第159話 君は誰とキスをする?
サードアロー作戦における航空打撃任務群、その行動内容については既に頭に叩き込まれている。それは私だけではなく、ブラックチューリップ小隊のみんなも同じだ。だから出撃前に今更ああだこうだと細かな指示はしていない。
作戦自体は単純で、マーベル団長が言ったように、行って、撃って、それでダメなら近付いて行って、また撃つ。それだけだ。
円陣を組んだ後、私が部下達と別れて愛機のコックピットに乗り込むと、整備小隊長の秋月少尉が勢い着けて飛んで来た(0Gだからね)。そしてコックピットの縁にしがみ付く。
「郁ちゃん、どうかした?」
秋月少尉は私をじっと見ながら黙っていたけど、意を決したように身を乗り出した。
「サクヤさん、御武運を。それから、絶対に帰って来て下さい。絶対ですよ?」
その真剣な眼差しは適当な返事を許してくれそうにない。
「絶対とは言えないけど、必ず帰るよう努力するよ」
「もう!そこは嘘でも絶対って言って下さいよ」
秋月少尉は泣きそうな笑顔になると、そのまま顔を近付けて目を瞑る。う〜ん、これはキスする流れだよね?私のファーストキスなんだけどなぁ、拒否したら郁ちゃん傷付くよね。
私は長年思い描いていたファーストキスを諦めた。出撃前だし、郁ちゃん可愛いから、まぁしょうがないかな?
そして私が彼女のヘルメットに手を添えて彼女の顔に近づけると、
ガンッ!
「「!!」」
なんと、お互いが被っていたヘルメットがぶつかり合って口付けを阻んだのであった。
流石にこれ以上はタイムオーバーだ。
「ああ、もう、残念。この続きのためにも必ず帰って来て下さい」
秋月少尉はそう言うと私の返事も聞かず敬礼をしながら私の愛機から離れて行った。なんか、ファーストキスが守られて良かったような、残念なような?
私は気を取り直して中断していた出撃準備に取り掛かった。コックピットを閉じると忽ち全方位モニターが機体周囲の映像を映し出す。
『機体のセルフチェック完了。当機に異常ありません、マスター』
右上のモニターパネルに映し出された簡略化された機体図は動力系、兵器系、通信系、索敵系と、それぞれに異常が無い事を示している。
「了解よ、ビクトル。射出に備えてエンジン出力を上げておいて」
『了解しました、マスター』
待機状態からエンジンの出力が上昇していく。その間にも空母海鳳の航空甲板カタパルトは次々とFAーv3を虚空へと射出し続けている。
そして第1航空甲板は第2中隊の射出に掛かり、マーベル団長の中隊長機が射出された。2番機(木村君)、3番機、4番機と続く。
「海鳳管制コメット1からブラックチューリップリーダー、発進準備願います。貴隊の戦果を期待します。御武運を」
コメット1(ひとみ)から発進準備に言寄せた通信が入った。管制官とはいえ、射出される機に態々こうした通信は通常送らない。
「ブラックチューリップリーダーからコメット1、発進準備了解。誓って戦果を挙げます」
私のXFAーv3がカタパルト上に移動されて固定される。そのまま格納庫から航空甲板へスライドされると甲板上の信号、その緑色で表示された数字が「5」から「4」へ、「3」から「2」と変わり、「1」が消えると愛機はカタパルト射出されて急速なGが私の全身に荷重される。
愛機はカタパルト射出されると同時にエンジン出力を最大に上げ、次の瞬間には宇宙空間を最大戦速で飛行。先に出撃していたマーベル団長の第1小隊(プルメリア小隊)の後方に付ける。
「ブラックチューリップリーダーから小隊各機、我に続け」
「「「了解」」」
パティ、真樹、エリカからの返信が入ると、既に編隊を組んでいる。
続いて射出された第3小隊(中山君が小隊長)が編隊を組むと、勢揃いした第2中隊は減速して集合予定宙域で第1中隊と合流した。
空母海鳳から出撃した私達だけではなく、続々と集まるFAーv3はやがて大編隊となり、その周囲には第1機動艦隊の空母赤城、ホーネット、イラストリアスから出撃した六式艦戦による大編隊が私達を守っている。
(お母さん、私達の背中、預けたからね)
私はこの宙域の何処かで戦闘機大隊の指揮を執っている母親に心の中で語りかけた。
〜・〜・〜
航空打撃任務群の大編隊は土星の輪の下をスレスレに飛行し、今までのところ順調に敵の本拠地たるアムロイ移民船団へと向かっていた。連合艦隊による囮作戦が功を奏しているようだった。
この航空打撃任務群の大編隊を作戦宙域で指揮するのは第1独立挺進艦隊第1戦闘航空大隊の大隊長。確かコードネームは「バジリスク1」、だったかな?
「バジリスクリーダーから攻撃隊全機、敵前衛艦隊を捉えた。第1波攻撃を開始せよ!」
遂に私達はアムロイ移民船団の前方に展開するに至った。その前衛艦隊の中には私達が撃沈しなければならない敵空間近接防御システムを制御する指揮艦がいるのだ。
私はバジリスクリーダーの下命に従って大型対艦ミサイルを前衛艦隊に撃ち込むべく、発射トリガーに指をかけた。
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それでは次話もお楽しみに!




