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最終話 君とならどこまでも

月の裏側に静止する月軌道ステーションで復員船を降りてパティと別れた私は、まずは実家のあるNー1コロニーに向かった。と言っても、そこに誰が待つという事は無い。サードアロー作戦を生き残った母と、サードアロー作戦後に移民船団制圧戦の激戦を戦い抜いた妹の七海は軍に残る事にしたからだった。


実家で一人、家の整理をしたり、地元の友達である萌と南とも再会を喜んだりしていると、地元の通信社から接触があり取材を受ける事となった。


それは「地元から誕生した宇宙時代初のトリプルエースにしてコロニー防衛の英雄の娘、父の敵を討って凱旋!」という、ちょっと勘弁して下さいという勇ましくも小っ恥ずかしい内容だった。


地元コロニー内の謂わばローカル通信社の番組だったけど、動画配信によって忽ち全世界でそれは視聴されて。その後、多くのメディアから取材を受ける身となった。


そうしたメディアの中には低俗なものも含まれていたので、そこはこちらで選ばせて貰った。すると、そうして断ったメディアから、私に腹が立ったのかアンチが出現し、私を貶める記事を配信しだしたのだ。だけど、そうした記事は私が何をした訳でも無いのに何故かすぐに消え、二度と配信されなかった。多分だけど、連邦軍の情報部門のどこかが手を回しゲフンゲフン。


そもそものきっかけもNー1コロニー内のローカル通信社からの取材で、Nー1コロニー自体が軍事コロニーだから、はっ!


それから手記を出版しないか?というオファーがあり、開戦前から綴っている日記を見せるとそれがそのまま出版される事となった。題は『黒いチューリップの軌跡ー大宇宙の敵討ち』


ちょっと、私としてはその題どうなの?と異議ありだったのだけど、担当さんの推しが強くて、結局押し切られた。


この手記は売れた。担当さんの「いゃあ、この内容と朝倉少佐のビジュアルがあれば絶対行けるっス!」の言葉が的中した形になった。


因みに、私は退役時に一階級上がって大尉に昇任し、退役後間も無く従軍中の戦功が評価されて少佐に昇任していた。


そうして手記の印税が入ったりして、奇しくも結構な大金を入手してしまった私。だからと言って「よ〜し、これから作家として稼ぐぞぉ!」なんて思う事は無く、私は退役軍人枠で大学に入って学生となるとメディアへの露出は控えるようにした。


〜・〜・〜


生活が落ち着いて、私は地球を訪れる事にした。それはお世話になり、心配をかけてしまった横浜の祖父母や父の妹である美奈子叔母さんに挨拶するためであり、東京は九段下の靖国神社を参拝するためだ。


約6年振りに訪れた港横浜の街。その賑わいは変わらず、美奈子叔母さん夫婦も相変わらず仲睦まじそうだった。戦時中に生まれた長男の優太君も3歳になっていた。私もすっかり叔母さんだね、なんて話したら、


「え?何言ってるの、咲耶ちゃんは優太の従兄弟よ?」


と美奈子叔母さんに言われ、私はすっかり叔母気分になっていて、皆で大笑い。


それから北鎌倉の霊園にある朝倉家のお墓へ。そこに父の遺骨は無く、父の名が新たに刻まれた墓石があるだけだ。だけどそこは紛れも無い朝倉家のお墓であり、父のお墓だ。戦死して英霊になった父はここにはいないかもしれないけど、きっと届くと思い私は墓前に手を合わせた。


そして、伊豆の実家である神社の神職に就くべく某渋谷にある大学に入学した士官学校同期のひとみ、台南市にある実家の貿易会社を継ぐべく台北の大学に入学して経営学を学んでいる史恵の二人と中華街で待ち合わせて会った。店は勿論「台南飯店」。


史恵の伯母夫婦である女将さんと大将もご健在。私達の事も憶えていてくれ、私達の無事な帰還を喜んでくれた。本当は同期同班の5人でこの店に来たかったけど、真樹とエリカは今も現役の士官で太陽系のどこかにいるから難しいものね。


その足で喫茶店「がいえすぶるぐ」へ。マスターのケンプさんもお元気そうで、店内には私達士官学校同期同班の5人がかつて店内で撮った写真が、他の士官候補生達の写真と共に飾られてあった。自分ではあの当時とそんなに変わったつもりはないものの、その写真の中の私はやはりまだ学生という感じがありありとしていて、何か見ていて恥ずかしいものがあった。


「フロイラインの美しさは磨きがかかっていますよ」 


マスターのケンプさんはそう言ってくれたけどね。


〜・〜・〜


所変わって、東京は九段下の靖国神社。


見上げる大村益次郎像越しの清々しい青空。一礼してくぐる大鳥居から白い玉砂利の参道を進み、手水舎で手を清め、口を漱ぎ、いざ拝殿へ。


ニ礼、ニ拍手して手を合わせる。


"野村大尉、靖国英霊飛行士倶楽部の皆様、そして全ての英霊の皆様。お陰様をもちまして、この朝倉咲耶、無事本懐を遂げる事が出来ました。誠に有難う御座いました"


最後に一礼すると、不意に左肩をポンと叩かれた。振り向くと、そこには野村大尉の立つ姿が!帝国海軍の飛行服を着て、トレードマークの白いマフラーを長めにたなびかせ、私にニカッと笑って見せて。


次の瞬間にはもう見えなくなってしまったけど、私と野村大尉は今でもどこかで通じている。そんな気がしてならず、それがとても嬉しくもあった。


〜・〜・〜


日本で予定していた目的を果たすと、私は横浜から京急線に乗って羽田空港へ向かった。そこから旅客機に乗るとハワイへと出立した。恋人であるパティに会うために。


重力制御エンジン搭載の旅客機は羽田空港を飛び立つと、成層圏から宇宙空間に進み、再び大気圏内へと降下。羽田空港から3時間足らずでハワイはオアフ島のホノルル空港へと降り立った。


少し肌寒くなりつつあった10月の関東と違いハワイは常夏の島。陽射しは強く、カラッとした風が肌をくすぐる。空港内での手続きを終え、荷物を受け取ってゲートを出ると、そこには愛しい恋人のパティが待っていた。


「サク!」


「パティ!」


一年振りに会った私達は駆け寄って抱きしめ合う。久しぶりなパティの身体、頬擦りをして髪を撫でて匂いを嗅ぐ。パティの髪の感触、身体の柔らかさ、あぁ、パティのいい匂いがするよ。


「もう、ずっと会いたかったんだからね!」


戦友で部下だったパティはしっかり者の頼りになるタイプだったけど、恋人となったパティは何気に甘えん坊だ。


「ごめんね、パティ。これからはずっと一緒だから」


「うん」


取材があったり、手記の出版があったり、大学入学があったりと思いもかけず時間がかかってしまったけど、私とパティは彼女の故郷であるこのハワイで一緒に暮らそうと話し合っていた。


「行こ?サクを恋人として家族にも紹介したいしさ」


パティはそう言うと、私の手を取る。


「うん。行こう」


「見せたい所もいっぱいあってさ」


「うん。楽しみだね。パティ、これからもよろしくね?」


「こちらこそ。不束者ですがいつ久しくよろしく」


ああ、もう、パティは私のヨメって感じ!


パティの実家はホテルを経営していて、そちらはパティのお兄さんが継いでいるそうだ。パティは市役所に務めていて、私の大学は通信で受講も可能なので、地球圏内ならどこからでも受講出来るのだ。それこそNー1コロニーからでも、ハワイからでもね。


〜・〜・〜


戦争の緒戦で父が戦死してから約6年。残された母、私、妹による父の敵討ち、朝倉家の戦争は終わり、今、私達3人はそれぞれの道を歩んでいる。その結果、私達が会う事はなかなか難しいものとなってしまったけれど、それでも私達は家族であると同時に、同じ目的のため戦った同志であり戦友だ。その絆は距離になんて負けるもんじゃない。きっと、また朝倉家の3人が会える日が来るだろう、私はそう信じている。


〜・〜・〜


私とパティの恋人同棲生活はスタートし、私達は仲睦まじく、このままオアフ島で常夏の自然とのんびりした時間の中でいつまでも続くんだ、と思っていた時が私にもありました。しかし、世間はそんな私達をそっとしておいてはくれはせず…


地球連邦政府は講和なったアムロイ諸族連合の太陽系内での居住を認め、更には自衛のための再軍備をも認めた。そして両政府は土星のワームホールと、その彼方に存在するかつてアムロイの母星を侵略して彼等が故郷を追われる原因となった種族"ネウラグ"に備えるため地球・アムロイ合同軍を発足させる事となったそうだ。


昨日の敵は今日の友という訳だろうけど、連邦軍内でちょこっと出世していた真樹とエリカが二人ともその担当者になり、航空隊のメンバーに私とパティの名を挙げていた。


〜・〜・〜


「ほっほぅ、ここがサクとパティの愛の巣ですかぁ」


「エリカ、言い方がやらしいよ」


リビングを見回しては変な感想を言い、真樹に嗜められるエリカ。昔と変わらないやり取りが目の前にある。真樹とエリカが私達の説得にここハワイはオアフ島まで来ているのだ。


「態々来てくれたのに申し訳ないんだけどさ」


「え?速攻でお断り?ちょっと話だけでも聞いてよ」


「ねぇ、パティからもサクに話聞けって言ってよ?」


「私もサクと同意見だけど?」


「「う〜ん」」


とは言いつつも、やはり同期の戦友だから話を聞く事となる。


何でも地球・アムロイ合同軍は土星のワームホールの入り口と向こう側に展開して、将来的には向こう側に要塞を建設して常備艦隊を置く、との事。


「第1派遣隊は向こう側の調査もあって、アムロイ側から情報も得ているけど地球連邦軍にとっては未知の空間だから航空隊も精鋭で行きたいんだよね」


「ブラックチューリップ小隊は今や地球連邦軍のパイロットの間ではレジェンドだからね。推す声は大きいんだ」


エリカと真樹の話に顔を見合わす私とパティ。何でも任期は訓練期間も含めて3年らしい。


その晩、真樹とエリカにハワイの料理を振る舞い旧交を温めて、二人には客室に泊まって貰った。この頃、私はまだ学生だけど、手記の印税や印税を運用した配当金で私はそこそこな金持ちになっていた。パティと二人で住むこの海が望めるマンションも買っちゃっていたりする。


私とパティは二人のベッドルーム、ダブルベッドで抱き合う。熱いキスを交わすとパティが囁いた。


「ねえサク、真樹達の話、ちょっと気になってるんでしょ?」


「わかる?」


「そりゃあね。何年サクのパートナーやってると思う?」


「うん、そうだね。して、バディ殿の意見は如何?」


「サクのしたいようにすればいいよ。私も着いて行くし。サクだけなら反対だけどね?」


そう、私だけならこの話、きっと一考だにしなかっただろう。だけどパティと一緒であるなら、と考えてしまう。


(人類未到の深宇宙をまたみんなと冒険の旅か)


軍務だから冒険の旅ではないし、その謎の宇宙人が出てくるかもだけど、明日、朝食の席で真樹とエリカに「一緒に行くよ」と伝えようと思っている私だった。



いつも『朝倉家の戦争』をお読み頂きまして、誠に有難う御座いました。お陰様をもちまして本作品は最終話を迎える事が出来ました。思えば『宇宙の戦士』の女の子バージョンを書こうと始めた本作品でしたが、好きなSFやアニメ、漫画なんかのエッセンスを加えていったら違う方向に向いてしまったような気がしないでもありません。本作品以外の連載もありますので、よかったらそちらも宜しくお願いします。感想なんかを頂けたら幸いです。


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