には、こんな時に無駄口を叩くような不心得者は居ない。そんな事をしようものなら、両眼をギョロギョロさせた、あの恐ろしい(見た目も)訓練軍曹に目敏く見つけられ、これでもかと罵声を浴びせられた挙句に腕立て伏せを潰れるまでやらされるからだ。


私達士官候補生は、先週から空挺課程に入っている。土浦の空挺降下訓練場へ出向し、先週は座学と基礎訓練がみっちりと行われた。基礎訓練は基礎体力向上の為の体力練成、空挺降下時の受け身の訓練、パラシュート等の資器材取扱訓練、そして装備を着装して輸送機に乗込んで降下する直前までの動作訓練からなり、非常にキツくて、もう身体中アザだらけだ。


訓練軍曹の厳しさは士官学校の助教の凡そ二割り増し。とある男子候補生は、いきなり「ツラが気に食わん」とイチャモンをつけられてスクワットを千回もやらされていた(やりきったから凄いけど)。最初は霞ヶ浦を見て予科練がーとか、でっかい希望の雲はどれだーとか喜んでいたエリカも、それを見て何も言わなくなってしまった。


そして、訓練教官と助教である訓練軍曹が現れた。


「気をつけー!」

「訓練教官にぃーかしらー中!」


北条学生隊長の指揮により、気を付けの"キ"で素早く気を付けの姿勢をとり、かしら中の"な"でかしら中の敬礼をする。


その後、私達は訓練軍曹の指示により駆け足で降下塔の元まで移動した。今回からいよいよ降下塔を使用しての降下訓練が始まる。降下塔の高さは15mであるという。しかし、私達が降下する高さは11.9mなのだそうだ。どうしてそんな中途半端な高さからなのかと言えば、その高さが人がもっとも恐怖を感じる高さなのだとか。



「いいか、今日からあの降下塔を使った降下訓練を行う。地べたを這いずり回っていた半人前の蛆虫野郎のお前達が有難くも空挺徽章様に近づける貴重な第1歩である。さぞかし嬉しい事であろう。しかしだ。これからは今迄と違い失敗は許されない。何故なら、失敗即ち死に至るからだ。」


訓練軍曹はそこで一旦言葉を切ると私達に降下塔に注目するように促した。


「そこでだ。まだまだ生温く甘っちょろいお前達に俺からいいものを見せてやろう。降下塔の上を見ろ。」


私達は訓練軍曹に促されて降下塔の上を見上げる。すると、降下台にダミー人形が設置されていた。まずはダミー人形の降下を見ろという事だろうか?


降下塔の上からロードマスターの「降下準備よし」のサインが出ると、続いて「降下!」の掛け声と共にダミー人形が降下を始めた。しかし、降下速度が重力により加速したまま、あっという間にズバァーンという衝撃音と共に土煙り上げて私達の目の前の地面に墜落したのだ。


「「!!」」

「「…」」


いきなりの衝撃に誰もが言葉も無く、只々墜落したダミー人形を見つめるばかりであったが、訓練軍曹のダミ声で我に返り、再び訓練軍曹に注目する。


「いつまで見てるんだ。空挺降下は失敗すればお前らもあのように地面にダイブだ。ダミー人形様はお前らに身をもって教えてくれたわけだから感謝しろ。あれは専用の人形だが、お前らならバラバラだ。そうなりたくなければ、あらゆる事に注意を払え。絶対に手を抜くな。いいな?」


「「はい!」」


「よし、装備を着装して30分後にここに集合だ。敬礼省略、別れ!」


「「よし!」」


私達は駆け足で倉庫に行き、大急ぎで装備を着装した。勿論、班員同士でお互いの着装状態をチェックしたのは言うまでもない。

お読みいただきありがとうございます。

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