第167話 さよならの代わりに
XFAーv3から放たれた高出力陽電子ビームは敵指揮艦の直上から、その弱点である艦橋後方部分に命中した。
有効射程が短いとはいえ、その威力は巡洋艦の主砲に等しいと言われている陽電子ビーム。しかも至近距離からの直撃だ。
この距離で、この一撃を放つために多くの友軍が戦った。彼等の死闘が、そして犠牲が私をここまで進ませてくれている。
命中した陽電子ビームは敵指揮艦の装甲を貫いた。しかし、直ちには何も起こらない。致命傷には至っていない?
「ビクトル、陽電子ビーム、もう一回行ける?」
『現時点ではエネルギー約30%ですが発射可能です』
3割か。余程接近しなければならないけど、受領は伏すとも土を掴めだ。もう一度やってみよう。
私は陽電子ビームを発射した急降下のまま敵指揮艦の右舷に接触するタイミングで逆噴射をかけた。それにより減速し、機体を横倒しにさせながら敵指揮艦の艦底に遠心力を利用して回り込む。
そして、機体の姿勢が艦底に対して垂直になると、XFAーv3に残った最後のエネルギーを使って陽電子ビームを発射した。
僅かな時間差で弱点を上下から貫かれた敵指揮艦。私のXFAーv3は全てのエネルギーをこれによって使い果たし、もう機体を制御する事が出来ない。
慣性によって敵指揮艦から離されて行く愛機。そのコックピットの中から上を見上げれば、モニターには艦体の後方、動力部から大爆発を起こして轟沈する敵指揮艦の姿が映っていた。
「やった!やったよ、パティ!エリカ!」
私は、いや、私達ブラックチューリップ小隊、そして航空打撃任務群は多大な犠牲を出しつつも、その任務をここに成し遂げたんだ。
だけど次の瞬間、私のXFAーv3は敵指揮艦の爆発に巻き込まれた。エネルギーが枯渇した今のXFAーv3に艦体の破片と熱線を避ける術は無く機体全体に浴びてしまった。
衝撃に襲われ、更に弾き飛ばされるXFAーv3。私は機体の損傷をチェックすると、XFAーv3の損傷は激しく、推力系、動力系ともに破壊されて機体は大破していた。
どうにかコックピットのバイタルパートは無事で、全方位モニターは機外のカメラやセンサーが破壊されたため、その7割が何も写さなくなっていた。
私は操縦席にもたれながら、そんな全方位モニターの天頂を見上げる。不思議とモニターの天頂部分は画面が生きていて、機体の上方の映像を映していた。
そこからは、おそらく戦闘によるものと思われる幾つもの閃光や消えては現れる夥しい火球の輝きが見て取れた。
作戦では私達航空打撃任務群が敵の指揮艦を撃沈すると、敵の空間近接防御システムのコントロールがダウンし、サブシステムがコントロールを引き継ぐまでの僅かな間に第869特殊任務群が敵の本土たる移民船団に突入する事となっていた。ならばあれは突撃する第869特殊任務群だろう。
第869特殊任務群は敵の前衛艦隊の残敵を掃討しながら全速力で敵の移民船団へ向かって行く。
(私とお母さんでやるだけやったから、後は任せたよ、なな)
XFAーv3は更に宇宙空間を漂って戦場から離れて行き、戦いの光は段々と小さくなる。私は大破した機体の中から、突撃している第869特殊任務群の旗艦薩摩に乗艦している妹を見送った。
〜・〜・〜
さて、私の愛機XFAーv3。エネルギーは尽き、機体は大破してしまった。だけど、幸いな事にバイタルパート、パイロットの生命維持装置とそのバッテリーは無事で、こうして私は生きている。
そして、戦闘機が戦闘や事故などにより行動不能になった場合は救助を求める救難信号が機体から発信され、その信号により救難部隊に救出される。
『マスター、機体の損傷率が7割を超え、当機の航行は不可能な状態です。当機はパイロットの生命維持のためプログラムに従って人工冬眠モードに入ります』
しかし、早期の救出が難しい場合、パイロットの生命維持のためパイロットを人工冬眠状態にする事となっている。機体のAIには予めそうしたプログラムがなされていて、一定の条件が満たされると発動する仕組みだ。
今、私が置かれている状況が正にこれ。機体のAIであるビクトルは私をこれから有無を言わさずカチコチの人工冬眠状態にするだろう。
「了解、ビクトル。目醒める事が出来るかわからないから今お礼を言っておくね。今までどうも有難う」
答えは期待していなかったけど、ビクトルからは直ぐにレスポンスがあった。
『こちらこそ有難う御座いました。私もマスターと戦えて光栄です』
『光栄です』なんて、AIもそんな気の利いた事が言えるんだね。
それと、もう一人。感謝を伝えなければいけない相手がある。
「XFAーv3、あなたにも有難う。あなたと知り合えて良かったわ」
"マスター、諦めないで。僕がきっと守るから"
XFAーv3の小学生男子のような可愛らしい声が聞こえた。
その間にもコックピット内には催眠ガスが噴射され、機内の温度も低下している。
(お母さん、大丈夫だったかな?)
私は薄れ行く意識の中、私を守ってくれていた母を想った。
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それでは次話もお楽しみに!




