第25話 夏の終わりに
夏季休暇が終わろうとしている。とうとう最終日となり、まだ夏季休暇が続く妹に見送られ、私は祖父母宅を後にした。これでまた暫く妹とは会えなくなるので、私は妹をギュッと抱き締めスリスリした。今回はほどほどにしたため脇腹をつねられる事は無かった。
士官学校に戻る際し、私は同じ班で比較的合流し易い真樹とひとみと「ルフトヴァッフェ」で待ち合わせた。ここでランチを食べて3人で士官学校へ
戻ろうという算段である。
横浜にいる私が当然「ルフトヴァッフェ」に一番乗りだ。店内に入ると、マスターのケンプさんが出迎えてくれた。
「いらっしゃい、フロイライン。」
「ご無沙汰してます、マスター。」
「!?」
「どうかなさいましたか?」
ケンプさんが私の事をまじまじと見つめるので、どうしたものかと尋ねた。
「いえ、失礼しました。フロイライン、少し雰囲気がかわりましたね?」
「そうですか?少しは美人になりました?」
急にそんな事を言われたので、焦って下手な返しをしてしまった。
「フロイラインは元からお綺麗ですよ。ところでご注文はいかがなさいますか?」
「あっ、班員と待ち合わせているので後からでいいですか?」
「承知しました。では後ほどお声掛け下さい。」
少し時間が経って真樹が、そのすぐ後でひとみが「ルフトヴァッフェ」にやって来た。
「二人とも久しぶり。元気にしてた?」
「もちろん。ここだけの話、内緒で結構あちこち旅行しちゃった。」
「チャレンジャーだね、真樹は。」
私はひとみにも夏季休暇中の事を尋ねたけど、ひとみは怪訝そうな顔で私を凝視していた。
「ひ、ひとみさん?」
「咲耶、何か雰囲気少し変わったわね。何かあった?」
「えーっ、さては男が出来たな?」
「そんな事あるわけないでしょ!全く、そうやって騒ぐとまた何か言われるよ?」
馬鹿真樹がとんでもない事を言いだしたので、そのような事実は無いと即座に否定する。
「でも雰囲気変わったって、さっきマスターにも言われちゃって。自分じゃわからないけど、どんな感じなの?」
私がそう尋ねると、ひとみは「う〜ん」と唸って少し上を向き、右の人差し指を頤に当てた仕草で考える。
「別に悪い感じじゃないのよ?何というか、少し鋭くなったというか、そんな感じかな。真樹はそう感じない?」
「えー、私はいつも通りの咲だと思うけど?」
真樹は考える事なく、適当に答えた感じ。
何だろ?でも思い当たる事が一つあると言えばある。でも、それをひとみと真樹に説明するのも躊躇われた。
「そんな事より早く注文しようよ?お腹減っちゃったよ。」
「「そうだね。」」
その時はメニューを見ながら何を注文するのか、という事に話題は移った。そして、それまでの私の雰囲気が少し変わった問題は過去のものとなり、それ以降話題に上る事は無かった。
私達は昼食を摂りながら、この休み中の出来事の話題で盛り上がり、その後は3人で横須賀士官学校へと戻った。そして、教官室で帰校の申告をして夏季休暇を終えた。
とは言え、消灯までは自由な時間。私は二週間ぶりに再会した班の仲間と休み中の話をしたり、お土産を渡したりと、まだ少し休みの気分を引きずったまま盛り上がった。
ひとみと史恵はやはり即戦力として家業の手伝いをやらされたようだった。真樹は家族と無届けで軽井沢へ行ったり、友達と伊香保で温泉に入りに行ったりしたそうだ。そしてエリカはニースでフランス人の親戚とバカンスを楽しんだという。
因みに、エリカからお土産に「Paris」の左右にエッフェル塔と凱旋門のイラストがデカデカとプリントされたTシャツを貰った。エリカの気持ちはとても嬉しかったのだけど、エリカのセンスに皆でがっかりしたのは本人には絶対に内緒だ。
その夜、就寝した私は例の喫茶店にいた。席に着くと、今回はコーヒーが出ている。私と野村大尉が差しでコーヒーを飲みながら語らっているような形だ。
「今日、何人かに雰囲気変わったって言われたのですけど、やっぱり大尉が影響してるって事ですかね?」
「そうだな。やっぱり英霊がバックについているからな。霊感が強かったり、勘が鋭い奴はわかるかもしれねえな。」
「自分自身その自覚は無いですけど。」
「そりゃあそうだろうな。まだ何もしていないしな。」
そう。野村大尉は私に指導してくれると言ったけど、具体的にはまだ何もして貰っていない。そこで私はこの機会に、思い切って今後の指導方針について尋ねてみる事にした。
「あの、大尉はどのように私を指導して下さる方針なんですか?」
野村大尉はジロリと私を一瞥した。
「今はまだ何かを教える時ではない。大事なのはお前さんが今の自分に出来る努力を続ける事だ。」
私は私自身の意思で父の敵討ちを決意した(妹の影響があった事は認める!)。人は一人では生きられず、皆誰かを守り、誰かに守られている。私にしたところで、今まで両親、妹、先生、友達等々に支えられて今ここにこうしているのだ。しかし、何事かを成すのは自分自身であり、誰かが自分の代わりにやってくれる訳ではない。例えやってくれたとしても、それには何の価値も無ければ、自分の成長も無いのだ。自分が努力し、苦しみ、足掻くからこそ周りも手を差し伸べてくれる。英霊の野村大尉が助太刀してくれるという事で、私は事の本質を見失ってしまったのかもしれない。きっと野村大尉は、そんな私の依存心などの弱さに喝を入れてくれたんだ。
「大尉、申し訳ありません。私は思い違いをしてました。」
私は反省と自戒を込めて野村大尉に謝罪した。
「うむ、わかったならば良し。今日の指導はこれまでとしよう。」
「はい。有難う御座いました。」
野村『なんか勝手にいろいろ考えて答えを出したようだけど、俺、実際まだ何も考えてないんだよな。まっ、結果良ければ全て良しという事にしておこう。』
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