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第18話 手紙

翌日、木村は約束通り、朝の自習時間に土下座して謝った。私は木村の謝罪を受け入れ、北條隊長がこの問題の終息を宣言した。


それ以降、特待生という渾名は影を潜めたけど、新たな問題が惹起していた。私は面と向かって呼ばれた事は無いけど、ひとみの情報によると、私は男子候補生の間で"女王様"、女子候補生の間では"お姉様"と呼ばれ始めているらしい。いや、本当頭痛い。


まあ、あれだけやれば、今後もう私に下手にちょっかいをかける者は出ないだろう。それに、カリキュラム的にそんな暇もゆとりも無くなるだろうしね。私もこれで安心して課業に集中出来る訳だけど、実は自己嫌悪の真っ最中だったりする。


というのも、そもそも私一人じゃこの問題に対処出来なかった。同じ班のみんなを始め、多くの同期生が色々協力してくれて、とても感謝しているけと、迷惑もかけてしまった。


そもそも、この問題は木村の私への逆恨みと八つ当たりに端を発しているけど、元々はCー1コロニー群防衛戦で戦死された従兄弟を慕う気持ちが根底にあった。木村にあんな目に遭わされといて甘いと思われるかも知れないが、私と同じく大切な身内を亡くした者に、あのように土下座までさせて、あのように無様に名誉を奪う必要はあったのだろうか?もっと穏便な、別の解決方法は無かったのか?考えてしまう。


それにお父さんの敵討ちをするために横須賀士官学校に頑張って入ったというのに、敵の異星人と戦う前に同じ地球人類同士、しかも士官候補生同士で戦ってるし。これってどうなんだろう。本末転倒というか、本当、私って何やってるんだろ。


そんな時、母と妹から手紙が届いた。


咲耶ちゃんへ

あなたが士官学校に入学してから早くも一カ月が過ぎましたが、士官学校の生活はいかがですか?私は、詳しくは教えられませんが、戦闘機のパイロットになりました。しかも小隊長という責任ある立場となったので、気を引き締めて頑張りたいと思います。

正直に言えば、私はまだあなた達姉妹の敵討ちには賛成していません。やはり、どんな理由であれ、自分の子供達が戦場に立つ事を進んで許容する親はいないでしょうから。しかし、あなた達が決めた、あなた達の人生です。何度でも言いますが、決して死に急ぐ事はせず、生きて生きて生き抜いて下さい。無事に帰って来る事こそが、私の最愛の夫にしてあなた達の父親である友雄さんが望んでいる事なのですから。

でも、私は反対ばかりしている訳ではないのですよ。あなた達姉妹が敵討ちを決心する程友雄さんを、お父さんを慕ってくれている事が、私はとても嬉しくもあるのですから。

士官学校の二年間は長いようで短くもあります。この先、あなたの行く手には様々な困難があり、壁にぶつかる事もあるでしょう。もしかしたら、既に経験しているかもしれませんね。でも、きっとあなたならどんな苦難も乗り越えて立派な士官になれると、私は確信しています。

それでは、健康に留意して、たまにはお母さんと七海ちゃんにも手紙を書いて下さいね。 母より



お姉ちゃんへ

士官学校生活はどうですか?私の方は軍事関係に加えて高等学校の勉強もしなければならないので、結構大変です。

この一カ月の間に私の方も色々な出来事がありました。例えば、私に関して、お父さんのコネで入校したとか、軍の上層部が加点したとか、そんな噂が流れました。嘘を聞きつけた連中が直接事の真偽を私に尋ねて来たのだけど、その都度否定して、私の目的を話したら誰も何も言わなくなって鎮まったよ。お姉ちゃんの方はどうだった?そんな時は相手にしない方がいいよ。お姉ちゃんが相手すると大事になっちゃうからね。

私にも少年下士官学校で仲間や友達がたくさん出来ました。仲間と協力して、頑張って卒業して、早く前線に立って、お父さんの敵討ちを遂げたいと思います。

お姉ちゃんも何かと忙しいと思うけど、私とお母さんに手紙を書いてね。便りが無いのは元気な証拠、って訳じゃないからね。

それじゃあ、お姉ちゃんも健康に気を付けて、頑張って下さい。 七海より



はあ、もうため息しか出ないよ。普通だったら気持ちが落ち込んでいる時、家族から励ましの手紙が届いたら元気が出るところなのだろうけど、私はますます気分が沈んでしまった。何故かといえば、母も妹も私の事を心配して励ましてくれているのだけど、二人とも私が士官学校でひと騒動起こす前提で手紙を書いていて、しかもその通りだったりしたから。しかも、妹は私と同じようなトラブルに見舞われているにもかかわらず、私のように決闘なんて大騒ぎを起こす事無く解決させてしまっていた。


まあ、確かに妹は我が道を行くタイプで、前世の記憶でもあるんですか?ってくらいしっかりしている。父の敵討ちの事もそうだけど、私はそんな妹に随分と影響されているところがあったりする。


しかし、しっかりしているといっても妹は妹だ。年下の妹に心配かけてしまっている姉というのも情け無い。



私が母と妹からの手紙を読み、そのまま机に突っ伏していると、その様子を見ていたエリカが心配したのか、声をかけてきた。


「咲、どうしたの?何か辛い事でも書いてあったの?」


私はそのままの姿勢で、顔だけエリカの方へ向け、手紙の内容を簡単に説明した。


「ねえ、私ってそんなに頼り無いかなぁ?」


「えっ?全然そんな事無いけど?」


エリカは私の呟きに、何言ってるのこの人は、という感じで応じ、そして語り出した。


「咲は頼り無いどころか、あの木村一味をぶっ潰した手腕は見事というしかなかったよ。噂の存在を知ってからの決断の早さ。対処方針と作戦を立案して、噂の出元を聞き取り調査でおびき出し、証拠と教官への相談実績、そして悪魔の証明で追い詰めて包囲。誘い込んだ"決闘"で叩き潰して、最終的に問題の解決に導くとか、もう私は惚れ惚れしちゃったよ。もうハンニバルの再来かっていうくらい。」


「いや、そんな大袈裟だよ。」


実際、そんな御大層なものじゃなかったのだけど、結果オーライで。


「それに、妹さんの事ならさ、あちらには木村みたいな変な奴が居なかったから穏便に解決出来たって事もあったんじゃない?」


「うん、まあ、それはそうかもしれないけど。」


そう、私も単に噂だけなら放置しようと思ってたんだ。


エリカはそう言うと椅子から立ち上がり、ポットから私のカップに焙じ茶を入れて持って来てくれた。


「ありがとう。」


私も立ち上がってカップを受け取り、一口焙じ茶を啜る。焙じ茶の仄かに甘いような渋味と暖かさで、少し気分が落ち着いた。


「問題解決の仕方なんて人それぞれなんだし、ケースバイケースでしょ?咲は咲らしくしていればいいんだよ、ね?」


そう言ってウィンクして見せるエリカ。フレンチハーフ美少女のウィンクはホント様になる。


あっ、いけない。うるって来ちゃたよ。でも、しょうがないよ。エリカの優しさがとても嬉しかったのだから。私は思わずエリカに抱きついてしまった。


「ふえっ?!」

「ありがとう、エリカ。大好き。」

「ちょっ、待って、いきなり?私まだ心の準備が、」


その時、私はドアに背を向けていたから、ちょうど入浴から戻って来たひとみ、史恵、真樹の三人が入室しようとドアを開けてこちらを見ている事に気がつかなかった。


「キャー、何々、二人はそういう関係になってたの?」

「やっぱり、咲耶がお姉様って事?」


史恵とひとみが嬉しそうにキャーキャー騒ぎ出した。そして、真樹はというと、


「エリカ!咲を賭けて私と決闘だ!」


いや、違うんだ。それに決闘も変な渾名も、もうホント勘弁して下さい。

お読みくださって、ありがとうございます。

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