第157話 絶対砕けないでよ
航空打撃任務群は作戦宙域へ到達しつつあった。まだ第1戦闘配備に至ってはいないけど、艦内の雰囲気はピリピリとした緊張感が満ちていた。
私達航空隊のパイロットに限らず、艦隊の乗組員達は衛星イアぺトゥース周辺宙域の泊地から出発してからというものまるで個人的な時間など確保出来ない状態が続いていた。食事、睡眠、排泄以外の時間は幾度にも渡る作戦シミュレーションに個艦や艦隊レベルで行われる状況想定訓練が行われてもうてんてこ舞いだったのだ。
だけど、流石にその状態は続かず、任務群が作戦宙域に近付くにつれて通信・灯火管制が敷かれて訓練も中止された。更に航空隊では最大の懸念材料だった大型対艦ミサイルポッドの接続不具合問題も解決され、スクランブルの当番隊以外のパイロットに僅かながらの自由時間が与えられる事となったのだ。
〜・〜・〜
「やったぁ、ねぇ、何する?何する?」
はしゃぐエリカは可愛いのだけど、私達に与えられた自由時間は何だかんだで2時間がいいところ。一応、艦内の酒保も開かれているし、食堂では主計科がスイーツバイキングを開催してくれる。出撃前にお酒はダメだけど、甘い物くらいいっぱい食べて行ってね、という主旨なんだろう。
「という訳で、私達ブラックチューリップ小隊の出撃前の晩餐はスイーツ食べ放題に決まりました」
「という訳って、どんな訳?」
「ちょっ、エリカさぁ、晩餐とか縁起悪いから言い方変えよっか?」
エリカの高らかな宣言に早速突っ込むパティと真樹。
「まぁまぁ、晩餐は言葉の綾として、スイーツ食べ放題はいいんじゃない?」
「流石、サク。わかってるぅ」
そう言いながら私に抱き着いてきたエリカの背中を「おお、よしよし」と撫でながら、私達はスイーツバイキングに挑むべく食堂へと足を運んだ。
席を確保し、それぞれ飲み物とトレイにお菓子を乗せると、新たに食堂に駆け込んで来るお客さんが目に着いた。
「いや、そんなに慌てなくても」と思って見ていると、ブリッジ3人娘のひとみ、史恵、ダーシャだった。
「お〜いひとみ、史恵、ダーシャ、こっちこっち」
食堂内に入って多分私達を探してキョロキョロしていたひとみ達に真樹が手を振った。
「みんな、久しぶり」
小走りで来たひとみは、そう言うと私の手を取ってぶんぶんと上下に振った。
「本当、同じ艦内にいるのにね」
同じ艦に配属されているとはいえ、管制官とパイロットでは職種も違えば部署も違うし、勤務サイクルもなかなかタイミングが合わない。ひとみ達とは艦内メールで遣り取りはしているけど、こうしてみんなで会うのは久しぶりだった。
「史恵も久しぶり」
「って、いつもメールや艦内線で話してるじゃない」
「うん」
史恵はメールで遣り取りしてるから寂しくなんかないやいって感じで言ったけど、しっかり私に抱き着いているから説得力皆無だよね。
「ダーシャちゃん、史に振り回されてない?」
私は史恵の背中を撫でながらダーシャに史恵ネタを振った。
「はい、史ちゃんはいい先輩です(ニコッ」
やっぱりダーシャちゃんはいい娘だな。本当、上品で素直で、実はマハラジャの家系なんじゃないかってね?
〜・〜・〜
私達が囲むテーブルにはそれぞれがチョイスしてきたお菓子がてんこ盛り、って程じゃないけどそれなりに盛られている。チーズケーキにロールケーキ、シュークリームにマカロンとエクレア、アップルパイ、みたらし団子とおはぎ、月餅とマーラーカオもある。
「みんな、飲み物あるわね?」
一同「は〜い!」
ひとみの仕切りに返事をする一同。
「時間が惜しいから行くわよ?それじゃあ、作戦の成功とみんなの無事な帰艦を願って、乾杯!」
一同「かんぱ〜い!」
皆、手にしたグラスをひとみの音頭で高らかに掲げると、それぞれ身近な者同士でグラスをカチリと合わせる。中身は勿論ソフトドリンクでね。
乾杯が済むと、皆飲み物に口を付け、早速スイーツへと手を伸ばす。軍服を着ているとはいえ、お菓子にお喋りに興ずるその姿は年相応の女の子のものだ。これから死地に赴くとは思えない程の。
「深刻な顔しちゃって。だめよ、小隊長なんだから」
不意にひとみから声をかけられた。
「そんな顔してた?私もまだまだだなぁ」
「ふふっ、黒の戦姫、だっけ?」
「やめてよ、恥ずかしいなぁ」
折角のスイーツバイキングに辛気臭い顔していたらみんな興醒めしちゃうし、小隊の士気にも関わってしまう。私は内心ひとみに感謝しつつ、しっかりひとみが作った話しの流れに乗っかり気持ちを切り替えた。流石は同期生にして親友といったところだよね、私の事を良くわかってる。
「ねぇ、ひとみん所の神さま、何か言ってる?」
お忘れかもしれないけど、ひとみの実家は伊豆の由緒正しい神社。その御祭神の神託でひとみは横須賀士官学校を受験して軍人になったんだよね。
「ううん、何も。そっちは?」
そっちとは野村大尉の事。
「大きく構えてろ、だって」
「そっか。じゃあ、大丈夫なんじゃない?」
「さぁ、こればっかりは神のみぞ知るってところだろうけど、その神さまが何も言わないんじゃ、もう私達は当たって砕けろあるのみよ」
私は努めて明るくそう言ってみた。だけど、これにひとみは乗って来なかった。
「砕けないでよ?絶対に」
「砕けないよ、絶対に」
いつになく真剣な表情に口調には、私もいつになく真剣な表情と口調で返す。これが私達同期生朝倉班の流儀だから。
「絶対、戻って来てね」
「絶対、戻って来るから」
「うん」
「じゃあ、食べよ?」
「そうね」
クール系和風美人なひとみの、少し泣きの入った笑顔はなかなか萌えるものがあった。うん、眼福眼福。
そして、ふと視線を転じれば真樹達と史恵達も私達と同じような遣り取りをしていた。
私はひとみには絶対戻るとは言ったものの、これは戦争なのだ。ましてや激戦となる事が確実な作戦。必ず戻れる保証なんて何も無い。それはひとみも十分わかっている事だろう。それでも私に、私達ブラックチューリップ小隊に戻って来てと言ってくれたひとみ、史恵、ダーシャ、3人の気持ちを抱いて私達は出撃しよう。
「サク、何してるの?全部食べちゃうよ?」
「あ〜、パティってば、私の分も残しておいてよ〜」
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それでは次話もお楽しみに!




