第168話 狭間の世界で会えたのは
白い空間。どこまでも白く、どこを見ても白い。でも地に足が着いているのはわかる。
(これって、あの空間だよね)
私は、…私は、あれ?どうしてたんだっけ?
ぼーっとする意識を無理矢理覚醒させ、記憶の糸を手繰る。
そうだ、サードアロー作戦は失敗、航空打撃任務群も壊滅した。それでも、ブラックチューリップ小隊のみんなで力を合わせて、それで生き残っていた友軍の力も借りてXFAーv3の陽電子ビームを敵の指揮艦の弱点に!
…パティ、エリカ、うぅ。
そうだ、それでも私達の攻撃は成功して、敵の指揮艦を撃沈したんだ。
それで、それで、XFAーv3はエネルギーが尽きて動けないまま敵艦の爆発に巻き込まれて被弾して。って、あれ?私って死んじゃった?のかな。
「馬鹿言ってんじゃねぇ!お前さんは死んじゃいねぇ」
「はっ、野村大尉?」
気が付けば私の前に帝国海軍の飛行服姿の野村大尉が立っていた。首元にはトレードマークとも言える白いマフラーが決まっていて格好いい。
「お前さんはやり遂げたよ。実に見事だった。機体の性能を全て引き出し、世界広しと言えどあれはお前さんじゃなきゃ出来ない攻撃だった。良くやった、俺も鼻が高ぇや」
野村大尉はそう言って私の頭をよしよしと撫で回す。
「ちょっ、大尉、やめて下さい。髪がぐしゃぐしゃになる」
私の抗議も何のその、野村大尉は笑いながら私の頭を撫で続ける。
「大尉、それじゃあ戦争は?戦争はどうなりましたか?」
「それはお前さんが自分で確かめるんだな」
「…そうですか」
野村大尉は戦争の行方について何も教えてくれないけど、でも、まぁ、きっと、そういう事なのでしょう。
「それよりも、お前さんに会いたいっていう御仁を連れて来てやったぞ?」
「え?どなたですか?」
「まぁ、会ってみりゃわかるさ。お〜い新入り、いいぞ?」
野村大尉が後ろに振り返って声をかけると、白い靄の中から人影が現れて来た。それが体幹の良い男性である事はわかるものの、靄で全体像が霞んでいてどのような人なのかわからない。
ゆっくりとこちらへと歩いて来ると、その人影に纏わりつく靄が徐々に薄れてゆく。
足元がしっかり見えて来た。黒い短靴に折り目がビシッと入った白いズボン、上着も白くて袖には地球連邦軍大佐の袖章。純白の地球連邦軍第1種制服を着用するその人は、
「お、お父さん⁉︎」
靄の中から現れた人影は父だ。ちょっとテレ臭そうに笑っている、紛う事ない私の父だ。
「咲耶」
「お父さん!」
父に名前を呼ばれ、私は堪らず駆け出して父に抱きつくと父は私を優しく抱き止めてくれた。こんな事は本当、子供の頃以来。私はもう何処にも行かないでとばかりに父の背中に両腕をまわしてギュッと力を込めた。
「お父さん、私、頑張ったよ!お父さんの敵を討つため、この戦争を終わらせるため精一杯頑張って戦ったんだよ?」
「うんうん」
父はそう頷きながら優しく私の背中を撫でてくれる。そうして暫く私達はそのままでいたけで、父が話し始めたので私も父の顔を見上げた。
「咲耶、父さんのために有難うな。でも、もう十分だ、十分だよ。咲耶や七海や美波が戦ってくれたお陰でこの戦争はもうじき終わる。これからは3人とも自分の時間を過ごし、自分の人生を生きてくれ」
戦争じゃない自分の時間、自分の人生。この戦争が始まるまで当たり前に、私は自分の時間の中で学び、遊び、笑い、怒り、泣き、悔しがり、憧れた。将来を夢見て努力して、怠けて時には手を抜いて、自分の人生を生きてきた。そんな事はもう随分前だったような気がする。だけど、
「うん、そうするよお父さん。でも、でもね、お父さんの敵討ちのために地球連邦軍に志願したけど、いろんな人達と出会って、助け合って戦って来たんだ。みんな、かけがえのない大切な友達で恩人で、共に大切な時間を過ごして来たんだよ。だからこの戦争も私の人生の一部だから。何も後悔はしてないから」
「うん、そうだな。その通りだな」
父を失って残された私達家族、母も私も七海も父の敵討ちは人生を前に進ませるために必要な事だったと思う。
〜・〜・〜
私と父がこうして居られるのも僅かな間だけらしい。父は次の誰かに会いに行かなければならないみたいだ。
「お父さん、もう行っちゃうの?」
「あぁ。七海の所へも行かなくちゃいけないからな」
「お母さんの所へは?」
「美波の所へはいの一番に行ったさ」
「なんだ。私は2番目か。まぁ、いいけどさっ」
やっぱり恋女房の元へは真っ先に駆けつけたか。
「咲耶、父さんは死んではいるけど、思いは繋がっている。その事は忘れないでくれ。幸せになるんだよ」
「思いは繋がっているんだね。お父さんが生きている時は言えなかったけど、私、お父さんの事ずっと尊敬してるし、大好きだから!」
徐々に離れて行く父の姿に、父の生前に言えなかった思いを言葉にして告げた。
「父さんも咲耶の事が大好きだからな」
父のその言葉を私は物心つく頃からずっと聞いていたけどね。そう思いながら、来た時と反対に靄の中に消えて行く父の姿を見送った。
涙は出なかった。それは父が戦死した時に出し尽くしたからなのかもしれないけど、ただあの時と違って今は悲しくも寂しくもなかった。私の心には一区切りついた満足感で満たされているから。
「大尉、有難う御座いました」
父と再会できたのは、きっと野村大尉が力添えしてくれたからなのだろう。
「おう、何て事はねぇさ。頑張ったお前さんへのちょっとしたご褒美だ」
全然"ちょっとした"ではなかったですけどね。
「兎に角、お前さんは頑張った。今は何も考えず休む時だ。俺ももう少し付き合ってやるからよ」
そうか、戦争が終われば野村大尉も靖国に戻ってしまうんだよね。
「大尉、今まで本当に有難う御座いました」
「馬鹿、気が早えよ。もう少し付き合うっつ言っただろうが。お前さんはまだ救助されてないんだからな?」
野村大尉は呆れたように言うと、私の頭に手を置いた。すれと、私の体はふわっと浮き上がり、揺り籠の中にいるように仰向けになると、何だか凄く眠くなってきて…
「お前さんの身は俺が守ってるから、助けが来るまでゆっくりと眠ってな」
そんな大尉の言葉を眠さでぼーっとした頭で聞きながら、私は返事も出来ないまま再び意識を手放した。
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それでは次話もお楽しみに!




