第154話 手紙
私達第6独立挺進艦隊の航空隊員は武居航空参謀の指導の元、来るべきサードアロー作戦の成功率を僅かでも上げるため議論を重ね、シミュレーションを繰り返して作戦発動に備えていた。
サードアロー作戦に参加する戦力は大きく分けて3つ。1つ目は囮となる連合艦隊。2つ目は言わずと知れた私達の属する航空打撃任務群。そして敵の中枢を襲う第869特殊任務群だ。
土星外縁衛星軌道の衛星イアペトゥス周辺宙域に分散していた連合艦隊は、再び集結しながらアムロイ軍の空間近接防御システムの囮となるべく第一波として作戦予定宙域へと出航して行った。そして時間差を設けて第二波の航空打撃任務群、第3波の第869特殊任務群とそれぞれ出航して行く。
今回の作戦、地球人類の命運を担う大作戦ではあるけれど、残念ながら場所が場所だけに、従軍する将兵達は作戦前の休暇を満喫する事は出来ないんだ。第二次世界大戦のネプチューン作戦では、連合軍将兵達は作戦前にイギリス本土で休暇を満喫出来たようだけど。
何と言ってもここは太陽系でも人類領域の最果て、土星宙域。上陸出来る場所なんてイアペトゥス基地くらいなもの。それだって最前線の急増した基地だから皆が楽しめる娯楽施設なんてある筈もない。後は精々が大型輸送船が曳航して来た娯楽設備のコンテナーが多少あるくらいなもの良いかな。
そんな訳なので、私は休暇で上陸なんて淡い夢は早々に諦め、自室(マーベル団長と同室だけど)で過ごす事にした。
とは言え、特にやる事も無くて。精々が読書か手紙を書く事くらいかな。本は少ない手持ち以外でも艦の電子図書館があるから、記録してある膨大なラインナップから読み放題だけど、どうも今一つその気になれないというか。
手紙は母も妹も同じ作戦に参加しているから書きようも出しようもない。他に手紙を書く相手といえば故郷の友達である萌と南、横浜の美奈子叔母さん。でもこの3人には先日書いて出したばかりだ。
そうだ、自分で自分に手紙を書くというのはどうだろうか?現在の自分から過去(15歳)の自分に手紙を書く昔の歌があったような。その反対に現在の自分から未来の自分へ手紙を書くなんていうのは卒業文集とかであるよね。斯く言う私も小学校の卒業文春に「10年後の私へ」なんてものを書いたっけ。
(12歳の私は10年後の自分が土星で異星人相手にお父さんの敵討ちしてるなんて想像もしてなかったな)
確か、あの頃から考古学者になろうと思っていたんだよね。因みにその前は、アイドル歌手、だったかな…
そんな子供の頃のちょっとした黒歴史を思い出してしまったけど、気を取り直して私は携帯端末の日記を開くと、少し考えた後で「私から私へ」と題名を打ち込んだ。
「私から"私"へ
お父さんが戦死してからもう5年が過ぎようとしているね。七海に背中を押されるように思いもかけず軍人に、パイロットになったけど全く後悔はしてないよ。
お父さんの敵であるアムロイ憎しで始めた敵討ちだったけど、敵討ちの意味合いも次第に変わって行ったと思う。初めは単にお父さんを戦死させたアムロイと戦って一人でも多くのアムロイ人を倒すっていう、何というのかな、憎しみという感情の発露的なものだったと思うよ、"私"。
だけど、美奈子叔母さんにお父さんが軍人になった動機を聞いたり、士官学校で仲間が出来て、みんなを、地球を異星人の侵略から守りたいって気持ちが強くなったんだ。
そしてね、"私"。実際に"敵"であるアムロイ人ってびっくりするくらい私達と同じ"人間"だったんだよ。
ウーメリンちゃん達に情が湧いたっていうのもあったけど、トキモさんが言ったように私達地球人類とアムロイ人、戦争ではなくてお互いに手を取り合い共存出来る未来だってあった筈だよ。ねえ"私"、何で戦争なんてしてるんだろうね。
そっちの未来だったらお父さんは戦死する事なんて無くて。私達朝倉家はこれからも家族4人で暮らせていただろうし、そのうち私と七海も結婚して更に家族が増えてさ。そんな未来だってあった筈なのに。本当、何で戦争なんかになってんのよ!
そう思ったら、今のこの状況を作り出し、更に再生産しようとしている奴等が元凶なんじゃないかって、其奴らこそが叩くべき元凶なんじゃないかって私は思ったんだ。
地球を守り、みんなを守り、戦争の元凶を叩く。そして地球人類とアムロイ人達が二度と戦うことの無い未来を作り出す。これこそが私にとってのお父さん敵討ちなんだと結論が出たんだよ。
この戦争もいよいよ大詰め。この作戦の成否によって未来は変わってしまう。成功すれば、多分長い道のりになるだろうけど、地球人類とアムロイ人は手を取り合う事が出来るようになると私は思うんだ。でも失敗したら、この先何十年、もしかしたら何百年と戦争状態が続いて平和が遠のくばかりか、憎しみからどちらかが絶滅するまで戦い続けるなんて事にもならないとも限らないよ。
最初のボタンの掛け違いから始まった地球とアムロイの歴史だけど、サードアロー作戦が成功すればその歪みは時間という薬と双方の努力でまだ正せるはず。
この作戦で私は生きて帰って来れるか、それはわからないけど、もし私が死んでしまったらごめんね、"私"。でもね、男だって女だって命を賭けてやり遂げなくっちゃならない事があるんだよ。今回の作戦が私にとってのそれだって事、"私"ならわかってくれるよね?
私とお母さんで道を開ければ、私達の意思を継いで七海が元凶を倒してくれるはずだから。
だから、行ってくるよ、"私"。私が生きて帰って来たら反省会でもしようね。
それまではさようなら、"私"。今まで有難う、"私"。そして、また会おうね、"私"」
手紙を書き終えて読み返していると、何か遺書のようになってしまっていた。まぁ、私も軍人だから遺書は勿論書いてある訳だけど、書いていたらこうなりましたって感じだ。
「一人で盛り上がっているところ悪いが、お前さん」
不意に野村大尉の声が頭の中に響いた。
「は、はい。大尉、何でしょう?」
「お前さん、俺達の事を忘れちゃいねぇか?お前さんには俺達靖国英霊飛行士倶楽部が着いてるんだ。もっと大きく構えていろ」
ちょっとヘソを曲げた感のある野村大尉の言葉。でも、女の子の手紙を側から読むなんて、ちょっとデリカシーとエチケットに欠けるよね。まっ、そこには触れないでおこう。
「勿論、忘れちゃいませんよ。これは作戦前に自分自身を第三者的に見つめ直し、考えをまとめて、自身の決意を新たにしようって試みなんですから」
「ふん、まぁそれならいいけどな」
「大尉、拗ねないで下さい。頼りにしているんですから」
「なっ、お前!拗ねてなんかねえよ。しかし、お前さんも随分と強かになったもんだな」
「いろいろ経験して、私ももう20歳前の小娘じゃないって事ですよ」
「おぼこが何を言ってやがる。俺から見ればお前さんなんかまだまだ小娘よ」
何か酷い言われようだけど、ここはスルーしておこう。これ以上は藪蛇になりそうだし。
〜・〜・〜
そうして私達の所属する航空打撃任務群も連合艦隊に続いて碇を上げ、衛星イアペトゥス周辺宙域から作戦予定宙域に向けて出航した。
いよいよ作戦開始も間近い。
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